転生三女始めました。
人間、やってみなければ分からないことは、ままある。
その最たるものが、おそらく転生だろう。だって、まずは死んでみなくちゃ分からないしね。死んで終わるか転生するかなんてさ。
まあ、そんなこんなで、異世界らしき世界で、私、転生三女始めました。
三女と銘打つからには、私には、長女と次女と言う、姉が少なくとも上に二人いる。実はさらに、長男と次男がおり、私、第五子である。
意外と大所帯で笑えるが、生活的には笑えない。いや、父、事業に成功しているので、ちょっとした貴族より裕福なんだけど。
まず、末端貴族であることが一つ。一代男爵なので、子供はすべからく親が死んだら平民である。
継ぐ爵位がないため、次も貴族でいたければ、姉たちはどこかの爵位持ちに嫁がなければならないし、兄たちは、手っ取り早く騎士爵を賜るか、一代男爵を引き継げるような功績を挙げるか、どこかの入り婿にならなければならない。
とまあ、なかなかにヘビーな状態らしい。
いや、私は、どっか裕福な平民と結婚できればいいかなって感じです。
いやだって、ドレス面倒くさいし。後マナー面倒くさいし。それと、人間関係もわりと面倒くさい。
ともかく、息吸って吐いてるだけで、面倒くさいことてんこ盛りな貴族に執着するのは気が知れない。と、私は思うが、あくまで、それは私だけ。
姉も兄も、生活水準が落ちることと、特権階級でなくなることが嫌みたいで、婚活をがんばっているようだ。
「カティルちゃんは、のんびりやさんねえ」
と、私よりのんびりとした調子で、母が言う。
「いえ、お母様。貴族面倒くさくないです? 羽振りの良い商家とかの方が楽じゃないです?」
「そうねえ。ずっと男爵だから、考えたことがなかったわねえ」
そうでした。母は生粋の貴族でした。父はこの母と結婚したいから、必死に爵位を貰ったんでした。
「私は、派閥とか階級とか面倒くさいんですよね」
「あと、マナーとドレスも面倒だって言ってるわねえ」
のんびりとした口調だが、母は、言うことは言うタイプなので、なかなかに殺傷力が高い。
「うぐっ。いやまあ、事実ですけど。コルセットを撲滅した先達には、感謝の意を捧げてますが、好きか嫌いかで言うと、ドレスはちょっと。個人的好みであれば、生地の質の良い平民デザインの服が着たいですね」
質の悪い生地はごわごわするし、毛羽立つし、重いし、通気性悪いし、良いとこないからな。
シンプルなドレスでも、私的には、どこがシンプルなんだろうという、ゴテゴテさ具合なので。
フリルとか撲滅すれば良いのにと、そっと思う。後刺繍も焼け落ちればいいのにって思う。
いや、なんというか、フリルも多いと重いし、刺繍も、派手さを競うと金糸銀糸をごてっと使うから、なかなかの重量なんですよ。下手すると、ハーフメイルと変わらないんじゃないかって思うんですよ。
「パーティーは仕方ないけれど、普段着にもっとシンプルなドレスをデザインして作らせてみたらどうかしら?」
さらりと簡単に母は言うけど、大変難しい問題だ。
「融通の利く服飾店の開拓から始めないとですね」
貴族向けの服飾店は、それはそれは、プライドを持って作っている。そのプライドを確実にへし折るのだ。私の着たいものって。
だから、貴族向けでは、皆無となる。当然母もそこは分かっているようで。
「それこそ平民街の服飾店に出資して、開発すればいいのじゃないかしら」
そんな提案をしてくれた。
確かに金に飽かせれば、出来なくはない。
「その、先立つものを三女の私が作れるか、ですね」
世知辛くも、どこの世界でも、先立つものは金なのである。
事業を立ち上げるにしても、最初の運転資金が必要だし、運転資金をどうにかしたら、今度は売り込み先を見つけなきゃならない。売り込み先が見つかったら、事業展開をどうするかになり、軌道に乗ったらどれだけ粗利がでるかなんてことも考えなきゃならない。
事業とは果てなき戦いなのだ。
「カティルちゃん。すでに目が死んでいるわよ。もっと楽しいこと考えなくてはダメよお」
ほんわりと笑う母に、私は疲れた笑みを返す。
「自分主導で何かやると、果てなき戦いになる未来しか見えなくて」
「そうなると、旦那様みたいな人を捕まえないとならないわねえ」
