第14話 隔離された聖女
扉が閉まる音は、思っていたよりも静かだった。
重い鉄の音でも、封印の響きでもない。
ただ、厚い木がはまり込む鈍い音。
それだけで、リーシェは理解した。
――ここからは、外ではない。
部屋は広かった。
寝台、机、椅子、窓。
生活に必要なものは、すべて揃っている。
だが、余分なものは何もない。
「聖女様の安全のためです」
付き添いの神官は、そう言って頭を下げた。
「外部との接触は控えていただきますが、
衣食住に不自由はありません」
保護。
その言葉が、檻よりも重く感じられた。
扉が閉じる。
鍵の音。
それで終わりだった。
リーシェは、しばらくその場に立ち尽くしていた。
怒りも、恐怖も、意外なほど湧いてこない。
ただ、静かだった。
窓に近づく。
鉄格子はない。
だが、開かない。
王都の屋根が見える。
人の営みが、変わらず続いている。
――私は、いなくなったのに。
ベッドに腰を下ろし、深く息を吐いた。
胸の奥を探る。
いつもなら、そこにあったはずの感覚――
削られるような、引き抜かれるような痛み。
それが、ない。
「……」
リーシェは、目を見開いた。
祈っていない。
奇跡も起こしていない。
それなのに。
空白は、広がっていなかった。
時間が、ゆっくり流れる。
食事は決まった時間に運ばれ、
神官は必要最低限の会話しかしない。
誰も、祈れとは言わない。
命令も、説得もない。
――祈らせない。
それが、今の神殿の方針だった。
夜。
灯りを落とした部屋で、リーシェは膝を抱えた。
不安がないわけではない。
このまま、忘れられる可能性もある。
だが同時に、確かな感覚があった。
消耗が、止まっている。
それは、救いだった。
扉の向こうで、足音がした。
一瞬、身構える。
だが聞こえてきたのは、低い声だった。
「……リーシェ」
アルヴェルト。
小さく、しかし確かに。
彼は、扉越しに続ける。
「俺は、ここにいる」
胸が、きゅっと縮まる。
「今は、話せない」
「でも」
間を置いて。
「君が祈らない限り、
誰も、君を壊せない」
リーシェは、声を出さなかった。
出せなかった。
それでも、その言葉は胸に届いた。
足音が遠ざかる。
静寂が戻る。
リーシェは、そっと横になった。
祈らない夜。
奇跡のない時間。
それは、不思議なほど穏やかだった。
世界は、今日も完全には救われていない。
だが同時に、
誰か一人が削られることで保たれる均衡は、
ここには存在しなかった。
隔離された聖女。
だがリーシェは、初めて理解していた。
これは、後退ではない。
――準備だ。
奪われない祈りが、
どこかで芽吹くための。
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