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祈れない聖女は、奇跡を拒んだ ―祈りを一人に押し付ける世界で、彼女は“人として生きる”ことを選んだ  作者: 月岡紬


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第11話 代替案の失敗

 それは「善意」として始まった。


 少なくとも、そう説明された。


「聖女様の負担を軽減する試みです」


 神殿の小会議室。

 リーシェは、セリスの言葉を黙って聞いていた。


「祈りの聖源との接続を、複数人で分担する」


 机の上には図面が広げられている。

 円陣の中心に聖女。

 その周囲を、数名の補助媒介者が囲む構図。


「信仰心の高い者を選抜しました」


 セリスは淡々と続ける。


「聖女様が媒介の“核”となり、

 負荷を周囲に流す仕組みです」


 リーシェの胸が、わずかにざわついた。


「……その人たちは」


「志願者だ」


 即答だった。


「自らの意思で、世界のために祈ることを選んだ」


 間違ってはいない。

 強制ではない。


 だが。


「失敗したら、どうなるんですか」


 リーシェは、はっきりと聞いた。


 セリスは、一瞬だけ黙った。


「……前例はない」


 それは、答えではなかった。


 実験は、翌日に行われた。


 場所は神殿の地下、封印された旧儀式場。

 空気が重く、床の紋章は古びている。


 補助媒介として選ばれたのは、三人。


 いずれも若い神官。

 目には、揺るぎない信仰があった。


「光栄です、聖女様」


 一人が、微笑んで言った。


「あなたと共に祈れるなんて」


 リーシェは、何も返せなかった。


 胸の奥で、嫌な予感が広がっていく。


 儀式が始まる。


 円陣。

 詠唱。

 聖具の光。


 いつもと同じ手順――のはずだった。


 だが、途中で異変が起きた。


 空気が、歪む。


 光が、過剰に膨らみ、制御を失いかける。


「……っ!」


 リーシェの胸が、強く締めつけられた。


 いつもとは違う。

 削られる感覚ではない。


 引き剥がされる感覚。


「集中しろ!」


 セリスの声が響く。


 補助媒介の一人が、苦しげに息を吸った。


「な……何かが……」


 次の瞬間。


 一人が、崩れ落ちた。


「停止!」


 叫びが飛ぶ。


 だが、遅かった。


 もう一人が、頭を抱えてうずくまる。


「祈りが……聞こえない……!」


 光が乱れ、床の紋章が砕ける。


 最後の一人が、叫んだ。


「神よ――」


 言葉は、途中で途切れた。


 沈黙。


 光が消え、儀式場に重い静けさが落ちる。


 リーシェは、膝をついていた。


 息が、うまく吸えない。


「……」


 補助媒介たちは、動かない。


 医療班が駆け寄り、必死に処置を始める。


「生きては……いる」


 だが、誰も安堵しなかった。


 その言葉の続きが、分かっていたからだ。


 ――意識が、戻らない。


 感情が、反応しない。


 祈りに対する反応だけが、微かに残っている。


 リーシェは、立ち上がれなかった。


「……これが」


 震える声で、言う。


「負担を軽くする方法ですか」


 セリスは、答えなかった。


 答えられなかった。


 実験は、失敗だった。


 だが同時に、神殿は一つの事実を得た。


 祈りの負荷は、分配できない。


 押し付ける先が変わるだけだ。


 儀式場を出た後、リーシェはアルヴェルトに支えられながら歩いた。


「……私」


 声が、かすれる。


「私が、ここに立たなければ」


「違う」


 アルヴェルトは、強く言った。


「これは、お前の責任じゃない」


 リーシェは、首を振った。


「でも……私が“核”だから」


 その言葉が、すべてだった。


 自分がいる限り、

 誰かが代わりに壊れる。


 それが、この仕組み。


 夜、部屋に戻ったリーシェは、長い間動けなかった。


 胸の奥の空白が、ざらついている。


 ――これ以上、誰かを壊すくらいなら。


 考えが、はっきりと形になる。


 私は、従ってはいけない。


 制度を直すだけでは足りない。

 工夫でも、善意でも、救えない。


 この世界は、

 誰か一人に祈りを押し付けることで、

 均衡を保とうとしている。


 それ自体が、間違っている。


 リーシェは、初めて確信した。


 聖女という仕組みは、

 修正対象ではない。破壊対象だ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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