それって宝くじの当選確率より低いですねと、思いつつも、母に合わせて返事をする。だって、母は、父大好きなので。
父は、母を愛しすぎてるけどね。
「そうですね。お父様みたいな有望株を見つけないと無理そうですね」
果報は寝てもやってこない。現実の険しさよ。一代男爵三女に金のなる木などないのである。
いや、一代男爵関係ないな。
一代男爵とか関係なく、女児にお金渡して、商売やってみるって言う人いない。
あ、私、本年九つになったばかりでございます。
そんなわけで、齢一桁の女児に、事業興してみたらと言う母もなかなかにぶっ飛んでいるんだけど。
でも、父を説得出来るプレゼンが出来れば、ワンチャンあるかもなのか。
いや、ちょっと、母にさらっとしたシースルーぽい服着せたくない? とか、嗾したら行けるかな。
いや、それ服じゃないな。そして、閨一直線だな。私の下に更に生まれるな。
いやでも、マーメードラインとか、この世界、まだ無いんだよな。体の線を出す服は、出始めてきてるけど、上半身までだからな。スカートはふんわりしている。
「お母様、お母様のおみ足は、細いです?」
細いって言うより、メリハリなんだけど。太ももむちっとしてて、でも、キュッと締まってて、ふくらはぎの形が綺麗だと、歩いたときのラインも良い。
そして、足下が窄まっているので、材質によっては、男性のエスコートがないとこける。
「また変なことを言い出したわね。カティルちゃん。女性同士でも、そう言うお話は余所でしてはダメよ」
「いや、ちょっと、ドレスの形を考えて」
「あら、それに足の綺麗さが関係あるの?」
あら、母が食いついてきたわ。いつもの間延びしたしゃべり方が若干無くなってる。
「上半身にぴったりとした服は出てきてますが、スカート部分はまだ無いですよね」
チャイナや、タイトを流行らせるのは、生足が忌避されなくなってからだな。今は確実無理。平民でも成人女性は足見せないからね。
上半身のシルエットは見せてるんだから、この勢いで足下を攻めるのも良いと思うんだよね。
「そうね。最近の流行は、首元までレースで覆うものかしら」
レース。良いですね。レース。手縫いじゃなきゃねっ。機械編み、早く出て来ないかな。レースのお値段がとんでもないんだよね。
いや、自分でレース編んだらって考えたら妥当なお値段ですよ。時間とか、そういうの考えても。でも、手作業の品って高いのよ。単価が。人件費が。
安く買いたたくってんじゃなく、お手頃価格の価格帯のも欲しいってだけです。
いやまあ、レースに対する愚痴は良いんだ。
「えっとですね。こう、太もものあたりまでを体に沿って、膝下から裾を広げてくと、お魚のしっぽみたいな感じになるじゃないですか。歩くと裾だけが揺れるのって、綺麗じゃないです?」
身振り手振りでスカートの形を教えると、母が少し思案して、実例を上げてくれた。
「水の精霊みたいねぇ」
「それ。だから、足が綺麗じゃないと似合わないかなーと思って」
そうだった。この世界精霊がいたんだったよ。確かに水の精霊は、所謂マーメードみたいな感じだった。しかし、どうして水の精霊って、世界が変わっても、女性型なんだろうな。マッチョまではいかなくても、男性型でも良いと思うんだよね。嵐とかの荒々しさを思えば。
まあ、そんな精霊談義も横に置き。
「で、お父様にそれ、強請ってみません? そして、上手くいったら、私にお小遣い下さい。私はそれを貯めて然るべき時に備えるので」
今は無理でもいずれは、出資して、お店を展開できる日が来るかも知れないしね。そして、経営を任せて、役員収入で生きていくんだ。
「そうね。その形が今までにないものだったら、服飾店が型を買い取ってくれると思うわよ」
「それを私が全部受け取るとか、無理なのでは」
「そうね。年齢的にも厳しいわね」
そうなんですよ。母よ。私、まだ一桁年齢ですからね。来年二桁になっても難しいけども。
まだ、お金を預けることも出来ないんですよ。個人では。と言うか、私の名前では。
だから、私にお金を渡そうとすると、頑丈な金庫から揃えなきゃならないんですよね。
ほんとう、商業の連合さんが、いわゆる貯金みたいなのを作ったので、個人で作れれば、そこに入金して貰えれば良いんですけど、成人前の子供は、親の所有物と見做されるので、個人で何かを出来ないんですよね。
