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37話 王宮尚書官、デレア・リフェイラ

 この世界には『魔法』と呼ばれる力があって、『魔力』という源から、それらは生成される。


 魔力とは一部の選ばれた血を引く人間、つまり貴族と、魔族や魔物にしか宿らないとされている。


 古来より、魔力を持ち詠唱文を使わずに魔力の具現化のみで人々や家畜などを見境なく襲う存在を魔物と言い、高度な言語を巧みに操り様々な魔法を扱い、主に人間のみに仇なす存在を魔族と言った。


 魔族は人間たちよりも遥かに強大な魔力を保持していて、人間は絶滅させられると思われていたが、そうはならなかった。


 ヴィクトリア王国歴五百二十六年の現在において、今や魔族による被害はほぼ天災と呼ばれるくらい稀にしか起こり得ないほどに激減している。


 それというのも今から約五百年も前に魔族、魔物らを統括する魔王と呼ばれた存在が、突如現れた聖なる力を持つ勇者ら一行によって討たれたからだ。


 それ以降、魔族は人々の住む地から遠く離れ、隠れ住むようになり、人々は魔族の脅威から解放された。


「……そして平和な世の中となり、今や魔力という力は人々の生活基準を向上させる為の(いしずえ)となった、と、歴史書にはある」


 私は本棚と小さな机が二つしかないとある一室で、いくつかの歴史書を机に開いて呟く。


 この部屋にある歴史書はいくつか種類があるが、どの文献にも書かれている内容はほぼ変わらない。


「けれど私が思うに多分、この歴史は人々の都合の良いように改ざんされていると思うんだ」


 そうでなければこの歴史はあまりにも人間にとって都合が良すぎる。


 魔力を持つ魔族や魔物は古来より存在し、その発祥は不明。そして突然現れた勇者ら一行の存在。


 不自然なこの歴史の答えはこうだ。


「勇者とはおそらく魔族だ」


 私も実物は見た事はないが魔族の外見は人間と瓜二つであり、その違いは見た目だけではほとんど区別が付かないのだという。


 唯一の違いは強大すぎる魔力であり、溢れ出た魔力が身体の一部を変化させてしまう事すらもあるそうで、それが角であったり翼であったりすると、悪魔と呼ばれたりするだとか。


 対して当時、人間には大した魔力はほとんどなかったそうで、どう考えても魔王を打ち破れるとは考えにくい。


「人と区別が付かない魔族の一部がなんらかの理由で人々を守る勇者を名乗り、そして魔王を討った。そう考える方が自然。そして……」


 貴族とは魔族の末裔なのではないだろうか、と私は考えた。


 元来、人には魔力という力は持ち合わせていなかったが、どこからか現れた魔族と呼ばれる存在と人が交わり、そして魔力を持つ人間が生まれたのではないだろうか。


 私がこの考えに至ったのはもう何年も前だ。


 私は貴族が嫌いだ。


 それは奴らがお母さんを殺した存在だからだと考えていたが、根本的に昔から平民以下と貴族らには大きな軋轢がある。貧困さというだけでは計り知れないほどに。


 その原因は、体内に流れる人間と魔族の血がそれぞれ遺伝子レベルで反発しあうからなのではないかと考えたのだ。


「ではキミは貴族と平民が歪み合い、そして貴族が平民を虐げるのは、魔族が人間を虐げようと本能的に思っているからだと、そう言いたいんだね?」


 貴族の正装を着こなした一人の青年が私の言葉を真剣な面持ちで聞き、そう返してきた。


「うん、そう。そうだとするならば、色々な矛盾が解決すると思わない? だって私たちの祖先は魔族だったんだから、でさ」


「なるほど。仮説のひとつとして考えるには中々興味深いね」


「そうでしょ!? 他にもね……」


「ふふ」


「な、何?」


「今のキミはとても輝いているね」


「へッ!?」


「好きなモノ、特に本の話に熱中している時のデレアはとてもいきいきとしている。ぶっきらぼうな言葉づかいもとても愛らしいよ」


「はわーーーーっ!」


 はわーーーーっ! しまった私! 私しまった!


 ついつい夢中になって自分の考えを推し広めようと、素の口調になっちゃってた!


 いやいや、そもそも目の前にグラン様がいるのがおかしいし、この状況やっぱおかしくないか!?


 私は恥ずかしさのあまり、思わず彼から背を向ける。


「デレア。やっぱりキミと本の内容を語り合うのはとても楽しい。またこんな日が来るなんて夢のようだ」


 はうう……それは私も……だけど……。


 でも目の前にグラン様がいる事を再認識し直しちゃうと冷静でいられなくなるッ!


「あ、あんまり揶揄わないでくださいグラン様!」


「ふむ、また敬語に戻ってしまったな。だけど、眼鏡の奥に見えるその瞳の輝き、その美しさは私以外には中々気づけないだろうね」


 そうだ! 眼鏡!


 私はたまに夢中で本の話をしているうちに眼鏡をズラしてしまう癖があるらしい。


 慌てて眼鏡を掛け直した。


 しかもどうやら気づかないうちに素の口調も出ていたらしい。


 どれもこれも恥ずかしい!


「だがデレア。さっきの仮説は王宮内で吹聴しない方がいい。あらぬ誤解を生みかねないからね」


 それは私も思っていたので、これまで誰にも話した事はなかった。


「で、どうだい? 優秀なキミの事だ。もうここには慣れたかな?」


「いえ……まだ全然……」


「そうか。でもここならキミの欲求を満たすのに十分な場所だろう?」


「……はい。ここ、王宮の蔵書室は本当に素晴らしいです」


 私の返事にグラン様がまた笑みを浮かべた。


 そう。私は王宮に仕官し、王宮の尚書官(しょうしょかん)となったのである。



 それというのもお父様に問われたあの日、あの時に提示された選択肢の結果だ――。




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