第3話 執事ゼノンと戯れる
高志がステータスウィンドウを凝視していると、静かにドアが開き、老練な執事が入室してきた。
「クロ様。お目覚めになられましたか」
彼の名はゼノン。エーデルガルト大公爵家を半世紀支えてきた、専属執事だ。その表情は厳格だが、クロを見る目には、深い畏敬と愛情が宿っている。
ゼノンは音もなく近づき、用意された純銀の皿をクロの前に置いた。皿の上には、丁寧に骨が取り除かれた高級魚のグリルが乗っている。
「失礼ながら、本日のクロ様のスケジュールを確認させていただきます」
ゼノンは懐から小さな手帳を取り出し、読み上げる。
午前9:00~12:00: 窓際での日光浴(聖務:初期マナ精製フェーズ)
12:00~13:00: 昼食(聖務:栄養と魔力の補充)
13:00~17:00: リーゼリット嬢の抱擁(聖務:至高の癒し・自動発動フェーズ)
17:00~: 自由時間(聖務:毛繕いおよび休息)
高志は、そのスケジュールを見て絶句した。すべてが「休息」と「睡眠」と「食事」で埋まっている。そして、それらはすべて「聖務」と呼ばれている。
「にゃ、にゃあ……(あの、ゼノンさん。午前に、少しでも庭師さんの手伝いとか…掃除の手伝いとかは…)」
ゼノンはピシャリと手帳を閉じた。その瞳は、厳しい光を宿している。
「クロ様。そのようなことを口にされるのは、二度とご容赦ください」
「にゃっ!?」
「貴方様は、このエーデルガルト大公爵家の、ひいてはエルドラム王国の魔力均衡を保つ、最も重要な存在でございます。【永久不労の祝福】が発動している間、貴方様が休息すればするほど、領地の魔力が浄化され、豊穣がもたらされるのです」
ゼノンは一歩踏み込み、囁くように続けた。
「もし、万が一にも、貴方様が『労働』という名の魔力収束妨害行為をなさった場合、その日のエーデルガルト大公爵領の収穫高は落ち込み、王国のマナ効率が低下します。つまり、クロ様の無為な休息こそが、この国の最優先事項なのです。余計なことは、何一つなさらないでください。それが、貴方様の唯一の『仕事』です」




