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65話 賢人会議の為に

「さて、これでいいか」


 禁書庫で読んだ大盗賊ガレファンドの知識をもとに術式魔導書の解呪法を知った私は、ドリゼラに宛てた書簡を書き終え、それをリフェイラのお屋敷に届けてもらう様、王宮の衛兵にお願いしておいた。


 内容は少しカムフラージュして、「調べたい事があるので近々帰りたいと思います」とだけ書いた。これはカタリナお母様に読まれてしまっても問題ない様に念の為だ。


 ドリゼラが読めば以前言った通り、カタリナお母様が外出する日を狙って私を迎えに来るだろう。あとはその日を待つとする。


「賢人会議の日程も迫っている。もう少し事前の準備に念を入れておかないとな……」


 先輩らに頼まれ引き受けてしまった賢人会議の準備は一応それなりにはできているつもりだ。


 学院の図書館で書記をする為に必要な事や法典についても学び直したし、事前の心構えはできているとは思うが、やはり気は重い。


 そもそも私はそういう責任重大な仕事とか注目されるような事が大の苦手である。


 幸い書記は発言したりする事はないので黙って話を聞いていればいいが、文章をうまくまとめられるかは別だ。


 私は記憶に関してはこの力の事もあって、今や誰にも負けないと自負しているが、それを出力する事、つまり文書化して書き出す事が得意だとは言えないのである。


 何よりも一番の問題は――。


「あ、来たわねデレアちゃん」


 私の事を唯一、ちゃん付けで呼ぶ尚書官はただひとり。


 第一蔵書室の担当で長官を除く五人の尚書官の中では最年長のミャル先輩こと、ミャルーズ・ダレンシアから尚書官業務室へと私は呼び出されていた。


 尚書官たちは各々担当の蔵書室を管理しているが、仕事に関する書類は尚書官業務室のそれぞれの机にまとめる事になっている。


 つまり私の机も一応ここにある。あまり使う事はないが。


「おはようございます、ミャル先輩」


「はい、おはようデレアちゃん。あら? なんだか今日はいつもと違うわね?」


「そうですか?」


「なんか……うーん……あ、寝癖ね。今日のデレアちゃんは髪型が綺麗に纏まっているんだわ」


「あー……今朝は少し髪をとかしましたからね」


「あら珍しい。どうしたの急に? 前は髪なんかどうでもいいーって言ってたわよね?」


「あー……まあ、なんとなく、です」


「……へえ? これはあなた、何かあったわね?」


「はい?」


「この三日間、お仕事を休んでカイン特級魔導医師に何か大切な用事を頼まれていたっていうのは聞いてるわ。その間に何かあったんでしょう?」


「別に何も……」


「嘘。だってあなた、女の顔になっているもの」


「は?」


「うふふ、わかるわよーデレアちゃん。もしかして初体験しちゃったのかしらぁー?」


「ち、ちちち、違います! 別にグラン様とは何も!」


「ぇ、えええー!? グ、グラン様となの!? うっそ、本当に……? 信じられない! 確かに二人は少し不思議な間柄だとは思っていたけれど、まさかそんな関係だったなんてねえ」


 あー、墓穴掘った。


「違います違います! 何にもしてません!」


「ちょっと、いいから教えなさい! お姉さんの命令よ!」


 く、クソ虫めぇ! 鬱陶しい!


 ミャル先輩は大人だし、もっと落ち着いてる感じだと思っていたのに!


「そ、そんな事より一体なんですか? 賢人会議の書記に関する事って!」


「あー、うん。リアンナ長官に頼まれてたんだけど、デレアちゃん、あなたの文字の事ね」


 あ、やっぱりそれね。


 そう、私が懸念している一番の問題とは、


「デレアちゃんの字、下手くそすぎるわ」


 これである。


「リアンナ長官から見せてもらったあなたの書類、読めないぐらい汚い文字や数字が多かったのよね。ちょっとここに自分のフルネームと1から10までの数字を書いてみてくれない?」


「はい」


 言われた通り、私は手渡されたメモ帳に名前と数字を書いた。なるべく丁寧に。


 ……うん、我ながら綺麗に書けた。私だってゆっくり慎重に書けばそれなりには、


「うっわ、きったな! これは確かに前代未聞なほどに下手くそな字ね! 今時読み書きのできる貴族のお家の子なら六歳でももう少しマシな字を書くわよ!?」


 ……それなりでもなかったらしい。


「デレアちゃん、あなたってとっても優れた頭を持ってる割に筆記は残念すぎるのね……」


 私は何を隠そう文字を書くのが超下手くそだ。ミミズがのたうちまわったような文字だ。


 だから何かを読んだり知識を得たりするのは大好きでも、それを書いたり残したりするのが苦手というか、あまりやりたくないのである。


「リアンナ長官も賢人会議の日までにせめてもう少し読める字になるようにしてと言われているから、今日から賢人会議の日までは暇があれば毎日ビシバシ指導するわよ」


 え、うそ、毎日なの?


「尚書官いち綺麗な字と言われる私、ミャルーズが尚書官の誇りにかけて厳しくあなたをレッスンしてあげるわ。さあ、デレアちゃん、まずはこの単語の書き取りから始めましょうね」


「え? え!? じゃ、じゃあ私の第三(ダイサン)の整理は……? 本を読む時間は!?」


「そんな時間なんてないわよー。今日からはここでずっと文字の練習、それに宿題もたぁくさん出すからね!」


「そんなぁー……」


 あんまりだあ!


 私は胸中で悲痛の叫びをあげたのだった。





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