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祈れない聖女は、奇跡を拒んだ ―祈りを一人に押し付ける世界で、彼女は“人として生きる”ことを選んだ  作者: 月岡紬


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第19話 崩れる管理

 神殿の会議室は、かつてないほど騒がしかった。


「各地で、統制不能な祈り反応が発生しています」


「聖女を通さない奇跡など、認められない!」


「だが、事実だ!」


 声が重なり、秩序が失われていく。


 壁に投影された観測図には、無数の細い光点が散らばっていた。

 かつて、すべてが一点に集約されていた場所は、今や空白だ。


「中心が……ない」


 誰かが、呆然と呟いた。


 セリスは、黙ってその図を見ていた。


 否定はできない。

 操作もできない。


 祈りは、神殿の管理を離れ始めている。


「王族はどうお考えですか」


 神官の一人が、視線を向ける。


 列席していた王族の代表は、慎重に言葉を選んだ。


「民の不満は、確実に高まっています」


 聖女が祈らない。

 奇跡が保証されない。


 それだけで、世界は揺らぐ。


「だが同時に」


 王族は続けた。


「聖女が不在でも、即座の崩壊は起きていない」


 ざわめき。


「むしろ……」


 言いよどみ、はっきりと口にする。


「一部の地域では、民同士の結束が強まっている」


 その言葉は、神殿にとって致命的だった。


 祈りを独占する理由が、揺らぐ。


「危険だ」


 神官の一人が叫ぶ。


「統制なき祈りは、暴走を招く!」


「それは、聖女を使い潰すことより危険なのか?」


 王族の返答は、鋭かった。


 沈黙。


 神殿は、“正しさ”で押し切れなくなっている。


 その頃、都市の一角では――


 小さな集まりができていた。


 誰かが、声を上げたわけではない。

 自然と、人が集まった。


「聖女様は、もう祈らないらしい」


「でも、あの人は嘘をついたことがない」


「じゃあ……」


 誰かが、言葉を探す。


「……私たちが、やるしかないんじゃないか」


 簡単な話ではない。

 祈っても、奇跡は保証されない。


 それでも、人は動いた。


 食料を分ける。

 看病をする。

 危険な作業を引き受ける。


 結果は、まちまちだ。


 助からない命もある。

 何も返らないことも多い。


 だが――


 その行為の後、

 時折、ほんの小さな“返り”が起きる。


 神殿の外で、それはもう隠せない現象になりつつあった。


 隔離区画を出た回廊で、アルヴェルトは立ち止まった。


 騎士たちの間でも、噂は広がっている。


「聖女様は、間違っていなかったんじゃないか」


「奇跡がなくても、守れるものはある」


 それは、騎士として危険な考えだった。


 だが、止められない。


 アルヴェルトは、決断を固めつつあった。


 神殿は、もう世界を一枚岩として扱えない。


 管理は、崩れている。


 セリスは、会議室を後にし、一人で歩いた。


 長い回廊。

 神殿という“秩序の象徴”。


 だが今、その秩序は自分の手から滑り落ちている。


「……聖女」


 彼は、低く呟いた。


 彼女が正しかったとは、まだ言えない。

 だが――


 彼女を使い続けることで、

 すべてを保てる時代は終わった。


 その夜、神殿は最終決定を下す。


 強制固定の儀式を、予定より前倒しで実施する。


 成功すれば、祈りは再び集約される。

 失敗すれば――


 もう、言い訳はできない。


 隔離区画で、リーシェはその知らせを聞いた。


 アルヴェルトの表情が、すべてを物語っている。


「……来ましたね」


 静かな声。


「ああ」


 彼は、短く答えた。


 管理は、崩れた。

 だからこそ、彼らは力で縛ろうとする。


 リーシェは、目を閉じた。


 恐怖は、ある。


 だが、それ以上に確かな感覚があった。


 今この瞬間、

 祈りはもう一人のものではない。


 だからこそ――


 ここで終わらせなければならない。


 制度を。

 奪う仕組みを。


 世界が、息を詰めて待っている。


 次に訪れるのは、

 奇跡か、

 完全な終わりか。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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