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21話 新たなトラブル

「ふざけないでッ!」


 パンッ! という肌を叩かれる音を聞いたのは、私とリヒャインがグラン様と別れ、揃って舞踏会場に戻ってきたその直後の事であった。


「……このッ! い、い、いきなり何をするのよ!?」


「あなたがふざけた事を言うからでしょう!?」


 大舞踏会の本番直前。そろそろ始まる余興、魔法お披露目会の前にとあるひとつのテーブル付近で二人の女性が声を荒げていた。


「「ドリゼラ!?」」


 その一人は私の義理の妹、ドリゼラであり、別の令嬢の頬を叩いていたのはまさにドリゼラの方だったのである。


「ドリゼラ、一体どうしたんだ!?」


 リヒャインが私より先に彼女へと駆けつけて尋ねた。


 しかしまたドリゼラか。あいつ、本当にトラブルメーカーだな。ってか、すぐに手をあげるなっつの。


 私も周辺の様子を窺いながら、ドリゼラのもとへと歩み寄る。その際、通り過ぎたひとつのテーブルに違和感を覚えた。


 妙だな、このテーブル……?


 何故、これほど綺麗なのにあのワイングラスの周囲だけワインがやたらと溢れている?


「リヒャイン様! それにデレアお姉様も!」


 ドリゼラがこちらに気づき興奮気味に声を掛けてきた。


「ドリゼラ……これは一体なんの騒ぎだ」


「それがデレアお姉様、聞いてください! 私はあの女を気遣ってあげたのですわ。それなのにあの女は私の言葉を無下に扱い、あまつさえ……」


「うう、う、うるさいわよ、このチビ女! あな、あなたに、そ、そんな風に言われる筋合いはないわ!」


 ドリゼラに叩かれていた少し背の高い、細身で四肢が長く少し特徴的な体格をした真紅のフレアスカートの女が、私とドリゼラの間に割って入るように叫んだ。


 チビ女、とはドリゼラの事を言っているのだろうが、ドリゼラも私もさほど身長差はない。あの真紅のフレアスカートの女が背が高いだけだ。


「何よ! 私はあなたの事を案じてあげたんじゃない!」


「だ、誰がそんな事を頼んだのよ! っは、私にはわかっているわよチビ女。あ、あなたのその醜悪で腹黒い魂胆、なんてね!」


 魂胆? 一体なんの事だ?


「私はそんなつもりなんて全然……」


「う、嘘よ! でなければ何故、とっかえひっかえ男に媚を売っているの? だ、誰もが皆わかっているのよ、今日が私たち貴族令嬢にとって、しぇ、戦争なんだってことはね!」


 今日が戦争?


 やはり今日のこの舞踏会、何かあるのか。


 というかコイツ……。


 私は視線を鋭くして真紅のフレアスカートの女を見る。


「と、とっかえひっかえって……そんな、ドリゼラ……」


 リヒャインが落胆の表情で呟いている。


「わ、私は……。私にはちゃんと心に決めた人が……」


 ドリゼラとフレアスカートの女が言い合いをしていると、


「黙りなさいドリゼラ。余計な事を口走るんじゃありません」


 いつの間にか背後で、冷たい目をしたカタリナお母様がドリゼラを見下ろしていた。


「お、お母様……」


「ドリゼラ、あなたにはリフェイラ家の将来がかかっているのだと何度言わせればわかるの。それ以上余計な事を口にすることは許しません」


「はい……」


「そこの赤いドレスの娘も身の程をわきまえなさい? この子は私の旦那様であるギラン・リフェイラ伯爵の娘にして、将来大魔導師になる資質を秘めている天才令嬢なのよ。あなたのように矮小な小娘ごときが口を聞いていい相手じゃないの。貧乏子爵令嬢のメリー・アルシルバーさん?」


 フレアスカートの女はどうやらメリー・アルシルバーという名らしい。カタリナお母様はこの女の事を知っているのか。


「い、いくら伯爵様のおうちだったとしても、こ、こ、この舞踏会では関係ないですわ! き、今日ここにいる女性たちは皆、その覚悟で……た、戦いに来ているんですもの!」


「戦う? 馬鹿な子ね。あなたのお母様は今日、こちらにいらしていないのかしら? なんなら私が直接お話してきてあげてもよろしくてよ? あなたのその敵意をまるごと全て受け止めて、私が伯爵夫人としてそのお母様ととことんお話してあげるわ」


