第7話 大公爵令嬢リーゼリット
クロの重要な「聖務」の一つに、大公爵家の一人娘であるリーゼリット嬢からの「抱擁」があった。リーゼリットは銀色の髪と大きな青い瞳を持つ愛らしい少女で、クロに会うために生まれてきたと言っても過言ではないほど、クロを溺愛していた。
「クロちゃん!今日もたくさん寝てくれたのね!」
午後1時。リーゼリットが駆け足でクロの元へやってくると、クロはまるで高級毛皮の襟巻のように、彼女の腕の中に収まった。リーゼリットの抱擁は、温かく、柔らかく、そして何よりも安定していた。
(これも聖務……これは立派な『抱擁聖務』だ。リーゼリット嬢の体温と魔力は、俺のマナ・コンデンサにとって最高の入力値になる……!)
高志の魂は分析を続けるが、彼の猫の体は、少女の純粋な愛情に身を委ね、極上の眠りに誘われていく。
クロがリーゼリットに抱かれている間、彼のスキル【至高の癒し(エリアヒール)】が自動発動する。このスキルは、クロの体内で精製された無限の魔力を、周囲の生物や土地に優しく循環させる。それはまるで、疲弊した大地に染み込む、清浄な湧き水のようなものだった。
「癒やし」の効果は、まずリーゼリット嬢自身に現れた。彼女は以前、少し繊細で病弱な傾向があったが、クロを抱くようになってからは、病一つしなくなった。
だが、その効果は屋敷全体に及んでいた。
庭園のバラの開花率が200%向上: 枯れかけていた花壇が、一晩で息を吹き返した。
調理人のストレス値激減: 些細なことで怒鳴り合っていた料理長と副料理長が、なぜか穏やかな笑顔で新しいレシピ開発に取り組むようになった。
執務室の書類処理速度が上昇: 大公爵の執務室の空気が澄み、大公爵自身の集中力が劇的に向上した結果だった。
ある日、大公爵領の隣接する子爵家との間で、土地の境界線に関する揉め事が起きた。深刻な事態になるかと危惧されていたが、大公爵と子爵が会談した際、大公爵執務室で待機していたクロの「癒やし」効果が場を包み込んだ。
「うむ……どうも、昨日は寝不足だったようだ。子爵殿、ここは一つ、お互い譲歩してはいかがか」
「はっはっは!大公爵様、私も気分が良く、どうでもよくなってきましたな!この話は、茶でも飲みながら和やかに解決しましょう!」
クロが寝ているだけで、政治問題が解決したのだ。ゼノン執事は、この事態を目の当たりにし、クロへの警備レベルを一段階引き上げた。
「クロ様。お休みになることこそが、最も賢明な外交でございます」




