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38話 宮廷で再会

 ――あの日、ベンズ邸を出てから、馬車の中での出来事。


「お前に王宮女官の推薦状が来ている」


 と、突如ギランお父様に告げられる。


 選択肢の三つ目は、リフェイラの令嬢として王宮内で仕えろというものであった。


「お父様、それは一体?」


「大舞踏会でのお前の活躍が目に留まったのだ。カイン・ルブルザーグ特級魔導医師より直々に異例の推薦状が届いている」


 カイン先生か。というかあの先生、特級魔導師だったのか。とんでもない人なんだな。


 魔導師の()()()は三級からあり、二級、一級と数字が少ないほどに優れているが、特級だけは一級よりも更に格上とされ、特別な意味を持っている。その内容は様々だが、普通ではありえないような功績や能力が伴った者にしか授与されない称号だ。


「此度のお前の優れた能力をぜひ王宮で役立てないかと打診されている。どうするデレア?」


「王宮に……」


 以前までの私なら間違いなく秒で断った。


 しかし今は少し考えている事がある。それは知識の更なる探究。


 貴族魔法学院の巨大図書館は確かに宝の宝庫だ。まだまだ読みきれていない本たちがわんさかといる。


 だがそれらでは一般的な情報までしか得られない。貴族以上なら誰でも閲覧できるのだから。


 私は最近、以前より更に知的探究心が溢れかえっている事を自覚している。様々な新しい本を読みたいのだ。


 王宮ならもしかすれば、まだ見ぬ本たちがもっとたくさんあるかも。


「お前の考えはお見通しだデレア。そしてその通り。王宮の蔵書ならば更に一般人には閲覧不可能な文献、書物、資料を読む事が可能になるだろう」


「……」


「お前が望むなら、私は王宮に勤める事を許可する。無論、その場合はカイン様の働きによって貴族学院は特別卒業としてくれるそうだ」


 それは願ってもない!


 貴族魔法学院を卒業し、卒業の証さえ身につけていれば、学院の図書館もいつでも気兼ねなく自由に出入り可能となる。


「お父様。私は王宮でどんなお仕事をすればよろしいのでしょうか?」


「という事はデレア。お前は三つ目の選択肢、リフェイラ家の令嬢として王宮に勤める道を選ぶのだな」


「それは王宮でさせられるお仕事の内容次第です」


「ふむ。お前の仕官先は尚書官(しょうしょかん)。主に蔵書の管理だ」


「しょ、尚書官!?」


 尚書官(しょうしょかん)とは王宮の尚書、つまり、王国における重要な機密書類や各会議の議事録、王と各諸侯らとの契約書など国営に関するありとあらゆる書類の監視、管理をする者だ。


 ヴィクトリア王国における尚書官は特に王家と密接な関係になるとも言われている誉れ高い宮廷官だ。


「ヴィクトリア王国の王宮には尚書長官(しょうしょちょうかん)の下に五名の尚書官を設けているが、元々一人空きがあったのだ。おまけに尚書官に適任な宮廷貴族がほとんどいなかった為、長らく人手不足だった。そこでデレア、お前が抜擢されたのだ」


 お父様の言う事はわかるが、ただの平民だった女が貴族に成り上がって、更には突然、弱冠十四歳の女が王宮の尚書官になってしまうと言うのは……些か面食らってしまう。


「ちなみに王宮に仕官した者は王宮内の貴族用宿舎で寝泊まりする事が希望できる。無論、通いでも良いし現に私は外交官として王宮まで通い業務に当たっている。だが、お前の場合だけはカイン様より直々に、住み込みで仕官せよとの条件付きだ」


「何故ですか?」


「色々理由はあるだろうが、おそらくはまだ信用性の問題だろう」


 ギランお父様曰く、尚書官というのは超重要書類や機密情報が山盛りだ。安易にそれらを漏洩されても困るのと、早く仕事に慣れて欲しいという事らしい。


「住み込み、ですか」


「そうだ。そういうのも含めて、よく考えると良い」


「……しばらく考えさせてもらってもよろしいでしょうか?」


「うむ。だが三日以内には返事が欲しいと書いてあったから、それが期日だ」


 そうして私は二日間考え抜いた結果、王宮の尚書官に仕官する決意をした。


 家を出て王宮で住み込む話はすぐにドリゼラと義母カタリナに伝わり、ドリゼラとカタリナはその日の晩、一応私のもとへ挨拶にきた。


 カタリナお母様は「せいぜいリフェイラ家の恥にならないようにしなさい。もし何か不手際や不始末があったら困るのは私たちリフェイラ家なんですからね」と、相変わらず冷たく突き放された。


