第9話 訪問者と既視感
ある晴れた日の午後、エーデルガルト大公爵家に、隣国アークランド王国からの使節団が到着した。彼らは友好条約締結のための交渉に来たのだが、クロの視線は使節団の一人に釘付けになった。
全身に重厚な甲冑を纏った護衛の騎士団の中に、やけに顔色の悪い、疲弊しきった男がいた。その顔は、睡眠不足とストレスで完全にやつれており、目の下のクマは、クロの毛皮よりも黒い。
(あの顔は…!)
ステータスウィンドウが一瞬閃く。
《田中 健一》
種族:人間(過労奴隷レベル99)
職業:近衛騎士団副団長
魔力:微弱(全て労働により枯渇)
状態:疲労困憊(致死レベル)、精神崩壊一歩手前
「タナカ……!」
高志の前世の同僚、田中健一。かつて同じプロジェクトで苦楽を共にした彼は、過労死した高志と同じく、異世界に転生していたらしい。だが、彼は「騎士」という、この世界における典型的な「労働職」に就いていた。
クロは、豪華な絨毯の上でくつろぎながら、田中を観察した。田中は、少しでも気を抜くと倒れそうなほど、緊張で全身を硬直させていた。
クロは、田中との再会に複雑な感情を覚えた。
(タナカ……お前も転生したのか。だが、なぜまたそんなブラックな道を選んだんだ。騎士なんて、徹夜で魔物と戦ったり、上司の機嫌取りをしたり。結局、前世と同じじゃないか!)
クロは、自分と田中を比較した。
クロ: 聖務(休息)を行うだけで、魔力を精製し、領地を豊かにする。ストレス値ゼロ。
田中: 命を削る労働で魔力を消費し、その成果は上層部の政治的な駆け引きの道具になる。ストレス値∞。
「にゃあ……(タナカ。お前の頑張りは、全て無駄なんだ。頑張るな。休め。それが唯一の正解なんだ)」
クロは、田中の苦しそうな顔を見ていられなくなり、ふと「癒やし」の聖務を試みようと考えた。




