第十二話「揺らぐ絆と誠の在処」
新入生が加わった。
夏の予選に向けた再始動。だが、そこには思わぬ軋轢があった。
彼らは気づいていた。
上級生たちの中に、何か“異質なもの”があることを。
青山の穏やかさの奥にある、異常な統率力。
神谷の俊敏な動きに宿る、剣のような鋭さ。
そして木下カイ――彼の言葉には、時おり若者とは思えぬ覚悟が滲んでいた。
そんな中、ある日、加藤ハヤトが後輩に買い出しを命じていた。
ただの先輩風ではない。まるで“子分”のような扱いだった。
その場面を見たカイが新入生に声をかけた。
「加藤に命令されたのか?」
「いや、、、え、、、え、、っと」
芹沢鴨――
加藤に宿る、最も“荒くれた”新撰組の魂。
だがそれは、他の者たちのように“表層に出る”ことが少ない。
なぜなら、加藤自身の性格が芹沢とあまりにも似ていたからだ。
共鳴は、完璧だった。
だからこそ、加藤が何かに“取り憑かれている”ようには見えなかった。
その晩、グラウンド裏の倉庫で、カイが加藤と向き合う。
「加藤。お前、あの新入生に買い出し行かせてただろ」
「だからなんだよ。それが先輩後輩の関係だろ」
「新入生の目、見たか?完全に“ビビってる”じゃねぇか」
「お前知ってるか?新入生たちはお前らにもビビってるんだよ。何かに憑りつかれてるって。それで俺に相談してきたんだよ。俺も憑りつかれてるとは知らずにな」
「お前・・・そこに付け込んだのか!!」
「おやおや。随分ご立腹だな、カイ様よ。……で、何の罪で俺は糾弾されるワケ?また、昔みたいに暗殺でもされるのか?ははは。」
加藤は笑っている。だが、目は笑っていなかった。
「俺たちは、芹沢さんと野球をやってるわけじゃない。加藤。お前自身はヤンチャな性格だが、野球に対してとても誠実だろ。俺たちは、そんなお前と野球をやってる時が、めちゃくちゃ楽しいんだ。9人で秋季大会で暴れた時、本当の仲間だと感じた。新撰組の中で起こったことと、今の俺たちは別だ!これは“今”の、俺たちのチームだ。お前が加藤ハヤトとして、ここにいる限り──俺はお前と一緒に、野球がやりてぇ!」
一瞬、風が吹き抜ける。
加藤は目を閉じ、静かに息を吐いた。
「……やれやれ。お前ってやつは、ほんと暑苦しい」
「けど……そういうとこ、ちょっと嫌いじゃねぇよ」
その後ろで、芹沢鴨の霊が、何も言わずに立ち去っていくような気配がした。
ふと、背中越しに聞こえる声。
新入生「加藤先輩、さっきはすいませんでした。でも……あの、俺、先輩の走り方、すごい憧れてます!」
加藤が驚いたように振り向くと、他の新入生たちも緊張しつつ頭を下げる。
「俺たち、ちゃんと……一緒にやりたいっす!」
「さあ、グラウンド行こうぜ。次の夏、俺たちで暴れようぜ」
その言葉に、新入生も含めたメンバーが、静かにうなずく。
一度は揺らいだ絆が、確かに結び直された瞬間だった。