第4話 最初の労働意欲と挫折
その日、クロは窓際で日光浴の「聖務」に励んでいた。ポカポカとした太陽の光を浴びながら、タカシの魂は心の底から安堵していた。
(最高だ……こんな極上の日光浴、前世では土日に一時間できれば万々歳だった)
しかし、彼の視界の隅で、庭師が重そうな植木鉢を運ぶのに苦労している姿が映った。
(いかん!あの植木鉢は重量に対してキャスターの径が小さすぎる!補助が必要だ!プロジェクト成功のために、リソースを投入せねば!)
長年の社畜経験が、彼の体を突き動かした。
「にゃあ!」
クロは立ち上がり、庭師の手伝いをしようと窓辺から飛び降りた。
その瞬間、ゼノン執事の姿が、瞬間移動したかのようにクロの目の前に現れた。
「いけません、クロ様!」
ゼノンはまるで、爆弾処理班のように慎重かつ迅速にクロを抱き上げた。
「危険でございます!日光浴の『聖務』が、一時中断されました!すぐに再開なさいませ!」
高志は、ゼノンの腕の中でじたばたする。
「にゃあ!にゃああ!(待ってくれ、手伝わせてくれ!)」
「とんでもございません。貴方様の仕事はこの場で温かく眠り続けることでございます。他の者が働く姿を見て、『あ、自分もやらねば』と錯覚なさる。これは、ブラック企業の悪しき慣習による、貴方様の魂に残されたトラウマでございます!」
ゼノンはクロを抱きかかえたまま、日光浴の特等席に戻す。
「トラウマ治療のためにも、本日は午後のお休み時間を一時間延長させていただきます。ご安心ください、クロ様の『無職』の地位は、この屋敷の者が命に代えても守ります」
日光の温かさと、ゼノンの鉄壁の守備に、高志の社畜の魂は完全に打ちのめされた。
(くっ……この世界では、俺の「労働意欲」は、存在自体がバグなのか)
しかし、不思議と彼の心は軽かった。誰からも必要とされなかった「働く高志」ではなく、「存在そのもの」が全てを支えるクロとして生きる道。
彼は目を細め、日光の温かさに身を委ねた。
(にゃん……)
永久不労の祝福の下、クロはゆっくりと眠りについた。彼の体内から溢れ出た魔力が、窓ガラスを通して大公爵領の空へと溶け込んでいくのが微かに感じられた。




