第二十話「誇りの系譜」
甲子園・準決勝。スタンドは異様な熱気に包まれていた。
瑞鳳高校の対戦相手は、東北の雄、会津高校。かつて松平悠守監督が率いていた、鉄壁の守備と礼節を重んじる堅実なチームだ。
「松平さん……あんた、本当にこのカードを望んでたのか?」
ベンチで小さく呟いたのは、青山シンジだった。普段は明るい彼の表情が、今日はどこか張り詰めている。
「かつての教え子たちと、今のチームがぶつかる。皮肉なもんだな」
木下カイは黙ってキャップを深くかぶった。
試合前、会津高校の主将・佐々木廉が整列の際に深々と一礼した。相手への敬意。そこには、かつて松平監督が教えた「誇り」が色濃く残っていた。
一回表、瑞鳳の攻撃。カイの打球は痛烈なライナーとなって三遊間を破った――かに見えた。
「……止められた!?」
会津高校の遊撃手・早乙女レンが、信じられない反応で打球を掴み、鮮やかなジャンプスローでアウトを奪う。
その一手に、スタンドがどよめいた。
「さすが……“白虎の継承者”だ」
谷口ケイジが舌を巻く。
一回裏、会津高校の攻撃。先発はカイ。
だが、会津打線は彼の速球に対しても一切動じない。淡々とボールを見極め、フルカウントに追い込んでから打ち返してくる。
カイは構え直し、魂のストレートを投げ込む。
――打球は、センターへ一直線。
抜けたかと思われた瞬間、加藤ハヤトが驚異的な反応で飛び込み、キャッチ!
「ようやく、俺の野球ができるようになってきたぜ」
芹沢の霊を乗り越え、自らの道を掴んだ男のプレーに、仲間たちが一斉に沸いた。
試合は、互いに点を許さない一進一退の展開。
三回表。神谷ハヤトがバントヒットで出塁し、続く宮田タクマの鋭いスリーバントで進塁。二死二塁のチャンスで打席には吉岡ユウタ。
「どちらが“意志”を受け継いでいるか、今ここで決まる!」
実況の声がスタンドに響く中――吉岡の打球は、右中間を深々と破った!
ハヤトが一気にホームイン。瑞鳳高校、先制!
その後も試合は緊迫を極めたが、七回裏に再びカイがピンチを背負う。
二死満塁。
マウンドで青山と目を合わせた瞬間、二人の間に流れたのは言葉ではない“確信”だった。
「勝てるかどうかじゃない。信じた球を投げるだけだ」
青山のミットが、力強く内角を示す。
振りかぶったカイが放ったストレート――
バットは空を切った。
三振。吠えるカイ。吠える青山。
ベンチで、松平監督がそっと帽子を取った。
「……ありがとう。会津」
九回、神谷の再びのバント、谷口の粘り強い打撃でダメ押しの1点を加え、2-0。
最後の打者を内野ゴロに抑えた瞬間、カイは天を仰いだ。
スタンドに向かって、会津の主将が深く頭を下げる。
試合後、控室での一言。
「決勝の相手は……山口長州商業だ」
静まり返る中、誰かが息を呑んだ。
魂と魂。維新の因縁。ついに、すべてが交わる時が来た。




