第十七話「魂、ぶつかり合う」
灼けるような陽射しのもと、満員のスタンドが騒然とする。県予選・決勝戦。瑞鳳高校対薩摩実業。その名を耳にするだけで、観客も記者も、少し背筋を伸ばす。
円陣を組む瑞鳳ナイン。キャッチャーミットを叩く音と、土を蹴るスパイクの音が静かに鳴る。その中央で、カイが口を開いた。
「いいか、忘れんなよ。ここに来たのは、俺たちが“誰かに憑かれた”からじゃない。自分の足で、ここまで来たんだ」
軽く拳を突き上げる。仲間たちがうなずく。誰ももう、霊に頼っていない。それぞれが、それぞれの“誠”を持って、ここに立っている。
対する薩摩実業のベンチは静かだった。整然と整列し、まるで兵士のような風格。エース黒木は、ベンチから出てきても一言も発さず、ただ黙々とブルペンへ向かう。彼の投球には“命令”のような重みがある。捕手のミットに突き刺さる音が、場内の空気を引き締めた。
一進一退の攻防
試合は、投手戦の様相を呈して始まった。カイは丁寧に低めを突き、スライダーで翻弄する。黒木は直球で押し切る剛の者。
三回裏、瑞鳳の攻撃。ハヤトが内野安打で出塁。すかさず盗塁。打席に立つのは、ユウタ。
「俺たちは前しか見ねぇ。行くぞ」
低めの球を強引に引っ張り、レフト線を破るタイムリー。1点先制。ベンチが沸いた。だがその直後、薩摩も黙ってはいない。
四回表、薩摩の4番・成瀬大伍が一閃。内角高めのストレートを捉え、ライトスタンドへ。すぐさま1-1の同点。互いに一歩も譲らぬ死闘。
終盤、鼓動は加速する
六回裏、谷口がフルスイング。芯を食った打球が外野の頭上を越え、二塁打。次打者・西が送り、1アウト三塁。
ここでタクマ。
「データだけじゃねえ。勝負ってのは、心で読むもんだ」
バットを短く持ち、カットしながら粘る。九球目――黒木の一瞬のタイミングのズレを見逃さず、センター前に運ぶ。2-1。再びリード。
だが、八回表。薩摩の執念が牙をむく。
連打とエラーでノーアウト満塁。場内が騒然とする中、マウンドのカイは一歩も引かない。
「怖いか?」とタクマ。
「怖ぇよ。でも、それ以上に――燃えてる」
まずは三振。続いて、ショートフライ。そして最後の打者を、渾身のストレートで見逃し三振。
ベンチが総立ち。甲子園の扉が、ぐっと近づいた。
九回表、最後の勝負
点差は1点。薩摩最後の攻撃、先頭打者が四球。二番が送って一死二塁。
打席にはエース黒木。沈黙の豪腕は、ここぞとばかりにバットを手にした。
「投げろ、木下カイ。全力で来い」
その言葉に、カイは応えた。魂を乗せたストレート。初球――空振り。二球目――ボール。三球目――ファウル。四球目――渾身のインハイ。
カキン!
打球は鋭く三塁線を襲う――
「止めるよォォォッ!!」
ケイジが飛びつき、土煙を上げながら捕球。立ち上がって、一塁へ送球。
アウト!
最後の打者も、サードゴロ。
試合終了の瞬間、歓声が爆発した。
勝利、そしてその先へ
スコアボードに「2-1」が刻まれる。瑞鳳、初の甲子園出場決定。
整列後、黒木がカイに歩み寄る。
「お前……憑いてたんじゃねぇのか?」
「いや、もう“自分”で戦ってる。土方の意志も、今は俺の中にある。だが俺は……木下カイだ」
黒木がわずかに笑い、背を向ける。
「そっか。俺たちはただ委ねてしまったんだな。また戦おう。」
それは、再戦の誓いだった。
そして、スタンドに向けてカイが叫ぶ。
「俺たちがやったぞ! 甲子園に……行くぞぉぉお!!」
歓声が、夏の空を突き抜けた。




