エピソード0
汚い。
奪い合い。性搾取。また奪い合い。
人間はここまで愚かなのだと、自分は無知だったのだと気付かされた。それが戦争からだなんて皮肉だ。
久しぶりの風は爆弾の熱気を纏っていて気持ちが悪い。空は黒い雲で覆われていて不気味だ。なるほど、これが世紀末とやらだ。
さて、何処へ行こう。また別の防空壕に行っても同じような混沌だろうし、だからと言って他に安全な場所は…
「あぁ、あそこがあった。」
ふと空を見上げると、黒い雲の隙間から見える1本の線。私の好きな場所だ。あそこなら、爆弾の影響も受けないし人も居なさそうだ。
ドデカタワーの麓に着くと、貼り紙が貼ってあった。
『戦争の影響により、本タワーのサービスは承っておりません。』
少し嫌な予感がした。タワーは200階まであり、それを昇るにはエレベーターが必須だ。だがこの様子だとエレベーターは動いてないらしい。
「階段か…」
私はため息をつきながら、目的地の180階を目指して登り始めた。
道中、バックやら食料やらを倉庫からとってきた。人は一人もいないようで、80階まで誰とも合わなかった。その夜、私は爆撃音と共に休憩スペースのソファで過ごした。
次の日、135階に来たところで耳を劈く爆音が走り、全てを悟った。
核爆弾が投下された。
私が元いた防空壕は投下地点の近くにあって、辺りはすべて炭になっていた。
これからどうしようか。私は不思議と不安はなかった。何かから解放されたようで清々しささえ感じた。
雲の上まで登ったところで、あるおじいさんに遭遇した。おじいさんは少し驚いた様子で私を見ていたが、暫くして5万円とクッキーを渡して下の階へ行ってしまった。
足は筋肉痛で、感覚が無いくらい疲労していたが鞭を打って何とかたどり着いた。
白と緑を基調にされたデザインの改札口は何事も無かったかのように金をせびってくる。
私は几帳面に切符を購入し改札口を入った。そうだな、岐阜にでも行こうか。
ホームに出て、二度目の風が横を過ぎる。今度のは熱も水分も含まない、優しいものだった。