吾輩は天才である
吾輩は天才である。
おい、今バカにしたな? そこの人間、猫だと思って侮っていたら痛い目を見るぞ?
どういう痛い目かということは、ご想像におまかせする。いずれ身をもって知るが良い。
ちなみに『天才』は男女ともに使えるが、『秀才』という言葉は男子にしか使えない。これは、中国の科挙という試験に由来する。役人を登用するための科挙試験は男子しか受けられなかったからな。
女子を賞賛したい時は『才媛』や『才女』という言葉を使うらしい。まぁ、男女平等社会となって扱いもあやふやになっているそうだ。
どうして猫がそんなことを知ってるかって? そんな細かいことを気にする必要はないぞ。
それより見てみろ。あれが吾輩の飼い主であり、侍女だ。なかなかキレイな女だろ? だからと言って、手は出すなよ? さっそく痛い目の内容を知ることになるぞ。
なに? 吾輩がなぜ天才なのか教えろ? ふん、まぁ良いだろう。特別に教えてやる。付いて来い。
「なーん」
「あれ、レオン。どうしたの〜? そんな甘えた声出して〜」
「なーう」
「おやつが欲しいの?」
「うにゃ」
「よし、じゃあいくよ〜! バンッ!!」
吾輩の侍女は、なぜか指でピストルのまねごとをして遊びたがる。やれやれ、いつまでも子どものようで困る。
「あれ? レオン、“ごろん”は?」
しまった! お前に説明していたらタイミングを逃してしまったではないか! これではバカだと思われてしまう。
「レオン、もう一回ね? バンッ!!」
うっ! や、やられた……。ここで、すかさず“ごろん”だ! いいか? タイミングが重要なんだ。 忘れるなよ!
「よくできました! はい、ご褒美のおやつだよ〜」
「なぁ、なんかレオンがめっちゃ俺のこと見てくるんだけど……」
「もうすぐ家族になる人のことが気になるんだよ。ね、レオン?」
なにを、ペロペロ……バカな、ペロペロ、ことを! この若造にしきたりを、ペロペロペロ……教えているところだ!
「そのおやつ、俺もあげていい?」
「もちろん。レオン、良かったねぇ。パパがおやつくれるって」
にゃに!? こんな若造の手からなど、手からなど! ペロペロペロ……。
「おー、食べてくれた。でも、パパって、やめて……。なんか恥ずかしい」
「えー? 仕方ないなぁ。じゃあ、レオンに弟か妹ができた時まで取っておきますか〜」
弟か妹か。うむ、悪くない。その時は、きっちりと導いてやらねばな。
なんと言っても、吾輩は天才であるからな!
ペロペロペロペロペロペロ……。
お読みくださり、ありがとうございました。
古風な話し方をしていますが、レオンはアビシニアンです。