第七話「暴力的カリスマ」
準決勝。相手は昨年度準優勝・西条学院。
冷静沈着な強豪校として知られ、選手たちは一切の感情を表に出さない。観客ですら圧倒され、静まり返るスタジアム。
「……戦術は完璧だ。なのに、なぜか寒気がする」
宮田タクマは、試合前の西条ベンチに「人間味の欠如」を感じ取っていた。
試合開始。初回、瑞鳳は守備につく。
マウンドには木下カイ。しかしその投球は、明らかにおかしかった。
「ストライク……ボール、ボール……フルカウント!」
フォームに迷いが生じ、球が浮き、制球が定まらない。
(昨日の迷いが……まだ頭に残ってやがる)
ベンチの青山シンジが声をかける。「カイ、呼吸だ!落ち着け!」
だが、声も届かず、四球、ヒット、タイムリーで初回に2失点。
「チェンジだ、カイ。誰かイケるか?」 松平監督の声が低く、冷静だった。
うなだれてマウンドを降りるカイ。その背中に誰もが言葉を失う中、
ひとりだけ、立ち上がる男がいた。
「俺が代わるぜ」
加藤ハヤト。背番号8、普段は中堅手。
野球部一の不良と噂され、誰よりも荒々しく、孤立していた存在。
「おい、へなちょこエース。安心して見てろ。あとは俺がやる」
一回裏、マウンドに立つハヤト。 風格が違った。
「……行くぞ。芹沢。暴れようぜ」
彼の中で、芹沢鴨の魂が蠢く。
(黙って見てられるかよ……見せてやれ、“鬼”ってやつを)
直球オンリーの投球。
球速は並だが、制球とキレが鋭すぎる。
「ズバンッ!」
キャッチャーミットが爆ぜる音に、場内が一瞬で飲まれる。
「ストライクバッターアウトォ!」
三者連続三振。
西条学院ベンチも静かではいられなかった。
五回まで無失点。瑞鳳打線も応え、ついに同点に。
そして六回、ハヤトの投球に押され、西条学院主将がとうとう叫ぶ。
「なんで……お前ら、あんな楽しそうに野球してんだよッ!!」
感情を排し、勝利至上で築いてきた“機械のような強豪”の仮面が崩れる。
「だからお前ら、脆いんだよ。魂のねぇ野球なんざ、怖くもねぇ!!」
投じられた一球が、鋭くミットに突き刺さる。
試合終盤。カイはセンターから静かにマウンドを見つめる。
「……悔しいけど、すげぇわ。あいつ」
7-5で勝利。ハヤトは拳を控えめに掲げた。
その背中に、誰もが確かに“もうひとつのリーダー”の存在を感じていた。
「おい、へなちょこピッチャー。次お前が弱いところ見せたら俺が食っちまうからな」