72話 悲痛のドリゼラ
カタリナお母様の書架の秘密を暴いたその晩。
深夜、リフェイラのお屋敷内にて。
私は自室でドリゼラの本を読みながら考え事をしていた。
カタリナお母様の事やリビアというあの少女やデイブ魔導卿の事。
そしてシエル殿下の魔力変異症。
これらは全て繋がっているのではないかと感じている。
根拠はないが、とても無関係とは思えない。どこかで何かが繋がっている。
そんな風に考え込んでいると、コンコン、と部屋をノックする音が響く。
「あの……お姉様。少しだけよろしいでしょうか?」
ドリゼラだ。私が扉を開けて招き入れる。
「……なんだ? こんな夜更けにどうした?」
「私……なんだか不安で……。今日だけはお姉様とご一緒させて欲しいんですの……」
「……わかった。今日だけは特別だぞ」
さすがに色々な事がありすぎてコイツもショックが大きいのだろう。今日だけは一緒に寝てやるかと考えた。
「お姉様はカタリナお母様の事、どうお考えですの?」
ベッドの中、隣で横になったドリゼラが暗いトーンの声色でそう尋ねてきた。
「今はまだなんとも言えない。ただあのリビアという少女の言葉が事実なら、カタリナお母様には何か複雑な事情がありそうだ。リビアはカタリナお母様の事を悪くは言わなかったしな」
「ええ……。ただ、あのグリエンドールとかいう殿方をいつの間にカタリナお母様はお屋敷に招き入れていたのでしょうか」
「確かにな。カタリナお母様やギランお父様は外出している事が多いとは言え、使用人や侍女もたくさんいるこのリフェイラ邸で一体いつ……」
と、そこまで言ったところで私はハッとした。
『月に一度の決まった日』
リビアはそう言っていた。
そうか、思い当たる日がある。
「……なあドリゼラ」
「なんですのお姉様?」
「前まで、私はお前やカタリナお母様の本が集められてる娯楽室の掃除をさせられていたよな。月に一度、必ず決まった日に」
「う……はい。嫌がらせみたいな事して、本当にごめんなさいお姉様……」
「それはもういい。あの日は必ず侍女や使用人たちを人払いさせていたよな。あれはもしかしてお前の発案ではなかったんじゃないのか?」
「は、はい。実はお母様が、デレアお姉様に娯楽室の掃除をさせる日は屋敷の中の使用人たちはなるべく外に出てもらいなさいと仰ってきたのです。その方があなたもデレアお姉様と……その、遊べるでしょう、と」
遊ぶ、という名の私いびりだったわけだけどな。
だが、その日ならほとんど人が屋敷内からいなくなる。夕食の準備をする料理人や侍女たちは多少いたとしても、カタリナお母様の部屋がある二階の奥は食堂からはかなり離れている。
そして娯楽室とも。
更に思い返せば、そうやって人払いさせるようになったのはここ一年くらいの話だ。
「人払いの提案はドリゼラからではなくカタリナお母様から、という事はその日、密かにグリエンドール魔導卿を招き入れる日としていたのだろうな」
「そんな……私たちが娯楽室にいる間にお母様はそのような怪しい人と、しかもお屋敷の中で密会していたなんて……。本当にその男は一体何者なんですの……?」
「それなんだが、そのグリエンドールとかいう輩、私に心当たりがある」
「え!?」
「同じ宮廷官だからな。リビアが言っていただろう、徽章を見た事があるって」
「あ、確かに……」
「私は明日以降、王宮に戻ったらその事について探ってみる。お前たちはまだカタリナお母様に余計な事は言わないでくれ。もう少し色々わかったら、私から問い質してみる」
「わかりましたわ……」
「そう落ち込むな。まだカタリナお母様が犯罪行為を犯したという明確な何かは出ていないだろう。まあ……本人の同意とはいえ地下に人を監禁しているが」
「そう、ですわね……」
すっかり元気をなくしているな。
私の想像通りなら、あのデイブ魔導卿とかいう男がカタリナお母様にシエル殿下の髪色をリークした者だと考えられるだろう。
あの男はカイン先生と一緒にいたからな。おそらく殿下の事も病気も知っているはずだ。
そうするとカイン先生も怪しくなってくるな。
立ち位置を考えると、グラン様と相談するのが一番か。法にも詳しい彼ならきっと妙案が出るはず。
それに魔力変異症の二人目の患者いるわけだ。この事についても話しておくべきだろう。場合によってはリビアという少女をあの狭い地下から、せめて殿下の広いあの部屋に移住させてもらえるかもしれないし。
グラン様も……まだ落ち込んでいる、だろうか。
「……へ?」
私はつい隣で横になっているドリゼラの頭を撫でてやった。
グラン様のあの時の落ち込み方と今のコイツが重なってしまったからだ。
「ドリゼラ、お前は母親想いの良い娘だ。私はお前がこんなにも人を愛する心があるなんて、ちっとも知らなかった」
「お、お姉、様……」
「実の娘のお前がこんなに優しい性格をしているんだ。その母親であるカタリナお母様が犯罪者なわけがないさ。リビアもカタリナお母様の事は信頼している様子だっただろう?」
「はい……」
「だから大丈夫だ。それにな、私もいる。お前が私に心を開いてくれたように、私もお前の事を自分の本当の妹だと思って守ってやるから」
「ふぐぅ……デ、デレアお姉様ぁ……」
「なんだなんだ、最近のお前は泣き虫だな」
「だってぇー」
ドリゼラは鼻をすすりながら私に抱きついてきて、胸の中に顔を埋めた。
「ひっく……ひっく……うぅ……お姉様、ありがとうございますわ……」
「まったく、しょうがない奴だ。まあ今日だけは泣きたいだけ泣いておけ」
私そう言って再びドリゼラの頭を撫でてやった。
「うう……うぅ……」
自分の母親だものな。
それは不安にもなる。
「う……うひ……」
「ッ!?」
ビクン、と私は思わず身体を反応させた。
「はあ……はあ……や、やっぱりお姉様、お胸の発達がとても素晴らしいですわ……柔らかくて、ふわふわで……」
「ちょ……は、離れろ馬鹿!」
「いひひひひひ!」
ドリゼラは私の胸の中で顔をすりすりしている。
コイツ、さっきまでピーピー泣いていた癖に!
と、思ったがよく見るとまだコイツは涙を溢していた。
全く、照れ隠しが気持ち悪いんだよ。
「ったく、もういいだろう! 寝るぞ!」
「あーん、お姉様、もっとぉー」
私は強引にドリゼラを引き離して、彼女に背を向けて横になった。




