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85話 唐突の求婚

「皆様! 二回目となるこの大舞踏会にようこそお集まりくださいました!」


 ロハン・ミュッセンがよく通る声を響かせた。


「此度、皆様にはとてもとても大事で大切なご報告がございます!」


 賢人会議でマグナクルス国王陛下が残していった言葉。


 国王を退位される事と、即位させる人物について。


 やはりロハンなのだろうか。


「詳しくは我が主人、ヴィンセント・ゴルドール公爵閣下の方からお話がございます。皆様、どうかしばしの間静粛にお聞きくださいますよう、お願い致します!」


 ロハンの言葉に続けてヴィンセントが一歩前に出て、舞踏会場の中央あたりでぐるりと周囲を見渡す。


 なんだ……? と私が思っていると、その私と目があった。


 すると彼は口元を微かに綻ばし、何かを呟いた。


 直後、彼は私から視線を逸らす。


「お初にお目にかかる。我が名はヴィンセント。ゴルドール家の現当主であり、この舞踏会の開催者、そして()()()でもある者だ」


 発案者?


 これはヴィンセント卿が全て考えたものなのか?


 そうなると、余計にヴィンセント卿という存在の不信感が増すな。


「本日、皆様に参加をして頂いたのには深い理由がある。それはこの国の将来に影響する話だからだ」


 私たち尚書官は一応、簡単に今回の話を理解している。賢人会議で内容を聞いているからだ。


 ヴィンセント卿はまず、現状のヴィクトリア王国とガルトラント公国の関係性など政治的な話から切り出した。


 続けて先日、王宮内にヴィクトリア王国に仇なす裏切り者が紛れ込んでいた事、その者らが国王を操り国の法や資金を私物化していた問題などを話した。


 そして。


「……と、様々な問題点や法改正も鑑みた結果、マグナクルス国王陛下は退位する事を表明した」


 その発表にはさすがに多くの者が困惑し、会場内のざわめきが増していく。


「だが不安にならなくていい。即位する者は決まっているし、その者がこの国の未来を深く見据えた思慮深き王となる事は明白だからだ」


 多くの者がきっと、傍らにいる赤髪のシエル殿下の事だと思っているのだろう。


 けれど殿下は……。


「何故なら、次の王となる者はこちらにおわすお方、そう、皆ももはや存じ上げているだろう。シエル殿下こと、グランシエル・ヴィクトリア王太子殿下であるッ」


 グラン……シエル!?


 その名をヴィンセント卿が呼ぶと、傍らにいた赤髪の仮面の男が自分だと強調するように手をあげる。


「嘘……だって殿下は亡くなったって……」


 隣にいたリアンナ長官や他の尚書官たちも驚きを隠せずにいる。

 

「皆の者、久方ぶりである! 我が父、マグナクルスが退位した後、私がこの国の王位を引き継ぐ者である! これまでシエル、と名乗っていたがそれはあだ名でな。本名をグランシエルという。よく覚えておいて欲しい!」


 アレは一体誰なんだろうか。


 シエル殿下なのか、それとも……。


「そして同時に今日、皆に伝えよう! 我が婚約者となる者をッ!」


 グランシエルと名乗った彼は、私の方へと向き直し、こちらへ向かって歩み寄って来た。


 一体彼は何を……。


 と、私を含め会場内の者たち全員が彼の行動を見守る中、彼は私の前に来て手を差し伸べて来た。


 そして仮面を外し、小声でこう囁いた。


「……デレア、私だよ。グランだ。こんな場で卑怯かもしれないが告白させてくれ。私はキミを愛している。どうか、私の婚約者となってくれないだろうか」


 え……?


 え……?


 ええ!?


