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13話 カタリナの思惑

 背後から私の名を呼ぶ声がする。


 しかしそれは私のことを追いかけてきた王子様が、というようなまるで恋愛小説みたいなロマンティックな展開ではない。


 そう、この声の主は。


「こんなところにいたのねデレアさん。今すぐ戻りなさい」


 まさかの義母、カタリナだった。


 しかもその形相はかなりの剣幕である。


 だがしかしカタリナが私を探すなどとは珍しい。彼女は屋敷ではドリゼラと同様に私に対して意地悪だが、ドリゼラのように積極的に私に近づこうとはしない。むしろ避けている。


「……カタリナお母様。何用です?」


「デレアさん、何をやっているの。今すぐホールに戻りなさい」


「何故です? 私がいない方がドリゼラだけリフェイラ家の令嬢として振る舞えます。その方がお母様にとっても好都合でしょう?」


「そうね。私はデレアさん、あなたが大嫌い。あの小憎たらしい平民女の娘であるあなたが。ドリゼラだけが本当の私の娘だもの。あなたが貴族づらして我が家にいることが本当に気持ち悪い。あなたなんかいなくなって欲しいわ」


 カタリナはいつもだいたいこんな感じだ。


 私のことが本当に嫌いなのだとわかる目をしてくる。


「だから、私の行動の全てはドリゼラの為だけにあるわ。今もそれは変わらない」


「……ではお母様はドリゼラの為に私を呼び戻しにきた、と?」


「そうよ。すぐに戻ってちょうだい」


「どういう事なのですか?」


「……リヒャインが今度はドリゼラに絡んでいるの」


 はあ、とため息を吐いた。またあの男か。


「ドリゼラを気に入ってくれたみたいで、執拗に絡んでいるのよ」


「良い事ではないですか。リヒャインは侯爵家の嫡男だし、有望な魔導師です」


「ええ、私も相手の家門は申し分ないと思っているわ。けれどドリゼラにはすでに心に決めている人がいるのよ」


 ……妙だな。


 私は眉をひそめる。


「へえ? そんな話は初めて聞きました。一体誰です?」


「そんな事、あなたに話す必要はないわ。けれど、このままじゃドリゼラはリヒャインに奪われてしまう。あの子の為にリヒャインを説得して欲しいのよ」


「説得? 私が?」


「ええ、そうよ」


「私がどう説得をしろと?」


「先程のいざこざの一部始終は見ていたわ」


 っち、見られていたのか。


「その他にもあなたはどうやら魔法の知識だけは多少人よりあるみたいね? その頭を生かしてドリゼラを助けて」


 こいつ、もしかしてドリゼラから何か聞いているな?


 くそ、先日のドリゼラの魔力暴走の件か。ドリゼラめ、カタリナに話したな。他言するなと言ったのに。


「……魔法の知識だけでは何もできません」


「リヒャインはあの若さで一級魔導師の資格を取るだけあって、魔導の知識探究には熱心なのよ。あなたの博識な魔法の知識の話をすれば、きっとリヒャインはあなたに興味を示すはずよ」


 なんだあ? つまりは私が生贄になれってか。


 このクソ虫め。


「それだと私がリヒャイン様に気に入られてしまいますが」


「いいじゃないそれで。っていうかむしろあなたには勿体無いくらいだわ。さっきだって、何故あんなにも頑なに彼の誘いを拒否していたのか意味がわからなかったもの」


 そりゃあ私はお前たちクソ虫と違って、人間だからな。偉いお貴族様なら誰でもいいわけじゃない。というか貴族自体が大嫌いなのだから拒否するに決まっている。そもそも恋愛感情という概念など私には存在しない。


「とにかく行って。これは命令よ。もし行かないのであれば、今後お屋敷での食事に制限を掛けて、おやつも無し。更には娯楽室の本も一切触れないようにするわ」


 それはどれも困る。


 最悪、食べ物は腹さえ膨れればなんでもいいが、甘い物は欲しいし、月に一冊しか読めない恋愛小説も一応私の楽しみのひとつでもあるのだ。それらは奪われたくない。


「……わかりました。リヒャイン様に気に入られるつもりはないですが、なんとかしてみせます」


「ええ、約束よ、必ずお願いね。さ、早く戻りましょう」


 はあ。なんでこんなについてないんだ。


 グロリア・ベンズとの婚約破棄から異様に貴族らと関わるようになってしまった。


 私が関わりたいのは本だけだというのに。


 これも全部、ギランお父様のせいだ。


 何故お父様はこんなにも私を困らせようとしてくるのか。私には理解できない。孤独になった私を拾ってくれた事にだけは感謝しているが、なんの理由があって私を拾ったのか。ドリゼラがいると言うのに。


 それともあれか。わざと私を困らせて喜ばせているのだろうか。確かに玩具として使うならドリゼラより平民である私の方が適任だしな。


 お父様も所詮はクソ虫。やはり平民を虐めて楽しんでいるのだろうな。私が困ることばかりしてくるのだから。



 貴族なんて、どいつもこいつも大嫌いだ、クソッたれめ。


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