第八話「近藤の涙、主将の器」
決勝前夜。
旅館の一室。静まり返る部屋に、青山シンジはひとり、捕手ミットを握り締めていた。
「……なんで、あのときカイを止めてやれなかったんだ」
自責の念。冷静な参謀・宮田タクマにすら相談せず、ハヤトの好投に救われた準決勝。
だがそれは“主将”としての決断ではなかった。
夜中、青山は夢を見る。
淡い光の中、近藤勇の姿が現れる。
「お前は、良い奴すぎるんだよ、青山」
「けどな、チームってのは、戦だ。仲間を信じる以上に、時に傷つける決断も必要だ」
青山は問い返す。「それが主将の器なのか?」
近藤は笑ってうなずく。「そうだ。俺も何度も泣いたよ。あの時代もな」
その目から、ひとすじの涙が落ちる。
翌朝、旅館の玄関に青山が全員を呼び集める。
「みんな。今日は俺が決める。エースはカイでいく。だけど――」
「もしまた迷ったら、俺が代える。それが俺の責任だ」
「俺が主将として、勝ちを取りにいく」
静かに、しかし力強く響く宣言に、部員たちはうなずく。
瑞鳳、決勝のグラウンドへ。
観客席は満員。相手は“私学の王者”帝陽学園。
巨大戦力を誇り、全国の注目を集めるスター軍団。
実況も騒がしい。「さあ、いよいよ決勝! 注目は瑞鳳のエース・木下カイ!」
マウンドに向かうカイ。その後ろから、キャッチャー・青山が近づく。
「カイ。逃げんなよ。俺がお前の背中、支えてやるから」
カイが短くうなずき、ふたりはバッテリーを組む。
そして、決勝戦が幕を開ける。