 理解が追いつかない。


 私は思考停止して、硬直してしまう。


 けれど髪色以外は確かにグラン様そのものだ。


「諸々の理由は後で説明する。けれど私の気持ちだけは本物だ。もし、キミが私の愛に応えられないとしても、今この場だけでも合わせておいて欲しい」


 何か事情があるのだろうか。


 けれどこんなに注目を浴びてしまっている状態で殿()()()()()()()()()()方からの告白を無下にする事など出来るはずもなく。


「……はい」


 私は視線を落としておずおずとその手を取るしかなかった。


 それから会場内は盛大な拍手と歓声に包まれ、私は色んな人達からの祝福の言葉をまるで嵐のように投げかけられ続けていた。


 ドリゼラは感激のあまり涙を溢しながらもリヒャインと大騒ぎして喜んでくれていた。


 リアンナ長官や他尚書官たちも唐突の出来事に理解が追いついていないようだが、ひとまずグラン様と私が結ばれたという事だけに関し祝福してくれていた。


 私も終始困惑したまま周囲の対応に追われ、そして大舞踏会は終わりを告げた。




        ●○●○●




「……で、これはどういう事ですか?」


 深夜。


 大舞踏会が無事終わりを告げた後、人目を憚るように王宮内の第三蔵書室にてグラン様と二人きりとなった私はそう尋ねた。


「すまないデレア。もっと早くにキミには色々打ち明けたかったんだけど……」


「説明してくださるんですよね?」


「もちろんだ」


 赤髪のグラン様は真剣な眼差しで頷く。


「まず、私の本名はグラン・ヴィクトリア。グラン・リアは仮の名なんだ」


 彼の瞳は嘘を言っているようには見えない。ヴィクトリアの名前を冠するという事は、つまり王族という事だ。


「そしてキミと共に見た魔力変異症を患っていたあのシエル殿下は、私の双子の弟なんだ」


「双子の……弟!?」


「ああ。ヴィクトリア王家では代々魔力値の高い妃を娶り、その者との間に産まれた嫡男が王位継承権を持つ。産まれた子は高い魔力を持って産まれるのが必然とされているが、稀に問題が生じる」


「問題、ですか?」


「そうなんだ。魔力値が極端に低い、もしくは六属性に適性魔力を持たない場合だよ」


「それってつまり特質魔力の事、ですね」


 グラン様はこくんと頷く。


「双子の兄として産まれた私が本来、王位継承者となるはずだったが、私は六属性魔力に適性を持たずに産まれてしまった事で、私ではなく弟のシエルが王位継承権を得る事となった」


 そうか……そういう事か。


 六属性魔力に適性がない者は一般的に、『魔力無し』として扱われる事が多い。


 稀に特質魔力持ちとして産まれる事はあってもそれでは、王族として認められない。


 何故なら国王は必ず六属性のどれかに適性していなければならないという掟がある。


 その真意は特質魔力の異能性をあまり公にしすぎない為だ。


 私の完全記憶能力(トータルリコール)禁忌(タブー)とされ、極秘扱いされている。


「反対に弟のシエルは豊富な水魔力属性に適性を持って産まれた。その結果、我が父と母はシエルをヴィクトリア王家の嫡男として育てる事と決めた」


「そ、それではグラン様は……?」


「私は幼き頃より陰に生きる者として任命された。リア家という架空の家柄も捏造し、私はその男爵家の長子として生を受けた事になった」


「そんな……何故そんな酷い扱いに……」


「いや、これでもまだ良い方なんだ。王家の血を引くのに六属性魔力に適性が無い者は基本、忌み子として殺処分されてもおかしくはないとされているからね。父上と母上が……両陛下が温情を掛けてくださり私は生かされたんだ」


 ヴィクトリア王家には強烈な掟があり、それを聖教が厳しく監査しているという話は尚書官になってから色々と知ったが、まさかそこまで厳しい戒めがあるとは思わなかった。


「ヴィクトリア聖教の教皇からは、禍いを呼ぶ子だと言われ、私は殺され掛けたらしいが、それを父上と母上は守ってくれたんだよ」


 グラン様は少し儚げに答えた。


「それで男爵家の子のフリをして王宮で密かに活動をしていらしたのですね……」


「そういう事だね。でも、私はそれで良かったんだ。表舞台でシエルに頑張ってもらい、陰から私が支えてこの国をより良くしていこうと誓い合っていたんだ。ところが……」


 ところがある日、突然シエル殿下は魔力変異症という病を患ってしまった。


 マグナクルス国王陛下とグラン様はシエル殿下を救う方法を模索し続けたが、それは叶う事はなかった。


「私は必ず何か原因があると思っていた。ここ数年、ガルトラント絡みの不穏な噂やザイン宰相の動き、陛下の奇妙な法案の通し方には疑問ばかりが浮かんでいた。それらには必ず何か裏があると感じていた。その解決への糸口はまさにキミが教えてくれた禁術のおかげだったんだ」


 まさか……。



「そうだよ、デレア。キミが教えてくれたアストラルイーターだ」



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