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88話 デレアの気持ち

 ヴィンセント・ゴルドール。


 彼はマグナクルス国王陛下の従兄弟であり、ヴィクトリア王国内でも最大規模の広大な領地の主としても有名な由緒正しき公爵家だ。


 マグナクルス国王陛下の先代、父であるザラグドエル前国王陛下には多くの兄弟がおり、その親類は皆公爵家としてヴィクトリア王国の各地で領地を構えている。


 それが許されたのは彼らがグラン様と違って、六属性に適性を持つ者らだったからだ。


 グラン様も特質魔力持ちでなければおそらくはそのように扱われたはずなのである。


 王家に特質魔力持ちが存在してはいけないと厳しく取り決めているのは、王家の監査役でもあるヴィクトリア聖教の教皇だ。


「教皇が特質魔力を認めないのにはワケがある。それは……」


「ヴィクトリア聖典の教え、ですね?」


「その通りだデレア。さすがだね」


「聖典もしっかりと目を通しましたから」


 ヴィクトリア聖典の一説にはこうある。


『六属性魔力は人類が誇るべき偉大なる証明。この六つの属性に適性を持たないものは人の上に立つ資格はないであろう』


 この教えがヴィクトリア聖典の根底にある為、ヴィクトリア王国の長たる者が六属性に適性がないなどという事があってはならないのである。


「特質魔力というものは実に不思議でね。魔導研究所でもまだまだ謎の部分が多い。キミのように内側にしか顕現せず、周囲に魔力の波動を感じさせないものだったりね」


「私も特質魔力という言葉自体グラン様から教えられて初めて知りましたからね」


「幸い、私は魔力としては他者にその波動を感じさせる事だけはできるから、シエルのフリをし続ける事はできるというわけだ」


「ですがもし、聖教から魔力の具現化などを求められた時、どうなされるのですか?」


「そんなの簡単さ。魔導具を使えばいい。キミだったらそうするだろう?」


 それもそうだ。


 魔導具を上手く扱えば魔法は無理でも適性属性以外の魔力をいかにも具現化したように見せかける事ぐらいできる。


「ただ、やはり教皇を欺き続けるにはどうしたって協力者が必要だ。その辺の問題点についてもヴィンセント卿が大いに手助けしてくれたんだよ」


 ヴィンセント卿は同じ王族であるはずのグラン様に深く同情し、彼を陰ながら手助けしていたそうだ。


「そんな私とヴィンセント卿との関係を知らずにヴィンセント卿を唆そうと擦り寄ってきたのがザイン宰相とデイブ魔導卿だったんだ」


 グラン様の話によれば、ザイン宰相はある時を境に突然ヴィンセント卿へと擦り寄ってきたらしい。


 それはロハン・ミュッセンを従者として招き入れたすぐ後だったという。


 ザイン宰相はロハンを養子に迎える予定のヴィンセント卿を自分の手駒にした後、ロハンに王位継承権が流れるようにと画策したのである。


 当初、そんなザイン宰相の薄暗い思惑を様子見としていたヴィンセント卿だが、すぐにシエル殿下の病気が発覚。


 その原因を探る為、また、ザイン宰相の企みを暴く為にヴィンセント卿はわざと彼の案に乗る事にした。


 数年間、ザインらを泳がせつつ、ヴィンセント卿は密かに動きを探っていたらしい。


 そもそも私が参加したあの第一回目の大舞踏会の真意は、病に伏せってしまったシエル殿下に早くパートナーを見繕ってあげたいというグラン様とヴィンセント卿の想いに加え、それによるザインらの動きを見る為だったそうだ。


