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32話 ベンズ家の問題

「おお、おお。これはこれは根暗ブス眼鏡女のデレアじゃないか。相変わらず醜い顔だな」


 おお、おお。


 これはまた久しいクソ虫の鳴き声を聞く事になろうとはな。


 そう。私の目の前には今、私の初めてを捧げた相手、辺境伯の子息のグロリア・ベンズがいる。


 初めてとは、初めての婚約者であり婚約破棄をされたという意味だぞ。こんな奴に指一本触れてはいないからな。


「これはこれはグロリア様。お久しゅうございます」


 私は一応令嬢の礼儀作法に則って、カーテシーと敬語で対応した。


「なんだ、今日は猫でも被っているようだな。能無しで不敬の極みの性悪ブス根暗眼鏡女めが」


 こっちが下手(したて)になると言いたい放題だね。


 さすがお手本のようなクソ虫だな。


「……その節は大変なご無礼を、まことに失礼致しました。心よりお詫び申し上げます」


「ふん! ようやく自分の立場がわかったようだな。ブス! いつまでもその顔を見ていると吐き気がする。私は部屋に戻らせてもらう」


 そう言ってグロリアは背を向けて、すたすたと屋敷の奥へと消えて行った。


 私が今日、異様に下手(したて)なのはワケがある。


「よく来てくれた、ギラン卿にデレア嬢!」


 声高らかに私たちを出迎えてくれたのはベンズ家の主人、ザルバ・ベンズ辺境伯。グロリア・ベンズの父である。


「本日は素晴らしいお屋敷にお招きいただきまして光栄の極みにございます、ザルバ卿」


 父、ギランがザルバに対してお辞儀をしてそう答えた。私も真似をする。


「いや、むしろこちらこそ勝手を言ってすまないなギラン卿。デレアくんもこのような関係上で我が屋敷に来るのは実に困惑させられただろう」


「いえ。そのような事はありません。過去は過去と割り切っておりますゆえ」


「ははは。デレアくんからそう言ってもらえると助かる。さあ二人共、早速こちらに来てもらえるだろうか。此度の我が屋敷に起きている悪霊事件について詳しく話がしたい」


 そう、今日私が父のギランと共にベンズの屋敷にやってきたのは屋敷の主人、辺境伯のザルバ卿に呼ばれたからであった。


 ――大舞踏会が終わってから五日後の事。


 夜、私が自室にて食傷過ぎるほど読み繰り返したドリゼラの貴族間恋愛小説(それでも一応まだ読んだことのないやつ)を読んでいると、珍しくギランお父様本人が訪れてきた。

 

「ベンズ卿の屋敷に招かれた。私とお前の二人だ。これは断れない」


 私は露骨に不快な顔をした。


「デレア、お前の気持ちはわかる。お前とグロリアの関係性は最悪だ。お前の無礼は私が当時謝罪し、ザルバ卿もおおらかなお方だったので大事にはならずに済んだ。グロリアはずっとお前の文句を言っていたらしいがザルバ卿がご子息の方も窘めてくれたそうだ。だが、この件のせいで我がリフェイラ家はベンズ家に対して借りを作ってしまったのもまた事実だ」


「借りと言われても、勝手に婚約者にされ、勝手にデートに付き合わされ、しかも勝手に向こうが私の事をブスだのなんだの言って婚約破棄してきたのですよ。それで私が悪いというのは納得がいきません」


「……デレア。お前の言い分はわかるが、グロリアの前でお前がわざとそういうツンケンした態度をとったり、絶対に眼鏡を外さなかったり、会話をつまらなそうに聞いてみたりする態度に我慢ならなくなって怒っているとするなら、お前はお前で無礼にもほどがあると咎められるのは当然。お前に非がないと言い切れるのか?」


「それは……まぁ言い切れませんけど」


「だろう。だが、私としてもお前の幸せを願っての縁談だったとはいえ多少強引すぎたと反省しているからこそ、お前たちの婚約破棄の尻ぬぐいは甘んじてしたのだ。しかしそれでも、ベンズ家との縁を完全に切ってしまったわけではない」


