合流
数日後、輝幸と綾子は、喫茶店で皆藤と向かい合っていた。皆藤は、話を聞き終えると、少しだけ笑った。
「面倒な道を、選んだね。」
「わかってます。」
輝幸が言うと、皆藤は笑って言った。
「自分でいうのもなんだけど、一流企業で働いてる俺が、そんな誘いに乗ると思った?」
輝幸は、「やっぱりか…」と思い、言葉に詰まった。
しかし、そんな輝幸とは対照的に綾子は、
「お願い。」
と目をつぶって、顔の前で手を合わせた。
「いゃいゃいゃ‥‥まぁ、綾子ならプロでもやれると思うけど。」
そういうと、皆藤はコーヒーを一口、口に運んだ。
カップを机に置き、考え込む皆藤が口を開くのを、輝幸と綾子は待った。
「ナカジも本当にやるんだな?」
輝幸は、「お前は足手まといだ。」と言われている気がしたが、ひるんでいるわけにはいかなかった。
「やるよ。綾子とも約束したんだ。形振り構っちゃいられない。」
皆藤は、少しの間、黙って輝幸を見つめていた。
輝幸は、「お前はいらない。」とはっきりと告げられるんじゃないかと、内心ビクビクしていた。
次の瞬間、皆藤は軽く頷き、「わかった、やろう。」と言った。
「本当?」
綾子は尋ねた。
「ああ、本当だ。」
皆藤は答えた。
「よかった~~」
綾子が安堵の子をあげた。
輝幸もほっとして、息を吐いた。
「それで、俺は新会社ではどういう立場になるんだ?」
皆藤は綾子に聞いた。
「社長をやって欲しい。」
「社長は綾子がやればいいじゃないか。話題にもなるし。」
「私もそれは考えたけど、私はプレイヤーを全力で楽しみたいの。他のことに割いている時間はないわ。」
答える綾子の目に、迷いはなかった。
「アヤコらしいな。わかったよ。社長は俺がやろう。」
「基本的には面倒な事務仕事や外部交渉は俺がやるが、副社長は、綾子にやってほしい。」
「えぇ~~。」
「外せない予定がかぶるときもあるだろうし、正直、ナカジには任せられん。」
「まぁ、そうか。じゃぁ、ナカジはどうするの?」
綾子の言葉を受けて、皆藤の視線が輝幸に向く。
「……平社員だな。今のナカジには、役職は無理だ。役職者が何かやらかせば、会社としてリスクがでかすぎる。」
「わかった。」
輝幸はそう答えた。自分のこれまでの素行の悪さを考えると。それも仕方ないことだと納得できた。それよりも、この会社で一歩踏み出せることが重要だった。
こうして、三人の小さな事務所がスタートした。
皆藤はこれから用があるといって、先に喫茶店を出ていった。喫茶店から駅へ向かう道、輝幸と綾子は並んで歩いた。輝幸は歩きながら、奇妙な感覚を覚えていた。逃げ場だったはずのお笑いが、いつの間にか、逃げ場のない自分の道になろうとしている。怖さはある。それでも、隣には綾子がいる。後ろには皆藤がいる。その事実が、彼を支えていた。
綾子は歩きながら、チラリと彼を見た。まだ頼りない。すぐ逃げそうでもある。それでも、彼のツッコミなら自分の可能性が広がる気がしていた。きっとこれから大変だろう。彼女は思ったが、それ以上に胸が高まるのを感じた。
卒業して、三年。結果が出るかどうかはわからない。ただ、引き返さないことだけは、もう決まった。こうして、二人の道はようやく一つに重なった。
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