ちなみにこの足かせは、貴族が顕著で、特に女児は十五の成人まで。市井は八歳で仕事に出るらしいので、その辺りから、個人で諸々出来るらしいんだけど。まあ、伝え聞きなので、実際はどうか良くは知らない。
ちなみに、貴族でも、男の場合は五歳から、個人資産を持てる。本当に、くたばれ男尊女卑。と、日々呪詛を吐いているが、それで良い暮らしをしているのも確かなので、その点は感謝をしている。
まあ、それはそれとして。
「だから、しばらくはお父様にお任せして、少しばかり私にお小遣い多く下さい」
「面白そうだから、今回はカティルちゃんのお手伝いをして上げるわ」
私の考えが面白そうじゃなくて、仕立てたら、面白そうって方ですよね。まあ、どっちにしろ、私に益が出るならそれで良いんですけど。
「では、お母様、頑張ってください」
母に望みを託し、本日のお仕事は終了。後は何をしようかな。お勉強はしないとならないが、私的には、分類仕事なので、お仕事終了した今、勉強はしない。
したくはないが、この世界、娯楽が少ないんだよね。小説とかも娯楽大衆向けってまだ浸透していないみたい。数冊はあるけど、大半が歴史とか、参考書みたいなのとか、百科事典みたいなので占められている。
アンバランスなことに、印刷は普及しているので、本も比較的安価になっている。
いや、この前読んだ歴史書に、宗教家が宗教の普及のため、経典を広く行き渡らせることを考えた末に、印刷技術を発展させたらしいんだけども。
その過程で、識字率が低いことを思い出して、教会で読み書きを教えることを推奨したらしい。
とにかく、印刷に関しては、色々と順番がおかしいが、どんだけその宗教好きなんだろうと思い、なんか、こう、前世の夢中になりすぎて白熱する人たちを思い出したよね。
この世界って、娯楽が少ないとは言ったけど、ギャンブルはそこそこ発展している。なのでカードゲームとかはある。でも、カードゲームとかって、一人で遊べない。なので、読書とか、私の好む一人で完結する娯楽が少ないってこと。
だってね。七並べとか、一人でやっても楽しくないし。
パーティーゲームとか、一人でやってもそこそこ嵌まるものはあるけど、やっぱり、皆でわいわいとやるのか面白いのも事実でしょ。
いや、パーティーゲームだって分かってるから、虚しさが一入なんですよ。
「文才が、せめて少しでも文才があれば」
なければ自分で書けばいい。そして、もっと良いものが出てくるのを待つのだという考えは素晴らしいけど、最初の一歩で躓く文才のなさは、もう、いかんともしがたい。
読めれば書けるわけじゃないんですよ。演劇好きなら演じられるって言わないじゃん。
なんで文字はハードル低いんだろうね。そりゃ誰でも書けるよ。文字。でも、書き取りと文章って別もんだよね。
と、日々鬱屈している。
むしろ、面白可笑しい歴史書を探すことに情熱を傾けるべきだろうか。
たまに、歴史書なんだか、妄想なんだかって言うのがあるんだよね。なかなかに面白いんだよ。いわゆる、仮説の話をぶち込んで脱線させているとかね。脱線から戻ってくるものもあれば、そのまま主題がどこかに行ってしまったままで終わっているものもある。
脱線していなくても、独自解釈が強くて、いやその人そう言う人っぽくないですよねって言うのとか。
あと、突然方向性を変えちゃった為政者とか、実はあの人は影武者だったんじゃないかとか、双子で入れ替わったとか。眉唾なのか、本当なのか分かんないのが面白い。
主題が行方不明になっているのは、印刷されていない手書きの本が多いんだけど。
さすがに、これを印刷して出版しようと思う人は居ないよねって言うネタだったし。
世が世なら、禁書指定されてると思う。
でも、歴史書としては、微妙だけど、もしもこうだったらと言う話だから、もう、確実に読み物なんだよね。
暇つぶしには最高なんですよ。
この部分だけ抜粋して、本にしたら面白くないかな。
なにげにこの歴史書書いてる人、ロマンスもぶち込んでくるんだよね。
書くのは無理だけど、面白いとこだけ抜粋して、再編するのは出来るかな。
よし、暇にあかせてやってみよう。
そんなわけで、歴史書の再編に取りかかった。再編は別に自分が楽しむだけなので、本に栞突っ込んで、ここからここまでみたいな印を入れて、別紙に参考文献としてリストを作り、更に時代背景と年代をプラス。
