44話 賢人会議に向けて
概ね予想していた通りだったな。
と言うのが私の今の感想。
「ある程度予想はしていたけれど、まさかここまでなんて……」
そう言葉にして驚きを顔に表しているのはリアンナ長官だ。
「嘘……デレアさん、やばすぎ……」
同じように目を見開いて呟いているのはナザリー先輩。
「それで、どうなんでしょうか?」
「ええ、合格よデレアさん。申し分ない、わ……」
私に課されたリアンナ長官からの質問とは、私の予想通り先程受けた賢人会議に関する説明や注意事項、書記の心構えや記録の取り方などに関する質問だった。
ただかなり意地悪な質問もいくつかあって、「賢人会議での注意事項、その一から十までについて、私が説明した言葉をそのまま可能な限り一言一句違えずに答えなさい」という質問は、一般人なら相当に難易度の高い質問だろう。
それよりも、それを三十秒以内に答えろというところが私にとっては何よりも高い難易度だった。
「ふぅー……こんなに早口で何かを喋ったのは初めてなのでさすがに疲れました」
「そ、それもそうだけど……アレを全て完璧に答えたのはデレアさん、あなたが初めてよ……」
だろうと思った。
おそらくあの質問こそが一番の注目点なのだろう。リアンナ長官はそこで覚えられる量を見ているに違いないと思った。
私はこれを当然完璧に答えたわけだが、それにはワケがある。
「デレアさん、やる気なさそうだったのに凄いわ!」
ナザリー先輩の言う通り、私は書記など本格的にやるつもりはない。
が、途中でひとつ思い付いたのだ。
ここで私が凄い活躍を見せれば、ワンチャン私には特権が与えられるのでは、と。
尚書官は私を含め五名がいて、その取りまとめ役として上長に尚書長官のリアンナ様がいる。
尚書官の先輩方は皆、リアンナ長官を崇拝し、敬っている。そして絶対に逆らわない。
そこで私は考えた。
そんなリアンナ長官に気に入られ、書記の仕事を完璧にこなしたら、私のわがまま、つまり特権的なものが色々通りやすくなるのでは、と!
例えば仕事の為に本が読みたいから、自室(世話になっている宿舎)に持っていっても良いか、みたいなね。
「本当に驚かされたわ……あの質問はハッキリ言って間違えさせる為の質問だもの。カイン先生からはただデレアさんは歳に似合わず博識だとしか聞いていなかったけれど、こんな能力まであるなんてね……」
リアンナ長官はよほど衝撃だったのか、今も驚きを隠せずにいる。
「内緒にしていましたが、私は記憶力だけは自信があるんです」
「本当にそうみたいね。実際、あなたに仕事の事や王宮に関する事を説明した後、あなたが聞き直した事なんてただの一度もなかったものね」
「それでも筆記は早い方ではないので、そこだけはご容赦ください」
「わかったわ。それじゃあデレアさん、当日はよろしくお願いね。ナザリーさんはよく練習しておくように。今から尚書官業務室に戻って前回のおさらいをしましょうか」
「ひえ!? い、今からですか!?」
「そうよ。ひとまずあなたは先に書記の練習に必要な筆記用具を用意してきてちょうだいね」
「わかりました……」
そうして、私は王宮に来て数日で賢人会議の書記を務める事となってしまった。
面倒くさいがこれをこなしてしまえば色々と私にとって利益がありそうだし頑張るとするか。
「うう……結局私もやるのね……」
ナザリー先輩は肩を落としながら部屋を出て行った。
彼女がパタン、と長官室から出ていくのを見計らうとリアンナ長官が私の肩に手を掛けてきて、こう囁いた。
「デレアさん。あなたにだけ伝えておきたい事が……」
●○●○●
「……さて、賢人会議までに一度外出許可をもらうか」
私は王宮寄宿舎の自室でぼやく。
賢人会議はどうやら月末、今から約三週間後に開かれるらしいので、少し猶予がある。
私はその間に少しだけ休みを貰い、学院の図書館に行きたいと思っていた。
何故なら、学院の図書館のとある本を読みたかったからである。
「賢人会議となると、おそらく今の私でも知らない単語、言葉、意味が出てきそうだ」
私は特に図書館にある法官が読むべき本、ヴィクトリア法典などにもしっかりと目を通しておくべきだと考えたのである。
「しかし私が書記、ねえ。ま、でも書記なら王宮のお偉さん方の前でこの口の悪さがバレる心配はないか。喋る事はないだろうし。っていうか喋らないし」
私の口の悪さはやはり癖が強いので、感情が昂るとどうしても制御できなくなる。
と、最近理解してきた。
またいらぬトラブルを起こしたくないし、粛々と私は私の業務をこなす事にしよう。
私の目標は、リアンナ長官を認めさせる尚書官になって私だけの特権を手に入れ、自由きままな読書ライフを過ごすんだ!
そして静かに目立たず細々生きるのだ。
……という私の野望は、早々に打ち砕かれる事になる。




