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53話 カタリナの部屋に隠されたモノ

 ドリゼラの決意を確認した私は、早速その日の晩から行動を開始していた。


 あまり他言して下手な情報を広めてしまうのは良くないと考え、私が信用できそうなマーサとフラン、それにドルバトスの三名をドリゼラに頼んで私の部屋に呼び出してもらい、私は改めて状況確認をした。


 どうやらマーサとフランも前々からカタリナお母様の出所不明な金銭について不信感を抱いていたようだ。


「……それにしてもデレアお嬢様。私は驚きました」


 漆黒のフォーマルスーツをビシッと着こなし、礼儀正しく佇む、細身で長身の、黒い口髭がよく似合うダンディな紳士、家令のドルバトスが低く静かな声でそう言った。


「デレアお嬢様がいつの間にやらドリゼラお嬢様とこれほど仲睦まじくなられているとは」


 ドルバトスは家令としては五年、リフェイラ家の使用人としては二十年近く務めている。使用人の中では侍女頭のマーサに次いで長年リフェイラ家に仕えている人だ。


 年数を考えるとマーサと同じく五十歳近くてもおかしくないのだが、その見た目は二十代にも三十代にも見えるほど若々しい。そして彼は何故か決して年齢を私たちには教えてはくれない。


「べ、別にそういうわけじゃないぞ! 私は仕方なくだな……」


「デレアお嬢様!」


 私がドルバトスに反論しようとしたら、侍女頭のマーサがきつい声で私を睨み付けた。


 はいはい、言葉遣いね……。


「……私は仕方なく、協力してあげるのです」


 くそ、やはり堅苦しい言葉遣いは面倒だ。


「ねえマーサ。この場だけはお姉様の自由にさせてあげてほしいのですわ」


 私が眉間に皺を寄せているとドリゼラがそう懇願してくれた。


「ですがドリゼラお嬢様。デレアお嬢様の言葉遣いはあまりにも貴族として似つかわしくない振る舞いにございます。ましてや今やデレアお嬢様は王宮にも仕える宮廷官。言葉遣いの悪さの癖が露呈してしまうのはよろしくないかと」 


「でもお姉様はこの口調の方がお姉様らしいのです! 私はデレアお姉様には自由な振る舞いでいてほしいのですわ!」


「ドリゼラお嬢様……それは何故ですか?」


「私、お姉様が王宮に仕官してしまう前まで、最近はずっとお姉様の事ばかり見ていましたの。デレアお姉様は自由で伸び伸びとしている方がお姉様らしくて好きなんですわ」


「ドリゼラお嬢様……」


「マーサ様、私も構いませんよ。デレアお嬢様は元々口数の少ないお方でしたが、その原因が堅苦しい言葉遣いが嫌だったからだというのであれば、今日この場だけはデレアお嬢様の好きにさせてみては」


 ドルバトスもドリゼラの意見に賛同してくれた。


「……はあ。わかりました。この場だけは許すとします」


 さすがはドルバトスだ。


 堅物のマーサも家令のドルバトスの言葉は素直に飲み込んでくれる。


「ふふ。これでデレアお嬢様も自由に話せますね」


 フランが小さく笑っていた。


「こほん、話を戻します。ドリゼラお嬢様がデレアお嬢様にお話した通り、私ドルバトスはカタリナ奥様の行動に大きな不信感を抱いております」


「ええ……私もお母様の行動には怪しさが目立つと思いますわ。それでデレアお姉様にお話したんですもの」 


「実は私も以前よりカタリナ奥様の不審な行動は目についておりました。人目を盗んで深夜に外へ出ることもしばしばあったようです」


「私は長年奥様を見てきました。正直に言えばこのような密談で陰口のような真似はしたくないのでございますが、確かに奥様には隠された何かがあるのは否めませんでございます。ですが、推測だけで奥様を悪くは言いたくありません。きっと何か御事情があるのでしょう」


 四人がそれぞれ考えを話してくれた。


「マーサの言う通り推測だけで何もかも決めつけるわけにはいかない。だが、もしこれがリフェイラ家の存続すら揺るがすような悪事に関与しているならば話は別だ。このまま放置しておく事はできない」


「そうでございますねデレアお嬢様。では具体的にどうなさるのですか?」


「まずはカタリナお母様の身辺調査だ。私室を念入りに調べる」


「ですがカタリナ奥様のお部屋には私、侍女どももお掃除などで入らせてもらっております。特に怪しいものなどを見受けたりは致しませんでしたが」


「しかしマーサ様。カタリナ奥様のお部屋のお掃除の際、いつも書架にだけは触るなと仰られておりませんでしたか? 私が以前カタリナ奥様のお部屋のお掃除に行った時、私はそうきつく言われました」


