魔神の3つの扉
ここは、銀河系の宇宙空間、地球から誘拐されてきた男は、仮面をかぶった兵隊たちに両腕を掴まれ、黄金の椅子に座った魔神の前に立たされた。
魔神は鋭い眼光で男を見下ろし、
「お前の命など、虫けらも同然だ。だが、あえて、お前に選択の権利を与えよう」
そして、部屋にある、金属の装飾模様のついた3つの扉を示した。
「この3つの扉のどれか一つを開けると美女と脱出用の宇宙挺が用意されている、しかし残りの2つの扉を開けると人間を好物とする人喰い怪物と、底無しの異次元の井戸が待っている。どれを選ぶかはお前の自由だ」
と、説明した。
男は少しの間考えていたが、決心すると、一番右の扉のノブを廻して開けた。そこは白くぼんやりとした空間で、上空の闇の中に見渡す限り星がきらめいていた。
微笑む半裸の美女と宇宙挺が見えた。
男は美女の手を握って宇宙挺に乗せると魔神を見てニヤリと笑った。魔神は動揺して、
「……なぜだ?…… 」
「あんたは力のある魔神かもしれない。俺がどの扉を開けても怪物か底無しの井戸が現れるしかけを用意するのは朝飯前だろう。だから、俺は自分の思いを確信することにしたんだ。この扉こそ美女と宇宙挺に通じてる筈だ、とね。あんたは俺を怪物の餌にすることなど、たやすい作業だった筈だ。だが、ルールを設定し、俺に選択の権利を与えたことで問題を魔力ではなく、三分の一の確率論の話に移行させてしまった……」
男は、続けて、
「その時点であんたをつつんでいた魔力は消え失せたんだ」
そこまで言うと男は宇宙挺のコクピットに乗り込み、エンジンをスタートさせた。
キャノピーの閉まる直前、男はアデュー、と魔神に告げた。機体は漆黒の宇宙空間に飛び出して、消え去った。
黄金の椅子に座った魔神は泥人形に変化し、その場で跡形もなく崩れて消滅した。