54話 術式魔導書を暴くには。
水色の魔鉱石という物はその色の通り、水属性魔力を付与される事によって造られている。
水色の魔鉱石をあしらった魔導書は、水属性に関する魔導書となり、水属性魔力適性者には魔力ブースターとなる他、魔力の具現化や魔法の手助けも担う事もできる。
しかしそれは魔導書を常に携帯し、外で魔法を扱うのなら理由はわかるし、もしも趣味で集めているのなら他色の魔導書があるのならわかる。
滅多に取り出しもしない本が、全て水属性魔導書というのは明らかにおかしい。
「カタリナお母様は水属性適性者だったな」
私がそう呟くとドリゼラがこくんと頷いた。
「はい。そしてお父様は地属性。だからこそ火属性適性者として産まれた私は、とても有望視されましたわ」
これは貴族間では常識なのだが、両親が持つ属性ではない属性に適性を持って生まれた子供は総じて高い魔力を持つようになる。
何故そういう風に遺伝するのかは、今も魔導科学者たちが目下研究中だ。
「それはそうと、お母様が水属性適性者だと何か関係が?」
「ああ。おそらくその書架の魔導書は全て、術式魔導書だ」
「術式魔導書……?」
ドリゼラが不思議そうな顔をしている。
術式魔導書については中等部の後半で習うから十二歳のこいつはまだ知らないかもしれないな。
術式魔導書とは魔導書自体が何かしらの魔法の術式の一部とされている、要は魔導具として扱われる書物の事だ。
術式として扱う魔導書は単価も高い。コレクションとしてではなく、術式として組み込む為に買い集めたのだろう。
「その魔導書は、水魔力に呼応して反応する術式が組み込まれているのだろう。マーサの言っていた本のカビは虫干しをしていないのもあるかもしれないが、水魔力の高い水分によってカビやすくなっていたんだろうな」
「そう言われてみれば小さな黒カビのある本は魔導書だけだったように感じてございます」
「おそらくだが、その書架に掛けられている魔法、術式が反応すると、埃を被っていない部分から書架が分離し、右側にスライドして稼働するタイプの本棚だろう」
「……なるほど、書架の右側の床がほんの少しだけ擦れたような跡がありましたが、それはそういう事だったのですね」
つまりは魔導式の鍵というわけだ。
間違いない。カタリナお母様は私室のその奥に誰にも知られてはいけない通路、もしくは部屋がある。
「しかしそうなると、その術式を解けるのはカタリナ奥様しかおりませんね」
マーサの言葉に私は顔を横に振る。
「大丈夫だ。そこにいるドルバトスが水属性適性者だ」
「確かに私は水属性適性者ですが、さほど魔力の扱いに長けているわけではございませんし、ましてやカタリナ奥様の施した魔導書の術式などわかりませんよ」
「問題ない。魔導書の術式というものは水魔力の流し方や手順で発動するようになっている。流し方と手順さえわかれば、後は水魔力が生成できれば誰でも解除は可能だ」
「そういうものなのですか。初めて知りました」
ドルバトスの言葉に、
「さすがはデレアお姉様ですわ! 類い稀なる豊富な知識! やっぱりなんでも知ってらっしゃるのですわね!」
と、ドリゼラが過敏に反応していたが、なんだかこそばゆいのであえて無視した。
「しかしお嬢様。その流し方と手順とはつまり鍵の開け方みたいなものですよね。それはさすがに誰もわからないのでは……」
ドルバトスはもっともな疑問をぶつけてくる。
「それなんだが、一応私に考えがある」
「考え、とは?」
「あー……まあ、な。とにかく水魔力が扱えるドルバトスがいるなら後は私がなんとか考える」
「かしこまりました」
「やる事は決まった。機会を見て、カタリナお母様の書架の秘密を暴く事だ」
私の言葉に全員が頷く。
「それには私の方で準備がいる。それまでは皆、屋敷内でいつも通りに過ごしているんだ。カタリナお母様に勘づかれたら厄介だからな」
「ええ、わかりましたわ。ところでデレアお姉様はいつまでこちらに滞在されるご予定なんですの?」
「一応、明日の晩には王宮に戻る予定だ。暇をもらったのは二日間だけだからな」
「そ、それではいつお母様の書架を暴くのですか?」
「少し先になる。と言っても鍵である術式魔導書をなんとかするにはどちらにしろ一旦王宮に戻らないとだからな。私の方で準備が整ったら、また休みを貰う」
「それならば、今度は私が馬車でデレアお姉様を王宮にお迎えに行きますわ。カタリナお母様が外出される日がわかったら事前にお手紙を送りますから」
「ふむ、そうだな。わかった。だが、別にわざわざ迎えに来なくてもいいぞ。どうせ馬車で帰るのは同じだからな」
「馬車の道中でデレアお姉様とお話ししたいんです! 駄目ですの?」
ドリゼラがぐいぐいと私の方へ近づいてくる。
「だ、駄目というか別に話す事なんかないだろう」
「ありますの! 私はたくさんありますの!」
「わ、わかったよ。わかったからそんなに近づくな……」
こいつは中身が変わってしまったのだろうか。ついちょっと前まで散々私に嫌味を言い続けていた生意気な妹だった癖に……。
「ふふふ。デレアお嬢様とドリゼラお嬢様が仲睦まじいのは嬉しゅうございます」
マーサがそう言って笑うと、フランもドルバトスも微笑んで頷いていた。
しかし図書館で調べ物をしようと帰省したはずなのに、とんだ事になってしまったな。
なんにせよ、明日は朝一番で図書館に行って、次の賢人会議に関する情報を調べておこう。