「ええ、私もですよフラン。奥様はあの書架をとても大切にされていらっしゃるようですからね。それが怪しい、と?」


 触らせてもらえない本棚、か。


「私はそもそもカタリナお母様のお部屋にすら入らせてもらった事がないから知らないんだが、その書架というのはどのくらいの大きさなんだ?」


「ちょうど娯楽室にある一番大きなサイズの本棚くらいですね」


「フランとマーサはその書架には指一本触れていないのか?」


「はい。高級そうな本もたくさん見受けられましたし、カタリナ奥様がご自分でお掃除されているのか、いつも綺麗にされておりましたから」


「フランにはそう見えたのならまだまだですよ。奥様の書架の左端の方は薄く埃を被っておりますし、いくつかの本は虫干しもされていない為か、黒ずんだ小さなカビも見受けますよ」


 パッと見は綺麗にされた本棚。


 左端のみ、やや埃を被っている。


 ふむ。


「マーサ。カビの生えた本は結構あるのか?」


「いいえデレアお嬢様。それはさほど多くはございません」


「という事は左端の埃を被っている本だけという事か?」


「それも違います。確かに薄い埃を被っているのは左端の本がほとんどですが、小さなカビが見受けるのは全体的にいくつかの本だけにございます」


「カタリナお母様のその書架に収められている本はどれも同じような物か?」


「内容まではわかりかねますが、サイズ感やジャンルで言えば概ね同様の物でございますね」


「ジャンルはなんだ?」


「ほとんどは魔導書のようです」


 カタリナお母様が魔導書を?


 妙だな。


 カタリナお母様はドリゼラと同じく本の趣向は基本恋愛小説のはずだ。


「あ、でもマーサ。ところどころには貴族間恋愛小説物もありますわ。私、お母様のお部屋で見た事がありますもの」


 ドリゼラが不意にそう言った。


「ドリゼラ、お前はカタリナお母様のお部屋に自由に出入りできるのか?」


「いえ、お母様がお招きになった時だけですわ。それ以外の時は基本、私のお部屋にお母様がいらっしゃってくださったので」


 カタリナお母様の部屋は基本施錠がなされている。


 侍女の一部の者のみがマスターキーを使って掃除の為に出入りする事が許されているが、それ以外は例え実の娘のドリゼラでさえも自由な出入りは禁じているのか。


「ドリゼラ、お前もお母様の書架には触れないのか?」


「うーん……私は普通に触っておりましたわ」


 侍女たちには触らせず、ドリゼラには触らせる本棚。


 でもそれはあくまでカタリナお母様の目の前だから、か。


「……でもそういえば、魔導書だけは触らせてもらえませんでしたわ。私は恋愛小説以外の本はあまり興味がなかったのですけれど、一度だけ魔導書を手に取ろうとしたら、お母様に止められました」


「なんと言われたんだ?」


「危ないからそれは出さないで、と」


 魔導書が危ない、というのは間違っていない。


 強力な魔力が込められた魔導書の場合、手に取るだけでその者に害を及ぼす可能性があるからだ。


 ただ、そんな魔導書はそう多くはないはずだ。


「書架の多くは魔導書なんだよな。そんなに危険な魔導書が大量にあるのか……?」


「デレアお嬢様。それは単純にコレクションではないですか?」


 ドルバトスが私の呟きにそう反応した。


「希少な魔導書は高値で売買されます。カタリナ奥様はコレクターでもございましたから、定期的にオークションで高級な本を買っておられたようです」


 まあ確かにそれは言えるな。


 だが、カタリナお母様がコレクターというのは初めて聞いたな。


 あの娯楽室にある埃まみれの本の様子からしても、恋愛小説が好きなのはわかるが、コレクターとして大事にしているようにはあまり見えない。


「……ふむ」


 誰も触れない高級そうな魔導書、か。


「なあドリゼラ。その魔導書の背表紙には魔鉱石があしらわれているか?」


「え? うーん……多分あったと思いますわ」


「色は覚えているか?」


「うーん……最近あまりお母様のお部屋に出入りしてなかったし、はっきり覚えていませんわ……」


「私が覚えておりますドリゼラお嬢様、デレアお嬢様。カタリナ奥様の書架にある魔導書は全てその背表紙に、水色の魔鉱石があしらわれておりましてございます」


 マーサが代わりに答えてくれた。


「ちなみにカタリナお母様はその魔導書を持ち出したりもするのか?」


「いえ、その書架から本が取り出されている事はほとんどありませんから、持ち出してはいないと思われます」


 背表紙全てが水色の魔鉱石であしらわれた、持ち出される事のない魔導書、か。


 なるほどな。


「そうか。それはもう怪しさを通り越してきたな」


「「え?」」


 その場にいた全員が声を揃えて私を見た。


 さきほどのマーサの言葉で確信した。



「間違いなくカタリナお母様のその書架の裏には、隠し通路があるぞ」





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