第十四話「長州、来襲。機械仕掛けの革命児たち」
快晴の土曜日。異様な存在感を放つ大型バスが静かに停車した。
「山口長州商業、到着しました!」
ジャージ姿の引率教員が告げると、バスからは全員同じ動きで降り立つ選手たち。ピシリと揃った一挙手一投足に、迎えるこちらの部員たちも思わず息をのむ。
「おい……なんだあれ。戦隊モノかよ」
「いや、見ろ。アイツら、全員メガネに変なパネルついてないか?」
一同がざわつく中、監督・松平悠守が淡々と語る。
「彼らは山口長州商業。工業系の進学校だが、野球部はとある研究所と連携しており、AIや統計学を取り入れた“維新野球”を実践しているらしい」
「AI……だと?」
データグラスをつけ、バッテリーのコンディション、スイング速度、風速までリアルタイムで解析。まるで“未来”の野球部。そう呼ぶしかない。
試合はすぐに始まった。
初回から、こちらは圧倒された。
山口長州商業のピッチャーは無駄のないフォーム。AIによる解析で、最適な角度・タイミングを完璧に叩き込んでいるらしく、投球は常に安定している。
バッターはバッターで、いずれも「パームアップ打法」。インパクト時に手のひらを上向きに保ち、球の押し込みと弾き返しを最大化する近年の打撃理論に基づいたスイング。だが、フォームだけではない。打席前に全員がデータグラスを調整し、カイのピッチングの「傾向」を確認してから構えている。
「おいおい……野球ってのは、こんな情報戦になってんのかよ……」
三回表、最も衝撃を受けたのは四番打者・高井レイの登場だった。
「なんだ……あのバット……」
観客席の誰かが呟いた。高井が手にしていたのは、通常のバットとはまったく形状の異なるものだった。
「魚雷バット」
グリップ側に極端な重心があり、しなりと復元力によってインパクト時のスピードと弾き飛ばす力を倍加する設計。打撃というより、“発射”に近い。
振ったというより、押し出した打球は一直線に左中間を破り、フェンス直撃のタイムリーツーベース。
「……もう、漫画だろこれ」
それでも、カイはベンチで不敵に笑っていた。
「こういう相手、嫌いじゃねぇな。俺たちの“魂の野球”と、どっちが上か試すには最高の相手だ」
その言葉に、ベンチの空気が変わる。
西が俊足を活かし、データでは予測不能な意表のセーフティバント。
神谷がセンター前に落ちそうな打球を背面ジャンプで捕球。
吉岡のフルスイングがフェンスを直撃、追加点を返す。
一人一人が、数字では割り切れない“情熱”をプレーに宿していく。
最終回。二死満塁で、バッターはカイ。
「勝ち越しのチャンス……!」
渾身のスイング。
打球は鋭く左中間へ。
……だが、そこにはAIが予測した「最適守備位置」にいた外野手が待ち構えていた。
超反応。ダイビングキャッチ。
スリーアウト。
試合終了。同点。
静寂の中、整列。
高井レイがゆっくりと近づき、カイに手を差し出した。
「面白いチームだな。理詰めの俺たちがここまで苦戦するとは思わなかった。甲子園で決着をつけよう。……同志」
一瞬、彼の背後に高杉晋作の幻影が見えた気がした。
カイは笑って握手を返す。
「上等だ。こっちも、お前らに負ける気はさらさらねぇ」
———
夕暮れのグラウンド。
試合は引き分け。だが、それ以上の何かが確かに得られた。