 この大舞踏会には親子で参加している貴族が多いが、基本、親は親たちだけの区分に自然と集まっている。社交の場として近しい立場同士で交流する為に自然とそうなっているのだ。つまり今、この場にカタリナお母様がいる方が逆に不自然なのである。


「お、親がここで出しゃばるなんて、へ、変です!」


 メリーもそれをわかって言い返すが、


「別に変な事はないわ。どの親も一見素知らぬフリをしながら皆、あなたたち子供を見ているのですからね。戦うのは結構。私もドリゼラに存分に戦えと言っています。けれど喧嘩を売る相手は間違えない方がいいわ。もしこの戦争に勝ち残れないのなら、あなたはそれ以上の対価を支払うことになるのですからね」


 くすくす、とカタリナお母様は薄暗い笑みを浮かべる。


「そ、それは……」


 真紅のスカートのメリーも、カタリナお母様の毒舌についには絶句した。


 くそ。情報が足らなすぎて、私にはわけがわからんな。


 一体このクソ虫たちには何が見えている?


 全ての原因はそれに繋がっているはずだ。


「さあ、行くわよドリゼラ。あなたにはこんな女と遊んでいる暇なんてないんですからね」


「はい、お母様……」


 カタリナお母様はそう言うと、ドリゼラの腕を掴んでその場を去ろうとした。


 そして私の横を通り過ぎようとした時、横目で、


「……リヒャインはそのままあなたが連れていなさい」


 と、呟いていった。


 カタリナお母様に引っ張られているドリゼラはすれ違いざま、私の方を見てひどく哀しそうな顔を残していった。


「ドリゼラ……そんな……俺様はもっとキミと……」


 私の隣で呆然としているリヒャインも、カタリナお母様の威圧に気圧されて、その場が動かずにいる。


「何が私を気遣って、よ……な、生意気なチビ女……!」


 真紅のフレアスカートの令嬢、メリーもわなわなと細長い右腕を震えさせて怨嗟を声を出す。


 メリーはその怒りを落ち着かせようとしてか、近くのテーブルの、()()ワインの入ったグラスを手に取ろうとした。


 右の手を伸ばして。


「……」


 彼女のその右手はわなわなと震えている。


 私には今、そう見えている。


 だがそれは、今彼女が怒っているからだと、私はそう思った。


 しかし。


「……おい、お前」


 私は強い違和感に我慢できず、メリーの右腕をガシッと掴んで声を掛けてしまった。


「え? な、何よ」


「……」


 私は彼女の二の腕あたりを少し強めに掴んでジッとその部分を見つめた。


 震えている。私の腕も。()()()()()()()いる。


 私は確かに力はないが、それでも私の腕ごと強く震えさせているのは明らかに変だ。


「……お前だったんだな。そのワインをテーブルに溢していたのは」


「そ、そうよ悪い!? 私だって、この舞踏会にはすす、少しくらい、き、緊張しちゃってるのよ!」


「緊張? いや、違うな。確かに一見その震えは正体不明な本態性振戦(ほんたいせいしんせん)のように見えるが、明らかに別の症状がお前にはすでに現れている」


「ほ、ほんたいせい……? な、何を……っていうか、あなた、さ、さっきのチビ女のお姉様よね? そ、その口調はなんなの……? な、なんか、あわ、あなた、怖いわ……」


「そんな事はどうでもいい。お前は今すぐこの場で横になれ」


「え??」


 っち、説明をしても時間の無駄だ。


「おい、リヒャイン手伝え。この女を今すぐこの場に、水平に寝かせろ。揺さぶらず慎重にだ」


「な、なんだよデレア。どうしたんだ? っていうかお前、こんな皆の前でその言葉づかいはやばくないか? それに一応友だって言われたからって俺様を呼び捨てはどうかと思うぞ。歳も俺様の方が一応上だし」


「そんな事はどうでもいい。早くしないと手遅れになる」


「な、なんだよ? だから何が……」


「いいから黙って私の言う事を聞けッ!!」


 私は思わずリヒャインを怒鳴りつけた。


 その場が硬直する。


「時は一刻を争う。私は今、遊びで言っているんじゃない」


「……わかったデレア。コイツを寝かせればいいんだな」


 リヒャインは私に反発せずに言う事を聞いてくれた。


 グラン様の言う通り、コイツの心根は本当に案外真っ直ぐなのかもな。


 リヒャインはメリーを抱きかかえた。



「い、いや! な、にゃ、にをするの!?」





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