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64話 禁術アストラルイーター

「喰らう……? デレア、それは一体なんだ?」


「正確には彼の魂というべきか、その精神を喰らい取り込んでしまうんです。そうする事でシエル殿下はグラン様の中で生き続けます」


 私がデモンズヒストリアの最終章で見た魔力変異症への最後の対抗策。


 それは決してシエル殿下の命を救うものではなかった。


 あまりに突拍子も無く、あまりにも残酷な方法。禁書と呼ばれるに相応しい悪魔の様な術式。けれど、唯一、絶対的な死をもたらす魔力変異症へ一矢報いる手段。


「禁術、アストラルイーター。その術式を執り行い成功すると、対象の魂、精神を文字通り喰らいます。喰らわれた者はその場で即座に絶命しますが、その者の記憶や経験した事が喰らった者の体内で生き続けるのです」


「な、何故それが魔力変異症への対抗策と言えるんだ?」


「……正しくは魔力変異症だけでなく、不本意な死によって消滅してしまう魂、精神だけを誰かの中で生き永らえさせる、という意味ですね。その方法がデモンズヒストリアの最後の章に記載されていました」


 私が見た最後の魔力変異症についての言及はそれだったのだ。


『魔力変異症を患った仲間(魔族)は救えない。だが、その志しと想いを共にする方法ならある。この方法は術式の行える魔導具と知識さえあれば、さほど難しくはない。何故なら命と引き換えに精神をいただくだけなのだから』


 こう、記されていたのである。


「つまりはシエル殿下を私が喰えば、私と共に生き続けられる、と言いたいのか?」


「……はい。あくまでグラン様が望めば、です」


 グラン様は険しい表情で閉口した。


 当然だ。私が告げた言葉の意味。それはつまり、死刑宣告だ。


 シエル殿下は助からない。せめてもの代替案を置きに行ったというだけなのだから。


()()()に……死ね、と言えと……」


 グラン様は酷く悲しそうな顔をして、そう呟いた。


 私の言葉の意味全てを理解したのだろう。


 つまりは魔力変異症を治す方法はないのだ、と。


「シエル……シエル……ッ」


 グラン様はついにその瞳に涙を浮かべた。


 痛いほどにグラン様の悲痛な胸の内が伝わってくる。


 三日間のうちに禁書庫で別のもっと素晴らしい打開策、代替案が見つかりさえすればこんな提案は出す事はなかった。


 もう、私がグラン様にできるのはこれだけだと理解したからこそ、最後の手段として告げたのである。


「シエル……すまない……シエル……ッ」


 グラン様のこの落胆具合を見て、私は口を開けずにいた。


「……デレア」


「はい……」


「ありがとう」


「え……?」


「優しいキミの事だ。わかっていてずっと黙っていてくれたんだな。残りの二日間、キミは笑いながらも必死に本を読み続けてくれた。いくらキミが本が好きだと言ってもあれほど睡眠時間を削ってまで必死に読んでくれていたのは、そういうわけだったのだろう?」


「そんな……別に……。私は本が好きだから……」


「いいんだ、私もわかっていたんだ。私があんな態度を取ってからキミは平常を装いながら必死になってくれていた事を。だから、本当にありがとう、デレア」


「……私は無力です。シエル殿下を救える方法がこれしか見つけられず、考えられないんですから」


「キミは無力なんかじゃないよ。私にはやっぱりキミが必要だ」


「……」


 私は唇をキュッと噛んで、切なそうにしている彼から視線を落とした。


 救える命は救いたい。


 そう思って、たくさんの事を知ろうと思ったのに。


「さあ、もうそろそろカイン先生まで来るだろう。ここを片付けて外に出る準備をしよう」


「はい……」


「デレア。さっきの提案は一応私の中で最後まで保留とさせておいてくれ。また、その事はカイン先生にも、他の誰にも言わないでほしい。禁術だしね」


「ええ、かしこまりました」


 こうして私とグラン様の、禁書庫生活は大きな収穫もなく終えるのだった。




        ●○●○●




 私は自分の宿舎に戻った。


 グラン様はまたカイン先生と共にマグナクルス国王陛下のところへ報告に行くと言っていた。


 魔力変異症について今回、調べられた事の報告だろう。


 グラン様は最後、シエル殿下の事をシエル、と呼び捨てていた。


 彼らの関係性にはまだ何か裏がある気がしてならない。


「はあ、疲れた」


 ドサっと私はベッドへと転がる。


 愛する本と戯れる事はできたが、シエル殿下の事で私の胸はちっとも晴れなかった。


 魔力変異症を私が最初に知ったのは、あの幼き日にお母さんから買ってもらった中古の魔導書だ。


 今になって思い返しても、そういう症状を起こす病があり、現状これに対する有効な対処案はないと書かれていた。


 不治の病なのだ。


 ただ、これは誰にも言わなかったのだが、とある一文があった事も同時に思い出していた。


 それは――。


「もし魔力変異症が人為的に引き起こされたものだったとしたら……」


 当時はあまり深くは考えていなかった。


 幼い日に読んだあの魔導書に書かれていた事は全て覚えている。


 その考察的一文にこうあったのだ。


『仮説だが、魔力変異症と言う病は自然に発生したのではなく、神のルールに背いた故に引き起こされたある種の罰なのかもしれない』


 神のルールに背いた罰。それがなんなのかはわからないとしても、それを理解している者が故意に引き起こせる病なのだとしたら……。



「……やめよう。こんな事、考えても無駄だ」



 悪い方悪い方へと思考が進んでしまう自分が嫌になり、私は考えるのをやめた。




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