そこに、ちょっと、自分の感想的なのとか、他の歴史書では別の見方もしてるとか、主節はこっち。みたいな注釈入れて、更に、注釈の主節の歴史書を記載したりと、なんか、リストが逆引きみたいになってきている。
これで良いのかと、ちょっと方向性を見失いかけている気がするが、自分が楽しむためのものなので良いかと、割り切った。
だって、楽しいから。楽しいは正義だよね。人に見せると思ってるわけじゃないから。
リストが自分で見て楽しければ良いんだよ。
とにかく面白かったので、一人でちまちまと作業を進めていった。
いや、手伝ってくれるような仲間は居ないしね。歴史書好き仲間は居ないし。雇える人間もいない。
なので、孤独に作業を進めてた。
半年後、入れ替わりネタ編、愛憎編、とんでも編と、三つほどの再編リストができあがった。
「いやー。意外に多かった。後三つ四つ作れそう」
読んでるときはそれほど感じなかったけど、意外ととんでも歴史書は多かった。そして、こんだけ読んでたのかと、過去の自分に慄いた。
自分が楽しむだけとは言え、ここまで作り上げると、栞を抜いてしまうのも勿体ない。ダメでもともと、出版出来るか、掛け合ってみようかな。
あわよくば、他の人もやれば良いと思うんだよ。私のまだしらない歴史書とか、絶対あるだろうし。
こう言う歴史書って、個人でコツコツ作ってることが多いので、どっかの貴族の蔵書だったり、個人の遺物だったりすんだよね。
貴族の道楽だったりすると、まあ、表にほとんどで回ってなかったりするからな。
そんなことも加味して、色々と考えた結果、とんでも歴史書を多く出版している出版社に突撃をかましてみることにした。
いや、その、こう言う読み方もあるって、示したら、そう言う死蔵されてるのが世に出て来ないかなと。個人的欲求もあった。
だいたい、知る限りのは読み尽くしつつあるんだよ。新しいもの欲しいんだよ。
一番は、娯楽小説出ることだけどね。
まずは、一般受けしやすい愛憎編を出版社に売り込むのだ。
さて、そこで問題になるのは、私の年齢です。
兄二人は成人してるけど、下手を打つと、巻き上げられる可能性が高い。だって、持参金多ければ、それなりの所に嫁や婿に行ける可能性が高くなるしね。財産持ちってだけで、付加価値着くんだよ。
そんなわけで、執事にちょこーっと相談をして、着いてきて貰った。父には内緒だ。
いやまあ、本当に出版って話になると、契約とか色々と書類があるので、どうしたって執事に着いてきて貰う必要がある。私じゃ契約なんて分かんないからね。
母には、ちょっと大きい物買いたいので、執事を連れて行くと伝えた。買わないのは、予算が無理だったって、言い訳を用意した。
本は事前に詰めておいて、執事に先に運び出しておいて貰った。私が馬車に乗り込むと、執事の隣には、木箱が鎮座している。
「一つ確認するけど、それ、あなた運べる?」
本って重いんだよ。そして木箱も重いんだよ。
「もちろん。運び入れたのも私です」
「意外に力持ちなのね。ありがとう」
下男も連れて行かないといけないかと思ったけど、執事が運べるって言うことで安心した。秘密を守るには、関わる人間が少ない方がいい。
「まあ、ダメで元々だから、あまり気にしないで」
子供特有の万能感から来た蛮行だと思ってるかも知れないので、一応言っておく。上手くいったら儲けもの。お小遣いも貯めてるので、最悪は、自費で出版してみようと思ってる。
だって、ここまで来たら、ちょっと本にしてみたいって。なにより、上手くいったら、これを読んで、小説を書く人が出てくるかも知れないし。書くのは無理だから、どこまでも他力。
先ずは話しを聞いて貰って、聞いて貰えるなら、資料の持ち込み。手順を考えながら、自分を落ち着け、出版社の扉を開けた。
「初めまして」
受付の人に挨拶をすると、凄く驚いた顔をされた。女であることか、子供であることか、おそらく貴族らしいと見て取れたことか、色々と驚く要素が多すぎて、どこなのか全部なのか分からない。
とにかく愛想良く笑って置いてみた。
「実は、本を出したくて、お話をしたいのですが」
子供の戯言でも、貴族を無碍には出来ない。苦肉の策と言わんばかりの空々しい笑みと供に、とりあえず、応接室にと言われて、通された。
