89話 甘い告白
「私は……」
グラン様は私の返答をジッと黙って見守ってくれている。
彼は真摯に全てを打ち明けてくれた。
そんな彼の誠実さに答えなければならない。
「グ、グラン様。わ、私もあなたの事をお、お慕い、しております……」
は。
は、恥ずかしい、恥ずかしすぎるッ!
私は思わず彼から目を背けて下を俯く。
「デレア……!」
グラン様が私の名を呼ぶ。
それだけで顔が沸騰してしまいそうだった。
「顔をあげて」
グラン様にそう言われても、とてもじゃないがこんな顔、見せられない。
そう思ってますます顔を下に向け瞳を閉じていると、彼はそっと右手で私の頬に触れ、優しく顔を持ち上げてくれた。
「照れているキミもとても可愛らしいよ」
グラン様のお顔が近いッ!
心臓が飛び出してしまいそうッ!
「それじゃあデレア。正式に私の婚約者になってくれる、かな?」
「……は、はい」
「凄く……凄く、嬉しいよ」
そう言って彼はスッと顔を寄せてきたので、私はギュッと瞳を閉じた。
彼は私の唇に軽くちゅっとキスすると、今度は私の事をギュッと抱きしめてくれた。
抱きしめられる方が緊張が解ける。
今は彼の顔を満足に見ていられないから。
「……ありがとう。もっと、怖がられると思っていた」
「え?」
「キス、をね。初めてだったから、その……私も緊張してしまって……」
「初めて……?」
「異性にするキスはキミが初めてだよ。デレアは初めて、じゃないのかな?」
ああ、そっか。
「そうですね。私は初めてじゃないです」
「う……そ、そうなんだ……」
グラン様が少し驚きつつも落胆している。
彼には驚かされっぱなしだから少し私も揶揄いたくなったのだ。
「私は異性とこうやってキスするのはこれで二回目です。一回目の時はもっと長く、キスされていましたよ」
「へ、へえ……」
「おまけに手も重ねあっていました」
「……そう」
「私のファーストキスは凄く大切な思い出です。きっと一番大切なキスだったと思います」
「そんな……そんなのは聞きたくないよ……」
ついにはグラン様が今にも泣き出してしまいそうなほどに顔を歪ませてしまった。
さすがにやりすぎちゃったかも。
「ごめんなさい、グラン様。その相手は」
「やめてくれ! 聞きたくない!」
必死に耳を塞ごうとするグラン様が可愛い。
「その相手はあなたです。グラン様」
「へ?」
「私も盲点でした。グラン様にはあの時の記憶がなかったんですものね」
「え? え?」
「大丈夫ですよグラン様。後にも先にも、私の唇を奪ったのはあなただけです」
「わ、私が? そんな記憶は……」
「そう、記憶を失くしてるその時ですよ」
私がそこまで言うとグラン様はようやく何か思い当たったのか、顔をハッとさせた。
「デモンズヒストリアを読んでいる時、か!?」
「はい」
私は頷きながらくすくすと笑っていた。
「そ、そうだったのか……。キミとデモンズヒストリアを共に読んでいたあの時に私はそんな事をキミに……」
「そうですよグラン様。結構強引でしたけれどね」
「そうなのか……す、すまないデレア……」
「そんなわけで、グラン様も初めてじゃないんですよ」
「はは、そうなんだね。でも良かった……」
グラン様は本当に心底安心したような表情をして見せた。
「ふふ、いつもグラン様には驚かされてばっかりなんですもの。たまにはお返し、です」
「参ったよ。さっきのは本当に一番驚かされた」
困った顔をしたグラン様が可愛らしくて、私は笑いが止まらなかった。
「……笑ってるキミは本当に可愛らしい」
彼はそう言うと、再び私の瞳を覗き込むようにジッと覗き込んできた。
グラン様の真剣な眼差しはいつ見ても私の心を揺さぶる。
「なんて愛おしいんだ、キミは」
そう言うと彼は再び私の顔に近づいてきて、また短いキスをした。
「世界で一番キミを愛している。何があってもキミを離さないよ」
それからずっと、私は蔵書室の中でグラン様に甘やかされ続けてしまった。
もう……おかしくなってしまいそう。
こうして私たちは晴れて相思相愛となり、私、デレア・リフェイラはグランシエル・ヴィクトリアの正式な婚約者となったのであった。
 




