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第1話 残業の果てに、死す
高志、38歳。都内のIT企業でシステムエンジニアとして働く彼は、この日、ついに限界を超えた。
徹夜は当たり前、昼食はデスクで流し込むエナジージェル。残業時間は月180時間を軽々と超え、彼の血液はカフェインと栄養ドリンクの濃縮液と化していた。最後のプロジェクト、それは納期まで残りわずか三日という絶望的なスケジュールで、難解なバグを修正するというものだった。
「あと、この配列の処理だけ……」
高志はキーボードに指を置いたまま、ガクンと首を折った。目の前のディスプレイに映るコードの文字列が、宇宙の星のように遠ざかっていく。冷たいガラス面に額を押し付けたのが、彼の人間としての最後の記憶だった。
彼のデスクには、「残業禁止」と書かれた啓発ポスターが貼られていたが、その下に積み重なった栄養ドリンクの空き瓶のピラミッドが、そのポスターを嘲笑しているかのようだった。
「せめて、次の人生は、何もしなくていい猫にでもなりたい」
それが、高志の切なる、そして叶えられた最期の願いだった。