「どのようなご用件でしょうか?」
少し怯えた顔をしている男性。
「じつは、歴史書の再編をしてみたので、それを出版して貰えないかと思いまして」
私は、愛憎編と名前を付けたリストをその男性に手渡した。
男性は、じっと私の顔を見ながら、ペラペラとリストをめくっていく。あれでリストを読めているのか疑問だが、しばらくページを進めるといつの間にかリストに集中したようだ。
紙を繰る音だけが聞こえてきて、何も言われない。ドキドキとする。いや、ダメならダメで、自費で出せばいいんだよ。
まんじりともしない時間を過ごし、男性がゆっくりと顔を上げた。
「お嬢様が、これを全て読まれたのですか?」
「はい。歴史書が好きで。ディムエル、馬車から資料を持ってきて」
読んだかどうかの真偽はさておき、資料を私が持っていることは証明しなくてはならない。いやだって、リストにある資料がなければ、リストが嘘ってことになるからね。
こちらの発刊のものが大半とは言え、手書きの歴史書も幾つかある。それは現物がなければ確認出来ないからね。
執事に頼んで資料を持ってきて貰うと、男性の顔が引きつった。
まさか今持ってくるとは思ってなかったんだろうな。
「こちらが資料です。量がありますので、中を改めて貰う時間を取りまして、一週間後にまたまいります」
「はい?」
なにやら発音がおかしかった気がするが、そろそろ帰らないと、アリバイ工作も難しくなる。
「では、一週間後に」
と、にこやかに告げて帰ることにした。隣で執事が妙な顔をしている。資料のリストは持ってるので、盗難は大丈夫だろう。
一週間後、出版社をたずねると、なんだか作業が始まったらしく、もう少し資料を貸し出して欲しいと言われた。
一週間でいったい何があったのか。さっぱり分からないが、無事本になるらしい感じなので、良かった良かった。
その後、報酬とかの契約は、執事に任せ、報酬の支払いを私が成人するまで、こちらで取っておいて欲しいとお願い。さすがに家庭の事情を赤裸々に語るわけにもいかなくて、言葉に詰まっていると、相手が諸々察してくれたようだ。そうして、なんとか確約が取れた。
私が今受け取ったら、確実父に巻き上げられるからね。取り置きは必須事項だったんだよ。
後で聞いたところ、こんな子供がこんな事やるはずないから、表に出たくない大人がやらせているんだと思ったらしい。
確かに、出版が決定したときには、誕生日を迎えていたので、二桁になったとはいえ、十歳。未成年だもんな。
私が自分で作ってリスト書いたなんて、思わないよね。
自分が言われても、まさかって思う。
そんな裏話を後でされたが、私にどうしろとと思いつつ、笑っておいた。気まずくなると笑ってごまかす民族性が今生でも引き継がれてて、ちょっと悲しくなるが、性は変えられないものなんだと割り切る。
とんでも歴史書の再編集本だが。
受けた。バカみたいに受けた。
愛憎編が受けたので、次は入れ替わり編を再編中。
引用正史も書いたので、入れ替わり編の手引書として、正史の歴史書も出ることになって、そちらも編集中だ。
愛憎編は、元のとんでも歴史書が出版、増刷されるくらいには、大受けしたんだけど、元の知名度が上がって嬉しいってのと、なんだよ皆、読み物娯楽に飢えてたんじゃん。書けよっ。と、思ったよね。
思ったので、私の売上から切り崩しても良いので、オリジナルの空想物語みたいなのを持ち込んだ人居たら、ちょっと支援して欲しいって言いましたよね。
私の代わりに、頑張って書いて欲しい。そして、いずれ一大ブームを築いて欲しい。主に私の娯楽のために。
おかげで無事、収入も確保できて、今後の生活基盤の目処も立ってきた。個人的には順風満帆だ。
もう少ししたら、家の物色とかしようかな。まだ成人してないから、買えないけど、手付けを渡して、取り置いて貰うくらいは出来るかも知れないし。
あと、色々と見たい。建てて、カスタマイズするのかとかも考えたいし。
夢が広がるな。
ドレスの話をすると、大変家族のどろっとした話になってきたので、すっぱりと切りました。
ちなみに、家庭でよくある、大金なので、両親管理と銘打って、巻き上げられたよねって言う展開だったので、どう取り繕っても、どろっとする。
さらりと読める感じで止めておきたかったんで。