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部下を拾った月曜日

作者: 葉桜 笛
掲載日:2025/11/09

 残業ばかりの日が続いていたけど、今日は珍しく定時にあがれた。

 せっかくなので、通勤用の歩きやすい服を買う。

 上機嫌で百貨店から出れば、大きな声が聞こえてきた。




「二股だったのかよ!!!」




 街なかで、痴話喧嘩ちわげんか!?

 キョロキョロと首を振って声の主を探せば



 鴨巣かもす君!!



 長身で少し細身の体。

 前髪を右から左に流した、爽やかイケメン!

 お盆休みに海へ行って日焼けしたと言っていた、同じ会社の後輩の鴨巣君が人混みの向こうに見える!!



「やめて! 彼は悪くないの。

 悪いのは私なの······。

 落ち込んだ時に近くにいてくれて……それで、それで私!!」


「はぁ!?

 一緒に住んでた俺より近いって、どういうことだよ!?」



 聞いてりゃホント、何なんでしょね……。

 一緒に住んでた人より近いって……同じ職場の人ですかね。

 彼女が浮気したッポイけど、鴨巣君、同棲どうせいしてたの?



「っていうか、いつ落ち込んだんだよ。

 いつも"一緒にいられるだけで今日も幸せ"って言ってただろ!?」


「彼氏のお前は残業ばかりで、家に帰るのはいつも深夜だったそうじゃないか!

 彼女はそんなお前に気を使って、相談できなかったんだよ!!」


「それでコイツに乗り換えたのか!!」


「やめて! 彼は悪くないの!!

 悪いのは全て私なのよぉ……!!」



 彼女は泣き崩れた。

 さっきからしきりに"私が悪いの"と彼をかばって言っているように見えるけど……本当に彼女が悪いのだろうと私は思った。


 あれは新しい男への点数稼ぎね。


 でもここで私が突然とつぜん入って、それを言っても余計よけいなお世話せわなんだろうな。

 話を盗み聞きしながら、私は人混ひとごみの中をまっすぐ3人に向かって歩いてきた。


 けど、何て言おう?

 ……見なかった事にして帰ろうかな?

 でも、7才年下の会社の後輩を見捨てる事になるのはどうだろう? いい子なんだよね……。


 鴨巣君。

 仕事が出来て、会社では皆の憧れの王子様なのに、ここでは彼女を取られた可哀想な男になってる。

 普段の鴨巣君を、ここにいる皆に見せてあげたい。

 彼、カッコイイのよ。

 顔だけじゃなく、行動も。


 でも、私が出ても何を言っていいかわからないし、鴨巣君のプライドが傷つくだけだろうし……と考えていたら……



 どーん! と、私は3人の前に登場した。



 目の前には、鴨巣君と、泣き崩れてる彼女と、その彼女の肩を抱いて支えている彼女の新しい男。



 "は? ……何?"



 という空気が漂っている。

 私が警察官だったら「こらこら、道の真ん中で何してるの?」とか言えるのに!


 言葉が出てこない。

 かろうじて息を少しずつ吸うのが精一杯せいいっぱい

 恋愛と縁の無い私にはこういう状況じょうきょう苦手。

 くどくど話すと逆に聞いてもらえないから、短く、短く言うのよ。

 さ、顔を上げて意思を強く持って!



「……邪魔」



 ここで騒いでいると、通行人の邪魔になるわ。

 こんな話、もう終わりにした方が良いと思うの。

 鴨巣君がどう頑張ろうと、彼女、別れる意志が強いのでしょう?


 ね、解散しましょ? そうしましょ?

 鴨巣君が可哀想よ。

 後日ゆっくり落ち着いて話し合いなさいよ。


 そんな思いを込めて言ったのだけどどうかしら?

 伝わったかしら?


 少しの間があって、新しい男の方が彼女に声をかけた。



「行こうぜ」

「……う、うん」



 "ごめんね……"

 と小さな声で彼女は呟いて、2人は人混みをかき分けさっていった。

 良かった。私の意図が伝わったらしい。



「何なんだよ.....」と鴨巣君は呟いて下を向いてしまった。

 泣きそうなのに、泣かないのが男の子だなと思う。

 敬語じゃない鴨巣君って知らない人みたい。

 ま、会社じゃないから当たり前なのだけど。


 私は鞄から、通勤時にかぶっている帽子ぼうしを出して、鴨巣君に被せた。涙が出ようが出まいが、今はどこかにかくれたいかなと思って。


 そして、私は静かに立ちろう。

 沢山たくさんいた野次馬やじうまも、話が終わったらしいと解散を始めている。

 私も、立ち去ろう。

 一駅先の駅に向かって歩き出した……ら、



 鴨巣君が着いてくる!

 なぜ?!



 話を聞いてほしいのかしら?

