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祈れない聖女は、奇跡を拒んだ ―祈りを一人に押し付ける世界で、彼女は“人として生きる”ことを選んだ  作者: 月岡紬


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第18話 祈りの聖源、沈黙を破る

 その夜、音はなかった。


 声も、光も、夢もない。

 ただ、隔離された部屋の中で、リーシェは目を覚ました。


 理由は分からない。

 悪夢を見たわけでもない。


 胸の奥が、静かに――満ちていた。


 これまで、そこには空白があった。

 削られ、奪われ、引き抜かれる感覚。


 だが今は違う。


 何かが、戻ってきている。


「……」


 リーシェは、そっと息を吸った。


 苦しくない。

 重くもない。


 むしろ、自分が“自分の形”に戻っていくような感覚。


 祈りの聖源が、反応している。


 だが、それは呼びかけではなかった。


 ――共鳴。


 こちらが何かを差し出したから、返ってくる。

 命令でも、啓示でもない。


 ただの、反応。


 リーシェは、はっきりと理解した。


 聖源は、何も要求していない。


 祈れとも、救えとも、

 世界を背負えとも言っていない。


 それなのに、人は勝手に役割を作り、

 一人に押し付けてきた。


「……あなたは」


 リーシェは、小さく呟いた。


「ずっと、黙っていたんですね」


 答えはない。


 だが、否定もない。


 それが、答えだった。


 聖源は、沈黙していたのではない。

 選ばなかったのだ。


 誰か一人を。


 隔離区画の外で、異変は続いていた。


 小さな報告が、積み重なる。


看病を続けた末、峠を越えた病人


諦めずに畑を耕し続け、芽吹いた作物


見返りを求めず助け合った夜の静けさ


 どれも、奇跡と呼ぶには弱い。

 だが、確実に「返り」がある。


 神殿の観測図では、線がさらに分散していた。


 中心は、ない。


 聖女を示す一点は、

 もはや特別な輝きを持っていない。


 セリスは、その図を見つめていた。


「……そういうことか」


 低い声。


 祈りの聖源は、

 “媒介”を求めていたのではない。


 循環を求めていた。


 集めれば集めるほど、歪む。

 一点に押し込めれば、壊れる。


 だから、返し始めた。


 奪われていたものを。


 隔離区画で、リーシェは立ち上がった。


 不思議と、恐怖はなかった。


 これまで、ずっと問い続けてきた。


 ――私は、何者なのか。


 答えは、思っていたよりも簡単だった。


「私は、聖女じゃない」


 誰かのために祈ることもできる。

 祈らないことも、選べる。


 それだけの、一人の人間だ。


 だが同時に、分かっている。


 自分が拒んだからこそ、

 祈りは分散し、戻り始めた。


 それは、役割ではない。


 結果だ。


 扉の外で、足音が止まる。


 アルヴェルトの気配。


「……リーシェ」


 低い声。


「神殿が、動く」


 短い言葉の中に、緊張が滲む。


「強制固定の儀式だ。

 聖女を“完全な媒介”にするつもりだ」


 リーシェは、静かに頷いた。


 予想していた。


 管理が崩れ始めたとき、

 彼らが選ぶのは――力ずく。


「……行きましょう」


 リーシェは、そう言った。


「逃げるんじゃありません」


 アルヴェルトが、息を呑む。


「終わらせに行くんです」


 祈りの聖源は、何も言わない。


 だが、リーシェは確信していた。


 今、自分が差し出すのは――


 奇跡ではない。

 命でもない。


 沈黙を破る覚悟だ。


 祈りを奪う制度を、

 ここで終わらせるための。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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