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10話 疎ましかっただけの姉【side ドリゼラ】

 私、ドリゼラ・リフェイラは自分がナンバーワンだと思っていましたわ。


 優しいお父様とお母様、多くの侍女や従者たちに囲まれ、資産家の伯爵令嬢として華々しい未来しかないと幼い頃から信じて疑いませんでしたの。


 私が六歳になったあの年までは。


 同年代のお友達は皆、私以下の魔力しかないし、お家の資産や領地もたかが知れている。私は優れた血筋であるリフェイラの長女として、地位も名誉も財産も魔力も、その全ての恩恵を私一人だけが受け、選ばれた女だと自負していましたの。


「今日からお前の姉となるデレアだ」


 衝撃でしたわ。


 いきなり見知らぬ女が屋敷に転がりこみ、更には腹違いの姉だとギランお父様に言われたんですもの。そもそも私に姉がいる事すらもその日、唐突に知る事になったんですのよ。


 何もかも許せませんでしたわ。


 私は突然リフェイラ家のナンバーツーに降格させられた気分でしたもの。それだけではなくリフェイラの優秀な血があんな見知らぬ女にも流れている事に何よりも腹が立ちましたの。


 けれどあのデレアとかいう女は何故か全く魔力を持たない、まさに平民以下のカス女。


 こんなカスみたいな女に私が負けるはずがないと思いましたわ。


 けれど、書類上では彼女がリフェイラ家の長女として記録されてしまってる。その事がどうしても許せなくて私はデレアという女を姉として認められずにいましたわ。


「ねぇ、デレアにはどうして魔力が感じられないんですの? 私の姉なんですのよね?」


「……」


 デレアという女は私の嫌味に眉ひとつ動かさず、無視しかしない。


 言い返せないのはわかっていましたの。だって、彼女は平民の女の娘なんですもの。


 だから私は毎日この女を馬鹿にしてやりましたわ。


 お前なんか、リフェイラの娘なんかじゃないんだと言わんばかりに。


 学院に通うようになってからも何かと彼女にだけは負けまいと私は密かに努力を怠りませんでしたわ。


 だから学院でのテストも必ずあの女より良い成績を取って、魔力も磨いて、そして女としての美しさも磨きをかけていきましたの。


 そして私が貴族学院中等部の仲間入りとなった十二歳の頃には、私は男子にも女子にも持て囃される美しさと魔力を兼ね備え、反対に姉のデレアは誰からも見向きもされず、なんの才能もない、根暗で本だけがお友達の可哀そうな女となりましたわ。


 ざまぁないですわ! と私は毎日が楽しくなっていましたの。


 最近ではデレアの事をちゃんと「デレアお姉様」と言うようにしましたわ。ギランお父様に注意されたのもあるのですけれど、わざとお姉様と呼ぶ事で自分より歳下の私に何もかもが追い抜かされているんだと強調付ける為に。


 書類上ではデレアは姉かもしれなくとも、リフェイラの優秀なる血筋は私がしっかりと受け継ぎ、そしてリフェイラの資産は全て私が受け継ぐだろうと確信しておりましたわ。


 そんな折、ギランお父様は何をとち狂ったのか、デレアなんかに辺境伯のご子息様を婚約者として紹介したんですの。


 私だって、まだ上流貴族のご子息様となんかお付き合いすらした事ないと言うのに。


 許せませんでしたけれど、私にはわかっていましたわ。


 必ずあの女は失敗するって。


 そして案の定、デレアはたったの一か月もしないうちに婚約破棄され、肩を落としながら帰ってきましたわ。


 笑いが止まりませんでしたわ。


 おかしくておかしくて、その晩は一人で盛り上がってしまいましたもの。


 けれどその後もギランお父様はデレアにも舞踏会に出ろと言ったり、お父様は何を考えているのかさっぱりわかりませんでしたわ。公爵様の大舞踏会に元平民で魔力無しの女を出席なんかさせたらリフェイラの名に恥をかくだけだと思いましたもの。


 だから私はデレアに言いましたわ。辞退なさい、と。


 けれど、いつもならすぐに引くデレアが、今回は妙に食い下がってきて……。


 私は我慢できなくて、今までの怒りをついぶつけてしまいましたの。


 今の私の魔力は同学年でも圧倒的にナンバーワン。魔導家庭教師の先生も「ドリゼラの魔力は天才よ! 将来は大魔導師になるわ」といつも言ってくれている。そんな私の魔力がどれほど凄いかを無能な姉に見せつけてやりたくなりましたの。


