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48話 犯人は……

「ヤリュコフくん!?」


 リアンナ長官が声をあげる。


「動かないでください長官! あなたが(あく)なのは間違いがないんだ!」


 ヤリュコフ先輩は右手をリアンナ長官へとかざして、相変わらずリアンナ長官を犯人に仕立て上げようと言葉を続けた。


「私が火属性の魔法が得意なのはご存知でしょう? 妙な動きをしたら長官といえども容赦なく撃たせてもらいますよ!」


 ヤリュコフ先輩は本気のようだ。右手に魔力を集めている。


 尚書官の中でも唯一、二級魔導師の資格を持つだけあって、魔力の精度は高いな。


 それにしても私の周りにいる火属性魔力適性者はどうにも短気な者ばかりだな……。


「ちょっとやめなさいよヤリュコフくん! あなた、長官を殺す気!?」


 ミャル先輩が声を荒げた。


「殺す気なんてありませんが、こうでもしないと言う事を聞いてくれないでしょう!? 私はこれまでずっとリアンナ長官を敬愛し、理想としてきたというのに、まさかこんな形で裏切られるなんて……!」


「ヤリュコフくん、それはどういう事……!?」


「ミャル先輩もリアンナ長官が優れた尚書官である事はわかっているでしょう!? だが長官はその優秀さゆえに道を誤ったんですよ! だから私は長官に罪を贖ってもらいたいのです!」


「長官が道を……!? せ、説明してよヤリュコフくん!」


「長官は……リアンナ長官は国家転覆を企てているんです。ナーベル法官と共に! ナーベル法官に命じられて国璽(こくじ)を悪用し、マグナクルス国王陛下を失脚させようとしているんですよ!」


「私が国家転覆を? そんな馬鹿な事、するはずがないじゃない!」


「ではこの事件は一体なんです!? まるで()()()()()()()()()かのように国璽(こくじ)は失われ、そしてそれを我々の誰かのせいにしようと企んでいる……!」


 タイミングを計る? まさか。


「違うわヤリュコフくん! むしろ私はナーベル法官に警戒を怠るなと言われていたのよ!?」


 そうか。これはもしかすると、両者共に傀儡(かいらい)である可能性も浮かんできたな。


 私は宮廷貴族たちの派閥争いには無頓着だが、尚書長官ともなれば派閥争いに大きな影響力もあるだろう。


 何せ国璽(こくじ)という超重要品を管理しているのだからな。


「落ち着いてください二人とも。ヤリュコフ先輩も魔力を抑えて。そんな感情を昂らせて魔力を精製していたら暴走しかねませんよ」


 私がそう諭すも、


「だいたい新人のデレア! お前が奇妙な事を言い出すから悪いのだ! 昨晩、貴様は本当に男を見たのか? そんなわけはないんだ! 私は確実に見ているのだからな! 貴様のわけのわからない嘘のせいで話が拗れてしまったんだぞ!?」


 憤ったヤリュコフ先輩は聞く耳など持つはずがない。


 確かに私の目撃情報は真っ赤な嘘だ。


 だが、その嘘のおかげで見事に色々なものが浮き彫りになってきている。


「話が拗れてしまったのは確かに私のせいです。それは謝りますが、ヤリュコフ先輩、リアンナ長官、二人とも冷静になって考えてみてください。おかしいと思いませんか?」


「何がだ新人!? 私はおかしな事など言っていない!」


「ヤリュコフ先輩だけじゃないです。リアンナ長官もですよ」


「え……? デレアさん、それはどういう……」


「いいですか。今回の事件、おそらく犯人は我々尚書官の誰でもありません。尚書官以外の犯行でしょう」


「そんなはずがない! 私は言われたんだッ!」


 と、ヤリュコフ先輩がそこまで口走ったところで彼は表情をハッとさせた。


「誰に、何を言われたんです? ヤリュコフ先輩?」


「そ、それは……」


 口止めされているな。だが流れから考えるとおそらくナーベル法官とは相対する位置関係の宮廷官。


 昨晩、リアンナ長官から今度の賢人会議の話を聞くついでに宮廷官の名簿も見せてもらっている。相互関係はまだ不明瞭だが、ヤリュコフ先輩がこれほど言いくるめられてしまっている様子に加えて私の知る限りの情報から鑑みると、


「ザイン宰相、ですか」


「な……何故それを……!?」


 当たり、か。


「ザイン・アレクサンドルス宰相。彼は確か昔から王家寄りの宮廷貴族でしたね。昨今、陛下に対しやや反発的なナーベル法官とは水面下で何度か衝突もあったと聞きます。ヤリュコフ先輩はザイン宰相に何を言われたのです?」


「……リアンナ長官を秘密裏に探れと言われていた」


 いい加減、ヤリュコフ先輩も隠す事は諦めたか。


「なるほど。その理由は、リアンナ長官が国璽(こくじ)を悪用し国王陛下に仇なす危険因子となるかもしれないから、とかそのような事を告げられた感じですね?」


「……」


 ヤリュコフ先輩は黙ってしまった。


「ヤリュコフくん、それは本当なの……?」


 リアンナ長官が不安そうな顔で彼に尋ねているが、彼女も同じような立ち位置だ。


「リアンナ長官。あなたもナーベル法官から同じように言われていますよね。尚書官たちに注意しろと」


「ええ、そうよデレアさん。そもそも私はそれだけじゃなくさっきも言った通り、国王陛下直々からも国璽(こくじ)について相談されてるの。その私がどうして国家転覆なんて考えるの?」


「とにかくヤリュコフ先輩。一旦その手の魔力を引っ込めて、お互い落ち着いて洗いざらい話し合いませんか? 私の考えだと、これはおそらく試されてますよ」


「「た、試されてるだって!?」」


「はい。新人尚書官の私とカリン先輩以外の人間を試しているようです」


「そ、それはどういう意味だデレア! 詳しく話せ!」


「その前にひとついいですか。ヤリュコフ先輩、さっきタイミングを計ったかのように、と言いましたよね。それってどういう意味です?」


「賢人会議だ! 次の賢人会議には国璽(こくじ)が使われる! 次の賢人会議はこれまで以上に大きな取り決めごとが議題にあがる。真に重大な会議なのだ。だから私はそう言ったのだ!」


 やはりそうか。


「なるほどなるほど……少し見えてきました。結論から言えば、ヤリュコフ先輩もリアンナ長官も、ついでにナザリー先輩やミャル先輩もおそらく無実です」


「デレアさん……私には何がなんだか……」


「そんな馬鹿な! では一体誰が犯人だと言うのだ!?」


「長官、ヤリュコフ先輩、それにみんな。聞いてください」


 私はそう言った後、ひと呼吸起いた。



「これは諸外国と通じている者を炙り出すための、罠なんじゃないでしょうか」




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