82話 ざわめきの予感
私はカタリナお母様との聴取の後、ドリゼラたちのもとへと戻り、その流れについて簡単に説明をした。
無論、殿下の事などは一部、伏せておいた。
カタリナお母様の処分については私が後に王宮で相談した上で決めると伝えたが、ドリゼラは終始落ち込んでいた。
話がひと通り終わるとマーサとドルバトスは再び仕事に戻った。
私の部屋にはドリゼラとフランの三人が残されたが、フランだけはマーサの許しが出たので今晩は三人で遊んでいても良い事になった。
しかし遊ぶという雰囲気でもなく、フランが先程から落ち込んでいるドリゼラの事を慰めている。
そんな彼女に今度は朗報を伝えてやらないとな。
「え? 舞踏会、ですの?」
今度再び開催される二回目となる大舞踏会の知らせだ。
「ああ。宮廷官として怪しい者はいないかの見張りを兼ねて参加しろと命令されていてな。その舞踏会へ近々リヒャインがお前を誘いに来るだろう。もちろん参加するだろう?」
「リヒャイン様が……! はい、もちろん参加致しますわ!」
笑顔を取り戻してドリゼラが答える。
リヒャインやドリゼラからポツリポツリと聞いている感じだと、こいつらは割と順調に愛を深めているようで何よりと言ったところだ。
「ちなみにお姉様は……?」
「私も参加せざるを得ないからな。今回も出るぞ」
「いえ、その……お姉様、もしよろしければ私の友人の殿方でもご紹介致しましょうか……? お一人で夜会に
出られるのはお寂しいでしょうし……」
ドリゼラがこんな気遣いをするようになっているんだからなあ。
と、私はしみじみと思ってしまった。
「大丈夫だ。私にも一応パートナーがいるからな」
「「え!?」」
と、ドリゼラとフランの二人が同時に声をあげた。
「やっぱりそういうお方がいらっしゃったのですね! それはどんな方ですの!?」
「デレアお嬢様、もしや宮廷官のお方でしょうか? そうならばきっとギラン旦那様もさぞお喜びになるでしょう!」
火が付いた様に突然二人が質問攻めをしてきたので、私の相手はただの近衛兵でその相手も舞踏会でのトラブル防止の為に見張りとして参加するのだと適当な事を言っておいた。
「で、でもでも! お仕事の一環とはいえ、お姉様はそのお方の事がお好きなんですのよね!?」
「なっ、なんでそうなる!?」
「だってお姉様、最近凄くお美しくなられましたもの! 髪の毛のお手入れやメイクもしっかりするようになりましたし。それってそのお方の為ですわよね!?」
「や、ちが……」
「やはりそうなのですかデレアお嬢様! 私も最近お嬢様が乙女なお顔をされているなとは思っていたのです。ドリゼラお嬢様の言う通りそのお方がデレアお嬢様の想い人なのですね!」
「ま、待てフラン。私は別にだな……」
「その通りですわフラン! だからこそ最近のお姉様は妙に色っぽいというか、女性としての魅力があがったというか!」
「ええ、ええ、わかりますよドリゼラお嬢様。私も以前のデレアお嬢様とは変わったとすぐわかっておりました。もしや、もう大人の階段をお登りになられて……?」
「ば、馬鹿な事を言」
「やっぱりフランもそう思いますわよね!? デレアお姉様ったら、意外と大胆なのですわ! それにしてもデレアお姉様のように気位のお高いお方を虜にしてしまうその殿方が物凄く気になりますわ!」
「本当にですドリゼラお嬢様! デレアお嬢様は男になんて絶対興味ないと思っていましたから!」
「「それで、一体お相手はどんな方なのですか!?」」
ドリゼラとフランが声を揃えた。
だからさっきも近衛兵だと言ったのだが、それ以上詳しく言えというのか。
クソ、面倒くさい!
「もう、何も言わん!」
私はプイッとそっぽ向いたが、燃え上がってしまった彼女たちの質問攻めはそれからしばらく収まる事はなかった。
●○●○●
そんなこんなで私は翌日リフェイラ邸を再び去り、王宮へと戻っていった。
ちなみにギランお父様にも当然、カタリナお母様の件も伝えた。
王宮での事件についてもギランお父様は勿論知っていたが、念の為まとめて報告したら「そうか、わかった。ご苦労だったな」とだけ答えて、それ以上特に何も言わなかった。
ギランお父様はどこまで知っているのだろう。
リフェイラ邸の中で一番謎が深いのはやはりギランお父様だ。寡黙すぎてとても感情も読みづらい。
ひとまず大舞踏会の件は私もドリゼラも出席を許された。
後は大舞踏会の前日にはもう一度リフェイラ邸に戻り、着付けやメイクをフランにやってもらうだけだ。
前回は色々ありすぎたが、今度の舞踏会は果たしてどうなるやら。