 そっか、人に話せば楽になるよね。

 人目を気にせず話が出来る所。



「そこのカラオケで話を聞くわ」



 コクリとうなずく鴨巣君。

 近くのカラオケの部屋に入り、ドリンクを注文してから「話を聞きましょう」と鴨巣かもす君に言ったら、私が帽子をかぶせたままの格好かっこう行儀ぎょぎよく椅子いすに座り、静かに話し始めた。



「言い訳はありません。

 初めて会ったその日に、ちょっと早いバレンタインチョコをもらった時点で、何か変だと気付くべきでした」



なんて、なんて返せば良いの?!

私は誰かの相談にのるとか苦手なのよ!!



「……そうなんだ。

 チョコもらったら嬉しいよね」



 鴨巣君はさわやか王子様(ふう)で、ハニートラップには引っ掛かりそうにないのにだまされたぐらいだから、そうとう演技力の高い子なのだろう。



「……はい。

 "偶然チョコ持ってた"と言われ、何か運命を感じてしまいました……」



  切なそうにそう言ったあと、鴨巣君はぎゅっとこぶしにぎりしめて言った。



寿比ことい先輩!

 おろかな僕を存分ぞんぶんしかって下さい!!」






 突然のマゾ発言!?






「鴨巣君は変態なの!?」



 しまった!

 思わず聞き返してしまった!!

 鴨巣君は青い顔をしている。



「寿比先輩は、僕にお説教するためにここに連れてきたのではないですか!?」


「え!? 何で私がお説教するの!?」


「先輩の行く先をふさいで、邪魔をしたからです。

 "私が歩くのを邪魔したばかりか、醜態しゅうたいをさらすなんて会社のはじさらし"と僕にお説教をするつもりで、カラオケに連れてきたのでしょう?」



 泣きそうになる鴨巣君。

誤解ごかいにもほどがある。

 いったい鴨巣君の中で私はどうなっているの?

 私はあわてた。



「違うわよ!

 鴨巣君が何故かついてくるから、話を聞いてほしいのだと思ったのよ」


「えぇ!?

 あの時の話の流れと、先輩の背中が『ついてこい!』と言ってるように見えたから、自然な流れで着いてきました……」


「どこの格闘漫画のキャラよ!」


「だって『邪魔!』と言いはなったあの迫力はくりょくは、その場にいた全員の時を止めましたよ!?」



 青ざめながらも必死にうったえてくる鴨巣君。

 私はもうなげかずにはいられない。



「勇気を出して言ったのよ~!!

 "部外者が口を出すなと言われたらどうしよう"って思ってたのよ!!」



 私はえきれず両手で顔をおおい、うつむいた。



 なんという誤解!

 私は鴨巣君の中で鬼のような先輩らしい。

 となると、会社の人達にも誤解されてる予感がする。


 明日会社で普通でいられるだろうか?

 誤解されてるか気になって、仕事が手につかなさそう……。



 鴨巣君はうなだれた。



「はぁ……僕はカッコ悪いですね。

 運命だと思った相手に振られる所を見られ、寿比先輩の事を変に誤解して……恥ずかしいです……恥ずかしすぎる」



  え? そこで鴨巣君が落ち込むの?!

 鴨巣君が泣きそうになってふさぎこむので、思わずさけんでしまった。




「カッコ悪くはないでござる!!」


「.......え? ござ······る?」



 驚きを隠せない鴨巣君。

 私は構わず続けた。



「よいでござるか?

 失恋はたんなる人生経験であって、恥ずかしい事ではないでござる! ただ"合わなかった"それだけでござる。

 拙者せっしゃの事を誤解してしまったのも、拙者の口数が少ないのでしょうがない。

 誰にだって、ずかしいことの1つや2つあるでござるよ。拙者は本音を話すとき、ござる口調になるので、普段はそれを必死にかくしているでござる。

 お互いに恥ずかしい事をさらしたので、鴨巣殿と拙者はこれで対等でござる 」



 ぐぬぬ……強烈過ぎたかしら?

 引かれるかしら?

 でも、高校生の時オタク仲間とふざけてたら、興奮したら“ござる口調"っていうのが予想外に馴染なじんでしまって、これは本当の話なのよ――――!!!!



 心の中でなげく私。


 鴨巣君はしばらくほうけた後、突然ニコっと笑って言った。



「僕、スーツ着て女性もののチューリップがた帽子ぼうしかぶってたんですね。

 ははは。変なかっこう。

 先輩は変なしゃべり方。

 僕と先輩は対等なんですね」



 強がって笑っているようにも、ふとわれに返ったようにも見える。



「 先輩!

 ござる口調……僕を気遣ってくれて、ありがとうございます」


「ドウイタシマシテ」



 恥ずかしながらも、いちおう返事した。

 気を使って、ござる口調のフリをしたわけではない。これが普段の私です。

 でも、あなたが〔心優しい先輩〕と思うなら、そういうことにしておこう。




「寿比先輩。ちょっと言いにくいのですが..

 僕、彼女と同棲してたので……今日帰る所が無いんです。

 先輩……泊めていただけませんか?」


「え……いいですけど、廊下で寝て下さいね」






 これが私と彼のつき合い始めるきっかけ。

 出合いって本当に不思議。










最後までお読みくださりありがとうございました!


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