「……それでは此度はまるきり別件で招かれたという事ですね?」


「そうだ。今回ザルバ卿に招かれた理由。それは――」




        ●○●○●




「……どうだろうか」


 ザルバ卿が神妙な面持ちで私に尋ねる。


「どう、と言われましても患者は眠っておられるようですからこれでは何もわかりません」


「そうか……では一度、応接室に戻ろうか」


 私はザルバ卿から、とある人を診てほしいと頼まれた。


 その相手とは、ザルバ卿のお母様、エレイン・ベンズ様である。


「先程簡潔にお話は伺っておりますが、盗賊騒ぎの件と悪霊についてもう一度詳しくお聞かせ願えますか?」


「うむ……」


 応接室にて私がザルバ卿に尋ねる。


 今回私と父のギランが招待されたのはベンズ家に起きているとある問題ごとについての相談だった。


 約ひと月ほど前。ちょうど私とグロリアの婚約破棄騒動があった直後くらいの頃。


 ベンズ家では不思議な現象が起き始めていた。


「ねぇあなた。私のお気に入りの髪飾りはどこかしら?」


「旦那様。先日ここに飾ったばかりの新しいアンティークの花瓶を知りませんか?」


「父上。私の大切な反属性リストバンドを知りませんか?」


 ベンズ家に住む者たちが皆、口を揃えて次々にザルバ卿へと物がなくなったと尋ねてくるのだそうだ。


 が、当然ザルバ卿にはどれも心当たりなどない。当初はただのうっかりで失くしたのだろうと適当に考えていたのだが、とある日。


「おいザルバ! あたしの物が色々盗まれた! これは絶対盗賊の仕業だよ!」


 ザルバ卿の母であるエレインが突然大騒ぎしてザルバ卿のもとへとそう詰め寄ったのだという。


 確かに最近、屋敷中で物がなくなる事件が多発しているしザルバ卿も本当に盗賊の仕業かと疑ったが、それなら何故金庫などを狙わないのかと疑問に考え、何かがおかしいと思ったザルバ卿は色々確認してみると奇妙な事に気づく。


 まず髪飾りは確かに元々はエレインの物だったが、数年前にエレイン自らザルバの妻のフィアナにプレゼントした物。


 アンティークの花瓶は、エレインの部屋に類似した花瓶がいくつかある。


 そしてグロリアの失くしたリストバンドも一年前に成人祝いだと言ってエレインが購入し、プレゼントした物。


 そしてその失くした物たちは全てエレインの私室で見つかったと従者から聞き、ザルバ卿はその物をそれぞれの持ち主、場所へと戻した。


 ザルバ卿はエレインに何故、勝手に物を盗ったのかを尋ねた。


「違う! 髪飾りも花瓶も魔導具のリストバンドもあたしの部屋にあった物だ! 気づいたらなくなっていたんだ! だから盗まれたと思ったんだよ!」


 そんな事を言い出した。


 ザルバ卿は念の為調べてみたが、エレインの部屋から失くなった物はない。つまり、物がなくなる事件の犯人はエレインなのだとわかった。


 ザルバ卿はゆっくりとエレインに問いただすと、


「……ああ、そうか。そういえば髪飾りはあたしがあげたものだった。花瓶も最近は買っていなかったし、グロリアにリストバンドをあげたのもあたしだったね」


 と、落ち着いて答えてくれたのだ。


 ちょっと勘違いしただけかと軽く思ったザルバ卿だったが、それからまた何度も同じような事件は続いた。


 エレイン様は勝手に物を盗り、そしてそれを元に戻すと「盗賊だ!」と騒ぎ立てる。


「私は母上が呪われていると思った」


 ザルバ卿はそう私へと説明してくれた。


「他にも母上は時折、真夜中に廊下で笑いながらあてもなく歩き周ったりしていた。また、普段はおだやかなのに、突然怒り出したりもする。……完全に悪霊の類いに呪われてしまっていると思ったのだ」


 ザルバ卿は小刻みに身体を振るわせてそう言った。


「屋敷中でも皆が母上の事を呪われていると思っている。これが悪霊の仕業でないなら一体なんだと言うのだ」


「それで今、眠っているエレイン様を私に診させたのですね」


「うむ……キミの噂をカイン先生から聞いてね。なんでも大舞踏会では重病人を奇跡の技で救ったそうじゃないか。まさかキミにそのような才能があるだなんて知らなかったよ」


「奇跡って……」


 そう。どうやらベンズ家はあの王宮在中医師のカイン先生とも交友があるらしく、このベンズ家の問題をカイン先生に相談したところ、私に診させればいいと紹介したらしい。


「王宮医師顔負けの医療知識、更には一級魔導師さながらの魔導知識を併せ持つデレアくんならきっと、母上を助けてくださるとカイン先生が太鼓判を押してくれたのだ」


 あの先生……いくらなんでも誇張しすぎだ。


「だからどうかお願いだ、デレアくん。過去の愚息との件は水に流して、母上を救ってくれないだろうか」


 くそ……なんて厄介な事に。


 ギランお父様の言う通り、そういう風に言われたら無碍に断れないじゃないか。


「……善処します」


 はあ。私はただ本が読みたいだけなんだって……。


 どうしてこう、トラブルがどんどん集まってくるんだ……。



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