表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祈れない聖女は、奇跡を拒んだ ―祈りを一人に押し付ける世界で、彼女は“人として生きる”ことを選んだ  作者: 月岡紬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/21

第2話 選ばれた反応

 その日の夜、村に灯りが増えた。


 普段なら、日が落ちれば静まり返るはずの通りに、松明の光が揺れている。ざわめきは抑えきれず、低い声が重なり合っていた。


 リーシェは、嫌な予感を覚えていた。


 ――今日は、終わったはずなのに。


 昼間の出来事は、村にとって「よくある不幸」だった。祈りが届かず、人が死ぬ。誰も口にはしないが、もう珍しい話ではない。


 それでも今夜の空気は違った。


 扉を叩く音がする。


「リーシェ、いるか」


 村長の声だった。

 扉を開けると、彼の背後に見慣れない服装の人々が立っている。


 白を基調とした長衣。胸元には、円環状の紋章。

 神殿の人間だ。


「……何か?」


 声が、わずかに硬くなる。


「王都より神官団が来ている。少し、確認したいことがあるそうだ」


 確認。

 その言葉に、胸の奥が微かに軋んだ。


 拒否する理由はなかった。

 拒否できる立場でもない。


 村の広場には、昼間と同じ神官が立っていた。

 だが今度は人数が違う。中央に立つ壮年の神官を囲むように、数名が控えている。


「この者ですか」


 低く、落ち着いた声。

 視線が、まっすぐリーシェを射抜いた。


「はい。昼の儀式の際、彼女の近くで……妙な反応があったと」


 リーシェは眉をひそめた。


「反応?」


「聖具が、一瞬だけ安定した」


 神官は事実だけを述べるように言った。


「完全な奇跡ではない。だが、途切れなかった」


 ざわり、と周囲が揺れる。


 リーシェは、思わず自分の手を見る。

 何も変わっていない。光も、熱もない。


「偶然です」


 即座に言った。


「祈りの場にいただけです。私が何かしたわけじゃない」


「我々も、そうであってほしいと思っている」


 神官は否定しなかった。

 それが、逆に怖かった。


「だが確認は必要だ」


 彼は合図を送り、聖具が運ばれてくる。

 昼間よりも大きく、複雑な装飾を施された水晶。


「触れるだけでいい」


 リーシェは一歩、後ずさった。


「……何も起きませんよ」


「それでもいい」


 逃げ場はなかった。

 周囲の視線が、彼女を囲んでいる。


 指先が、水晶に触れた。


 その瞬間――


 胸の奥の空白が、広がった。


 音が遠のく。

 視界が白く滲む。


 水晶が、淡く光った。


 強い光ではない。

 奇跡と呼ぶには、あまりに頼りない輝き。


 だが、確かにそこに“続き”があった。


「……」


 神官団が息を呑む。


 昼間、途切れたはずの祈り。

 その“欠けた部分”を、何かが埋めている。


 リーシェは、何も感じていなかった。

 祈っていない。

 願っていない。


 ただ、空白のまま立っている。


 光は数秒で消えた。


 沈黙が落ちる。


 やがて、中央の神官が静かに言った。


「名前を」


「……リーシェです」


「リーシェ。君は、自分が何者か分かっていない」


 それは断定だった。


「だが、この世界は君を必要としている可能性がある」


 胸が、冷えた。


「……それは、どういう意味ですか」


 神官は答えなかった。

 代わりに、こう告げた。


「王都へ来てもらう」


 それは、お願いではなかった。


 村人たちは、ざわめきながらも安堵の色を浮かべている。

 希望を、見つけてしまったからだ。


 リーシェだけが、理解していた。


 これは救いではない。

 選ばれたのではない。


 ――見つかってしまったのだ。


 祈れない自分の、空白を。


 その夜、彼女は眠れなかった。

 胸の奥に残る、あの感覚が消えなかった。


 まるで世界が、

 「次はお前だ」と囁いているようで。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