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プロローグ 〜ステレオタイプな婚約破棄〜

 貴族なんて大っ嫌いだ。


 みんなみんな、いなくなってしまえばいいのに。


「デレア、もう我慢の限界だ。私はこれまでキミほどに愛想がなくつまらなくて根暗で、おまけに不細工な女は初めて見たよ。何度言ってもそのとても似合わない眼鏡を外そうともしないし」


 言いたい放題にこう言われている私はさぞ滑稽だろうな。


「そうやって私の話を聞いてないフリをして本を読み続けるのもウンザリだ。この根暗女め」


 それはこの男の話がつまらなすぎるから仕方ない。


 しかしなるほど、これは噂以上のクソご令息様のようだ。道理で()()()()()()()婚約させられそうになるわけだ。


「おまけに貴族特有の魔力をキミからは何も感じられない。キミは本当に伯爵令嬢なのか?」


 この男、馬鹿な癖にそういう所だけはめざといんだな。さすがは()()()()()()お貴族様と言ったところか。


「……」


「だんまり、か。……我が父が贔屓にしている伯爵のご令嬢だと聞いて我慢して今日まで付き合ってやったが、それもこれまでだ。悪いがこの話、今日限りで終わりにしてもらおう」


「ん? グロリア様、それは私との婚約を破棄する、という意味ですか?」


「そうだ。もう今更、謝っても許さないからな」


 よくもまあこんなド定型文を。今流行りの貴族間恋愛小説の主人公もしくは脇役のつもりかね。


 ……はあ。


 私は思わず()()()ため息を吐くが、貴族なんてやっぱりロクなもんじゃない。


 目の前の男も他の貴族よろしく漏れなく馬鹿なクズだ。


 ああ、神様。やはり、どうして、おかげさまで、私は貴族とやらが大、大、大、大っ嫌いだよ。


「……そう。だったら私はもう帰る。無駄な時間を過ごした。じゃあな、クソッたれが」


 この無骨そうな言葉は私の口から発せられたものだ。


「は……? え? いや、何、急にその言葉づかい……?」


「これが素の私だ。もはや猫を被る必要もないだろう。お前がボロクソに言ってくれたおかげで私もせいせいしたよ。やはり所詮貴様はクソ虫だな。品もなければ頭も悪い。虫以下の存在だ。若干ナルシスト気味なのも更に気持ちが悪いんだよ、馬鹿め。二度とその汚いツラを私に見せるな、このクソ虫が」


 私は口汚く婚約相手だった男を罵ると、素早く踵を返してその場から立ち去る。


「な、ななっ……なんて無礼な女だ。そんな言葉遣いがあるか? それでもお前は貴族令嬢か!? 不敬にもほどがある! 私の方が家柄も身分も格上なのだぞ!? おい、能無しの眼鏡ブス女、聞いているのか!? お前の家ごと不敬の極みで訴えてやるからな!? いいのか? ちょ、おい待てって、ちょ、おま、おぃぃいい!?」


 背後から涙目でぎゃーぎゃーと何かを泣き喚いているクソ虫がいるが無視し続けた。


 訴える? 私の知った事かクソ虫が。勝手に好きにしろ、馬鹿め。


 私はすたこらとその場を去る。


 万が一、私を追いかけてきて暴力でも振るおうものなら、法的根拠に則って社会的にこのクズをとことん陥れてやる算段も別にあったのだが、コイツにそこまでの度胸はなかったか。つまらん男め。


 ま、なんにせよ私の方から婚約破棄はしづらい状況だったので正直助かったとも言える。


「しかしとんだ無駄を過ごしたな。私の時間を返せクズが」


 私はペッと吐き捨てるようにそう呟き、お屋敷へ帰った。


 これから先、私が婚約破棄された事を嬉しそうに揶揄ってくる義理の妹と義理の母のウザさを除けば、この婚約破棄は結果として良いに決まっている。


 誰が貴族令息なんかと婚約なんてするものか。


 私は知識の探求、つまりは本さえ読めればそれでいい。


「貴族どもと恋愛なんてまっぴらだ。くだらない」


 こうして私、デレア・リフェイラは十四歳の春に見事、初めての婚約者と破局したのである。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 鬼教官的つかみが良すぎるw 「クソ虫」が頭から離れないwww いや真面目な話、たとえ階級差別がなかったとしてもというか同階級だからこそ 人から様付けで呼ばれてるのに相手の名前を呼び捨てで…
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