プロローグ
「ん、ん〜」
隣の布団から声が漏れてくる。
大学生になったのなら、彼女と一緒に食事をしたり、ゲームをしたり、お泊まりをしたりと、恋愛事にも精を出したいと思うのが普通だろう。
当然新大学生の俺、成海司にもついにその時が訪れた…。
「んおおおんんんん」
訪れていなかった。
彼女だったら良かったのだが、こいつは全く違う生物だ。そもそも男だし。
このいびきの爆撃犯の正体は、湯汲圭佑。通称「ケトル」。
この男は俺の思い描いていたキャンパスライフを初っ端から崩壊させ、もはや生活の大部分に侵食してきている危険外来生物である。頭が沸いており、行動が読めなさすぎる。
「おい、ケトル。お前引越しの今日バイトだろ。てかいい加減俺の部屋から出ていけ。自分の部屋に戻れ」
「んんん。いやなんさぁ。俺の部屋ちょっと散らかってるから、こっちの司の部屋のが快適なんさ」
俺とケトルは同じ《希望寮》という学生寮に住んでいる。個室を与えられているはずなのに、何故か俺の部屋に転がり込んでくる。そして風呂にもあんまり入らない。
「ちょっとじゃないだろ嘘つくな。足の踏み場もなければ、カーテンレールに大量にハンガーがかかってるせいで、カーテンすら動かせないような部屋じゃねえか。そして起きろ。何のために俺まで朝6時に起きてるんだ」
「まだ眠いんさ。今日は遠慮しとくんさ」
「遠慮するとかないから。お前がずっとゲームやってるからだろ。俺の睡眠時間まで削りやがって」
「んんん…まあ…そういうことで」
「おい!起きろふざけんなおい!」
意識を深海まで落とすの早すぎだろ。しかし他人事とはいえ、直前でバイトに穴を開けるのはまずい。
「ああもう!ふざけんなクソ!」
司は寝巻きを脱ぎ、パーカーを被ると、スマホと財布だけ持って、ケトルのバイト先に向かう。
もうケトルよりバイト先に行っているし、俺がもはやケトルだと思われているのではなかろうか…。バイト代はもちろん、後で迷惑料をたんまり請求してやろう。
頭の沸いたやかん野郎に振り回されながら、今日も今日とて灰色のキャンパスライフを送っていく。
初めまして、二宮ホタルと申します。
大学舞台の小説が世には少ないなと思い思い切って書いてみました!
読みやすく、クスッと笑える作品にできるよう頑張っていきますので、応援よろしくお願いします!