 そうしたら……私の魔力は()()()()()し、私はこれまで体験したことのない痛みに襲われましたわ。


 デレアはそんな私を見て、憐れむような視線で見下してきましたの。


 許せなかったけど、それ以上に痛みが辛くて辛くて、私は助けを乞わずにはいられませんでしたわ。


 すると同時にデレアは……デレアお姉様は、人が変わったように強い口調で私に命令してきましたの。


 私には逆らえる気力もなくて、デレアお姉様の言う通りにしましたわ。


 でも魔力の暴走は属性魔力次第で対応や処置が多様であり、医者やギランお父様のような博識の方でないと治せないと知っていました。


 だから早く誰かを呼んで欲しかったんですけれど、それをあのお姉様は完璧に治してしまったんですの。


 上級合成魔法を解き放って私の暴走を沈下させたんですの。


 あんな対応方法、私には知りませんでしたし、些細な約束で私を助けてくれたお姉様に対して、なんだか頭が上がらなくなってしまいました。


 私はそれからの数日間、陰からデレアお姉様を観察することにしましたわ。


 正直な話、悔しさが一番でしたけれど、何よりもデレアという不思議な女が一体どういう人間なのか興味が沸いてしまったんですの。


 そして観察をしていると、次々とデレアお姉様の隠れた才能を見つけてしまう事になりましたの。


 ――侍女のフランの死にも至りそうな急病を、類い稀なる知識と知恵で回復させてしまったり。


 ――とある侍女見習いが仕事をうまく覚えられない事に悩んでいると、画期的な方法でその侍女に仕事の覚え方を教えたり。


 ――はたまた家令のドルバトスが失くしてしまった食料蔵の鍵を、思いもよらない方法であっという間に探し当ててしまったり。


 とにかくデレアお姉様を知れば知るほどに、彼女の隠れた才を知っていき、私はどんどん彼女から目を離せなくなってきてしまったんですの。


 そして気づいたら……。


 私は一番毛嫌いしていたはずのデレアお姉様と、お話がしてみたいと思うようになっていましたの。前みたいな嫌味をぶつけるのではなく、彼女の考えを聞きたいと。


 彼女に色々な事を聞きたい、教わりたい。そして彼女と一緒に貴族間恋愛の本の内容について語り合いたい、と。


 でも私はこれまでデレアお姉様に嫌な態度ばかりとってきていましたわ。


 当然、お姉様も私の事なんて大嫌いに決まっている。


 私だって前まではそうだったんだから当たり前ですわ。


 でも、お姉様を見ていると……なんだか少し優しい気持ちになれる自分がいるのもわかってきていました。


 何故ならお姉様がその才能を発揮するのはいつも、誰かが困り果てている時だけ。


 決して自分の為だけに自分の力を誇示することなんてありませんでしたわ。


 そんなデレアお姉様の事が……私はいつの間にか格好よく見えてきていました。


 私は意を決してお母様に、


「デレアお姉様に娯楽室の本をいつでも読めるようにしてあげてはどうでしょうか?」


 とお願いしてみたんですの。


 もし許可をいただければ、それをダシにお姉様とお話しようかな、って思ったりして……。


 けれどカタリナお母様は頑なに許可は出しませんでしたわ。むしろ私が怒られてしまいました。


 私はいつかデレアお姉様とちゃんとお話ししようと心に決めましたけれど、気づけば距離を取ったまま日が過ぎていくばかりで。


 結局、私はデレアお姉様とはあれからロクに会話もできずに、大舞踏会の日が近づいてきてしまいましたわ。


 だから私は決めましたの。


 大舞踏会が終わったら、デレアお姉様とちゃんとお話をしようって。


 そしてこれまでの事を謝ろうって。


 そう、私は決めたんですわ。


 私も困ってる人に手を差し伸べられるような強さを身につけたい。


「上出来だ。よくやったドリゼラ。さすがの魔力量だ」


 デレアお姉様はあの日、初めて私をそう褒めてくださった。


 いつの日か、またあの日みたいに凛々しく褒めてもらえるように。



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