バッタ
昔から跳躍力が高かった。
身長は平均より少し上くらい、でも跳躍力を生かしてバレーボールをしていた。
なかなかうまくいきプロとして活躍できるようになってきていた。
とても高く飛ぶのでコートではよく目立ち、特に子供には絶大な人気が出た。
子供やメディアは俺を「まるで鳥のよう」と言っていたが、それも自分よりも大きく、滞空時間も長い
A選手が出てきてからは皆Aを鳥だ鳥だと言い出した。
結局俺についたのは「バッタ」だった。
地面をけって飛んでいるのである、むしろバッタの方がしっくり来た。
ただプロとして試合を重ねれば重ねる程に自分程度の人はたくさんいることを痛感した。
結局のところ自分もたくさんいるうちの一匹に過ぎないのだ。
それでも試合に出れた、常にスタメンとして試合ができた。
だが結局のところ、自分と他の選手との実力なんてほぼ変わらないのである。
自分が「バッタ」であるがゆえにこんなにも試合に出させてもらっているのである。
子供には相変わらずの人気だが、バッタは大人には人気がなかった。
結局バッタは飛ぶだけ、パワーもフィジカルもテクニックも他に劣ると大人は見抜いていた。
A選手の所属するチームと対戦することが決まった。
世間では白鳥VSバッタとして大いに盛り上がっていた。
いつの間にかAは鳥から白鳥になっていた。
試合当日。
白鳥とは初対面だった、大きな体に白い肌、なるほど白鳥である。
だが白鳥は試合前なのに汗ばみ、瞳孔が開いていた。
試合が始まったが白鳥の人気と実力は凄まじかった。
圧倒的な差をつけられて試合は進んでいく。
すでに試合は負けの色が強いが、観客や応援してくれている子供の前である。
意地は見せねば。
試合が進むにつれて白鳥のプレーにはどんどん磨きがかかってきていた。
バッタは完全に食われてしまっている。
食らいつこうと必死に飛んだバッタの脚に激痛が走ったのは試合終了間際のことであった。
結局俺はバッタだ。脚をもがれたバッタが死ぬように
俺もバレー選手として死んだ。
バッタは生にもがくが俺はもがくことすら……
その年の最優秀選手は白鳥だった。
だが俺は見ていた、白鳥の異常な瞳孔の開きと汗を。
なんだ白鳥じゃなくてサギだったのか…
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