 ドリゼラもカタリナの前では「さようなら」とだけ言っていたのだが、その日の深夜になってカタリナが寝静まった頃にすっ飛んできて「嫌よお姉様! 行かないでよぉ!」と、大騒ぎしていた。


 もうなんかアイツ、本気で私の事を実の姉だと思い込んでるのか、異様なくらい好かれててちょっと気持ち悪い。まあ、前よりは全然いいんだけど。ドリゼラは本当に人でも変わったみたいだ。


 リフェイラ家に勤める者たちにも一通り挨拶した。


 家令のドルバトスは淡々とした口調だったが、丁寧にお別れの挨拶をしてくれた。


 侍女のフランとマーサはこんな私がいなくなるのを実に寂しがってくれた。


 とはいえ、王宮住み込みでもたまにはここに帰るとは伝えてある。ドリゼラの本もまだ結構読んでいない物もあるし。


 最後、ギランお父様から少しだけ注意喚起だけされた。


 それは王宮内での活動についてだ。


 なんでも昨今、宮廷貴族と王族との派閥争いや諸外国からの密偵、スパイ疑惑問題なども混在していて中々に混沌としているらしい。


 だから行動には十分に注意しろと言われた。


 まあ、どうせ私は本を読んで大人しくしているだけだから関係ないけどね。


 とまぁそんなこんなで私はリフェイラの屋敷を出て、新生活が始まった。


 王宮に出向き、面倒くさい書類手続きを済ませ、尚書官の制服と宮廷官としての証である大鷲を模した徽章(きしょう)を授けられ、その後案内された宿舎に自身の荷物を置き、そしてその日のうちには職場である尚書官の仕事場である業務室に案内された。


 長く腰ほどまでに伸ばされた美しい黒髪が綺麗で特徴的な尚書長官のリアンナ様に挨拶をし、リアンナ様から紹介されて他の尚書官四名とも簡単な挨拶を交わし、尚書官としての日々の仕事に関する流れを大雑把に説明してもらった後、蔵書に関する機密保持、情報漏洩の厳禁を約束させられ、私の王宮お勤め初日は終わった。


 翌日にはすぐに仕事が始まった。


 リアンナ様に命じられ、私は第三蔵書(だいさんぞうしょ)室の本棚の整理、管理を担当する事となった。


 王宮の蔵書は驚くほど多く、蔵書のある部屋が六箇所もあり、管理が恐ろしく大変だと他の尚書官らに言われていた通り、第三蔵書室だけでも圧倒的な書架と本の多さに私は思わず目を輝かせてしまった。


 ここは宝の山だ。


 ひとまず私はリアンナ様に言われた通り、第三蔵書室の本のチェックを始める事にした。


 リアンナ様は「まずはこの部屋の全ての本を一ページずつ見ていって、掠れて読めない文字がないか、不備はないかの再点検と本の裏表紙内側にある蔵書印の確認をお願い」と言われたので、端の本からそれを実践する事にした。


 初めに手に取った本はヴィクトリア王国の歴史書だった。


 私は調査というのをすっかり忘れご満悦に浸りながら歴史書をいくつも読み耽っていると、突然第三蔵書室の扉が開かれ、そこに現れたのがまさかのグラン様だったのである。


「グ、グラン様!? 何故ここに!?」


「やあデレア。会いたかったよ」


 そんな安っぽいセリフもグラン様が笑顔で言うと、なんでかものすごく眩しいから不思議である。


 グラン様に話を聞いたところ、彼は私と同じくこの王宮に住み込みで勤めており、なんとマグナクルス王の近衛兵なのだそうだ。


 しかし、グラン様は近衛兵という感じには見えない。線も細く、綺麗な顔立ちもしているし、どちらかというと政務補佐などの内政官に携わっているように見える。


「デレア、キミが王宮に仕官する話をカイン先生から聞いてね。会いに来たんだ」


 彼はそう言って笑うと、


「今、実は私も今少し暇なんだ。よければキミの仕事、手伝わせて欲しいな」


 そう続けて、隣に近づいて私が読んでいた歴史書を一緒に覗き込む。私は彼の顔を見ないふりしていたが、内心「近すぎる!」と叫び出しそうだった。



 そして気づけばその日。彼とこの国の歴史について長く語り合ってしまっていたのである。

 


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