46話 疑心暗鬼
「違います。リアンナ長官は犯人なんかじゃない」
私は強い口調で言い切る。
「デレア。新人の癖に随分と生意気な物言いだな。私の言っている事がおかしいというのか?」
ヤリュコフ先輩が睨みをきかせてくるが、生憎私はそういうのには臆さない性格だ。
「いえ、ヤリュコフ先輩の言い分も憶測としては間違いではないと思いますが、それでもやはりリアンナ長官は犯人じゃないんです」
「どういう意味だデレア。詳しく話せ」
「まず長官は最初にこの事を公にしたくないと仰っていました。それはつまり、できるなら内密に解決したいという事。もし私が犯人ならすぐに衛兵を呼びに行きます。その方が手っ取り早く賊の仕業だと広まりますから」
「それは……そうかもしれんが、我々尚書官四人になんの心当たりもなければ結局は衛兵に知らせる必要があるから、何も変わらんだろう」
やはりヤリュコフ先輩は食い下がるな。
「ちょっとリアンナ長官にお聞きしますが、もし私たちが何も知らなければどうなさるおつもりでしたか?」
「確かにヤリュコフくんの言う通り、どうしても解決しそうになければ衛兵に連絡するわ。けれど、まずは尚書官みんなの話を聞くべきだと思って……」
そうなのだ。
私もこれに違和感を感じていたのだが、この言い方から考えるにリアンナ長官は何かを知っている。
だからこそ、私たちから何かを聞き出そうとしているのだ。
まずはそこをハッキリさせないといけない。
「リアンナ長官は私たちに何を聞きたかったんですか?」
「だからそれはこの部屋の事で何か心当たりがないかって思って……」
この聞き方では駄目だな。平行線だ。
仕方ない、少々場が荒れそうだが煽るとするか。
「抽象的すぎます。それでは何もわかりません。リアンナ長官、ハッキリ仰ってください。あなたは私たち四人の誰かが犯人だと、逆にそう言いたいんですよね?」
「「っな!?」」
当然の如く、ナザリー先輩、ミャル先輩、ヤリュコフ先輩が声を上げた。
「……自分の不祥事を棚にあげて、そんな事を!? 本当に見損ないましたよ、リアンナ長官!」
ヤリュコフ先輩が案の定憤っている。
「ヤリュコフ先輩、少し落ち着いてください。リアンナ長官、お願いします。知っている事、聞きたい事を明確に話してください。そうでなければ何も進みません」
「……わかったわデレアさん」
ようやく話す気になってくれたか。
まずはここからだ。
「実は数日前、こんな話をナーベル法官から聞いたの。国璽を悪用しようと企んでいる不届者が王宮内にいるから警戒を怠るな、って」
ナーベル様は王宮でも古株の法官だ。
尚書長官のリアンナ様とは仕事の関係上、やりとりする機会も多いのだろう。
「それと私たちに聞きたい事というのはどういう関係があるのですか?」
「こんな事、言いたくなかったんだけれどもう事件が起きてしまったなら隠し立てしていても仕方ないものね。ナーベル様は仰ったわ。その不届者は尚書官業務室を頻繁に出入りする者かもしれない、と。つまり、私たち尚書官の誰かが国璽を悪用しようと企んでいるのかもしれないの」
リアンナ長官は険しい表情でそう告げた。
「そんな……私たちの中の誰かが……?」
「嘘……」
ミャル先輩もナザリー先輩も驚きを隠せずにいる。
「ふざけているんですか? 我々の誰かが犯人だって? そんな事は絶対にありえない! そもそも金庫の暗号化された魔力は長官と陛下以外には解く事すらできないんです! 我々が盗るはずがない!」
反対にヤリュコフ先輩だけは更に憤ってしまった。
「お、落ち着いてヤリュコフ先輩……」
「そうよヤリュコフくん。何もそんな怒鳴らなくても……」
「ナザリーにミャル先輩! 二人はなんとも思わないのか!? 長官は我々が犯人だと言っているんだぞ!」
「落ち着いてくださいヤリュコフ先輩。もう少しリアンナ長官の話を聞いてですね」
「おい、新人のデレア! お前も他人事のように言ってるが、お前の事だって疑っているから長官はお前もここに呼んだんだぞ!?」
駄目だな。ヤリュコフ先輩はすっかり頭に血が昇ってしまっている。
私は彼の説得を放置し、再びリアンナ長官の方へと向き直す。
「……リアンナ長官。それだけの情報では悪戯に私たちの感情を逆撫でするだけです」
「そうね、ごめんなさい。ナーベル法官に注意喚起を促された私はここ数日間、更に警戒を高めてたわ。けど金庫ごと盗まれてしまった。それで私が皆に聞きたかったのは、昨日の晩、何をしていたかって話よ」
アリバイ調査、か。
だが、それでは……。
「やはり我々を疑って……長官! この犯行は長官以外にはありえないと何度言えばわかるんですか! 我々には国璽を取り出す事も運び出す事もできないとさっきから言ってるでしょう!?」
ヤリュコフ先輩が案の定また怒鳴り声をあげている。
「一応念の為の確認よ。教えてもらえると助かるんだけど……」
リアンナ長官はヤリュコフ先輩の圧に押されつつもそうお願いしてきた。
「……私は部屋で寝てましたよ。当然ですよね、深夜なんですから」
自分たちを疑っているリアンナ長官に不信感を抱いているのか、ミャル先輩が少し冷たい口調で答える。
「わ、私も寝てました……で、でも夜中に何回かおトイレには行きましたけど……でもでも、尚書官業務室には寄ってないですよ!?」
ナザリー先輩はどぎまぎとしながら答えた。
「私も同じだ! 真夜中なんだ、寝ているに決まっているでしょう!」
ヤリュコフ先輩も憤りながら、つられて答える。
「……デレアさんはどうかしら?」
リアンナ長官が私を見る。
彼女はその質問に対する私たちの反応を見ているのだろう。そこから色々探ろうと。
こんな質問に意味などあるはずがない。自ら「自分は夜中に不審な行動をしてました」などと言うはずもないからだ。
だがしかし、これでは話は平行線のままだろう。
このまま停滞されて、このごたごたが長引くのはかなり厄介だな。
……仕方がない。また仕掛けるか。
「私、今まで言い出せずにいたんですが、実は昨晩中々寝付けなくて、蒼い夜月を見ながら真夜中の王宮内を散歩していたんです」
「「え?」」
その場にいた全員が声を揃えた。
「それで私、昨晩見ちゃったんですよね。ここに出入りしていた怪しい人影を」