 おかげでザインらの動きが活発になり、今回彼らを捕らえるのに必要な様々な証拠などを集められたという事だった。


「そうだったのですね。良かった……てっきりヴィンセント卿が黒幕なのかと勘ぐりすぎていました」


 私はひと安心していた。


 もしこれでヴィンセント・ゴルドールがザイン側だった場合、グラン様も陥れられてしまうのではと危惧していたからだ。


「そうか。だからデレア、キミがヴィンセント卿を見る時の瞳は妙に鋭かったんだな。賢人会議の後でヴィンセント卿がよく言っていたよ」


「え? な、なんと?」


「あの尚書官の娘はとてつもなく強そうだ、とね」


「つ、強そう!?」


「デレアは結構目力も強いからね。わかる人にはわかるのかもね」


 ははは、とグラン様は笑っていたが私にとってはショックな話だ。これでもポーカーフェイスな方だと思っていたのに。


「……と、そんなわけで私はシエルとマグナクルス国王陛下の意思を継ぎ、そしてこの国をしっかりと立て直す為に、法や制度などの整備をいちから見直すつもりで即位するつもりだ」


「それがグラン様とシエル殿下のご意思であると言うのなら良いかと」


 私は笑顔で頷く。


「その為にはね、私だけじゃ色々と力不足なんだ」


「何を仰っているのですか。グラン様にはたくさんの人たちが……」


「違うんだ。私にはもうデレア、キミが隣にいてくれないと無理なんだ。だって、もう、私はずっと昔から、今この時でさえキミの事が愛おしすぎてたまらないのだから」


「は……あ、う……」


 再び突然放たれたグラン様からのストレートな告白に、私はまた顔を熱くさせた。


「先の舞踏会場では強引にキミに頷かせてしまったが、今一度、キミに確かめたいんだ」


 彼は私の肩を少し力強く掴んだ、私の目をじっと見据えた。


「だからデレア・リフェイラ姫君。どうか、この不器用な男であるグランシエル・ヴィクトリアの婚約者になっていただけないだろうか。私は一生キミを愛し続ける事を命にかけて誓う」


 力強い言葉とは裏腹に、私の肩を掴むグラン様の手は微かに震えている。


 こんな……こんな風に言ってもらえて、私もようやく自分の気持ちを理解する。


 ――私はきっと、グラン様が好きなのだ。


 この胸の高鳴りが、熱が、気持ちが、高揚感が、代え難いこの喜びの正体こそが、その私の感情の答えだと、()()だと告げている。


「……こんな私なんかで本当によろしいのですか?」


 私は確認するようにまた質問をしてしまう。


 グラン様は冗談でこんな事を言うような人柄ではない事は十分にわかりきっている。今も微かに震えるその手は、きっと彼も大きな勇気を振り絞って私へとその気持ちを伝えてくれている証拠なのだから。


「そんなキミだから愛しているんだ」


「この口調も飾りですよ。きっと、私の素の口調になったらグラン様だって幻滅してしまうだろうし、何より他の方たちの目もあります。私の口の悪さはきっと悪影響を……」


「何を言っているんだ。それこそキミの持ち味じゃないか。むしろ私はキミのそのアイデンティティを尊重したい。飾らない、キミを見たいし、飾らないキミの声を聞きたいんだ」


「本当に……本気で、言ってるの……?」


 私の言葉が震える。


「本当だ。私は本気だよ。聞かせてくれ。キミのいつもの口調で、その本当の気持ちを」


「……わ、私は……きっと、グラン様の事も……お、お前とか言っちゃう、ぞ……?」


「キミから呼ばれるならむしろその呼び方すらも愛くるしいよ」


「ほ、本気なの……か? 私は……私は飾らない言葉になったら……本当に男の人よりも口が悪いんだぞ……。こんな風に……。きっと、グラン様もびっくりしちゃうくらいに……」


「いいんだ。私はキミの全てが見たいし、全てを愛したいんだ。だから教えて欲しい。キミの気持ちを」


「わ、私、は……」


 グラン様はきっと、おそらく私がどんな形になっても、どんな口調になっても、その気持ちを変えるような事はないだろう。


 そんな事、私にもわかる。


 彼は貴族や平民といった垣根も関係なく、全ての人を平等に扱う人柄だとわかっているからだ。


 対して私はどうなんだ?


 貴族に対して、いつまでも忌避し続けていた私は。



 この、私の気持ちは……。




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