第11話 クロは永遠に働かない
クロがエーデルガルト大公爵家で安寧を貪っていたある日、王国全土を揺るがす危機が訪れた。
「マナ・ウェルが……枯渇しているだと!?」
大公爵は青ざめた表情で、王都からの緊急報せを読んでいた。エルドラム王国の中央魔力源である「王都マナ・ウェル」の魔力レベルが、数日間で急激に低下。このままでは、王都の魔力バリアが崩壊し、魔物たちの侵入を許してしまう。
王宮の魔法使いたちは、この危機を乗り切る唯一の方法として、「エーデルガルト大公爵家の聖夜の黒猫、クロの能動的な魔力行使」を提案した。
「クロの魔力は無限。これを直接、マナ・ウェルに注入すれば、一瞬で危機を脱せる!」
大公爵家に、王宮魔導士団の筆頭、ゾルダンが血相を変えて駆け込んできた。
「ゼノン執事!至急、クロ様を王都へ!我々の計算によれば、クロ様が一度でも全力で魔力を放出すれば、数十年は安定します!」
ゼノンは、ゾルダン筆頭魔導士の前に立ちはだかった。その威圧感は、歴戦の騎士を思わせた。
「お断りいたします、ゾルダン様」
「な、何を言っている!これは王国の存亡に関わるのだぞ!?」
「存亡を救うために、未来を潰すおつもりですか?」
ゼノンは冷静に、そして厳かに告げた。
「クロ様が能動的に魔力を行使することは、固有スキル【永久不労の祝福】の制約違反にあたります。その場合、スキルは停止し、魔力精製効率は最低レベルにまで落ち込みます。一時の安定のために、クロ様を『労働』させ、永続的なマナ回復のサイクルを自ら破壊するなど、愚の骨頂です」
「だが、今すぐ魔力が必要なのだ!」
その時、6歳のリーゼリット嬢が、眠っているクロを抱きかかえながら前に出た。
「だめよ、ゾルダン様。クロちゃんは、お昼寝が一番大事な、聖務なの」
リーゼリットの純粋で強い瞳に、ゾルダンはたじろいだ。
「クロちゃんが、無理やり働かされたら、二度と安らげなくなっちゃう。そうなったら、私たちの領地も、王国も、ずっと病気になっちゃうわ」
大公爵もまた、娘と執事の言葉に頷いた。
「筆頭魔導士。クロは動かさない。我々は、クロの『休息』という名のパッシブな聖務に全てを賭ける」




