64話 都大会後半戦
都大会は週末の4日間開催されるが、インターバルとして間に平日を挟む。
前半を終えた後、瑠那は熱を出して学校を休んでしまった。
雨の中、レースを走った反動だった。
「瑠那、体調大丈夫? 熱は下がったって聞いたけどさ」
「大丈夫だ。問題ない」
大会3日目、そう言いつつ、瑠那はいつもよりも入念にウォーミングアップをしていた。
インターバルの間、まったく練習ができていなかったのだ。
「流石の瑠那ちゃんでもコンディションが上がらないみたいね。都大会で終わるレベルの選手じゃないはずだから、個人200mは心配してないけど……っていうか、なんで麻矢はピンピンしてるのよ」
「鍛え方が違うからかなぁ?」
「分かった、バカなだけでしょ」
同じく雨の中のレースを走り、足を挫いたにも関わらず、麻矢は完全に復活している。
「なんにせよ、後半戦は私が頑張らないといけなさそうだな!」
後半は200m、800m、マイルがあり、四継や100mのあった前半とは逆に、体力の消耗を気にしながら戦うことになる。
マイルで3ラウンドを戦う場合、どのラウンドで誰を使い、どんなオーダーを組むかは戦略性が必要だ。
「みなさん、集まってください」
審判団の仕事で不在にしているロリ先生に代わり、蒼が部員達を集める。
「今日から後半戦ですが、3日目の今日はマイルの予選と準決勝、200m、800mの予選があり、スケジュールはハードです。個人種目を犠牲にせずマイルを勝ち上がるため、臨機応変に、そして戦略的に、組織的に動きましょう」
「「はい!」」
ここから先は、個人種目との兼ね合い、そしてコンディションを見て、ラウンド毎に、臨機応変な対応が求められる。
リソースは限られているため、適切な判断ができなければ、体力を消耗し過ぎる、あるいはラウンドを突破できないことになるのだ。
「それでは、マイルのオーダーと戦略を発表します」
蒼に代わり、タブレットを持った香織がオーダーを発表する。
1走:田丸歌
2走:文月麻矢
3走:中村綾乃
4走:皆川蒼
「マイルは、トラックの個人種目がない、部長と麻矢を主力に戦います。そして予選では、800mに出場する2人を起用しました。すでに個人400mでスターティングブロックからの400mレースを経験している歌ちゃんを1走に。1500mでオープンレーンのレースを経験している綾乃ちゃんを3走に起用します」
マイルの予選を走った後、800mの予選に出場する歌と綾乃は、ともに体力に自信がある。
また、本気のレースの前には身体を温めておきたいタイプだ。
2人の実力からして、ベストに近いタイムが出せれば準決勝進出ができる。
逆に、ボーダーラインはせいぜい自己ベスト+2秒程度まで。
予選で流す余裕はないと想定され、ウォーミングアップで照準を定める種目は800m予選だ。
「マイルの予選は、このオーダーなら余裕を持って通過できると思われます。予選通過の予想ボーダーは4分15秒。平均ラップタイム63秒ですので、4人全員が流して走っても問題はありません。それぞれ、次のレースに向けたウォームアップの仕上げとしての走りをしてください」
歌と綾乃はそれぞれ、自己ベスト60秒台の選手だ。3秒分のゆとりがあるため、今日の風や気温、自分のコンディションから、次の800mでどのように1周を走るのか、イメージを固めることができるだろう。
また麻矢も58秒台の実力を持つが、100mの選手なので予選から本気を出すことは避けたい。
周囲との相対的なポジションを見つつ、60秒以上でのラップタイムで、先週に負った負傷の回復具合を確認する。
3人がそれぞれ自分なりのスピードでバトンを繋いだ先、4走の蒼は調整役を担う。
本気を出せば53秒台の『蒼炎』の力をどこまで使うか、あるいは温存できるかは不透明だ。
故に、最終走者として状況に合わせて力を使い、最終的に組の1着でゴールすることが求められる。
「今日の夕方、最終種目になるマイルの準決勝のオーダーは未定です。200mに出場する3人を投入するパターンも想定はしていますが、全てはこれからのレース次第です」
香織の言う通り、夏の森チームは個人200mに出場する3人、美咲、瑠那、陽子を温存している。
負傷がない限りは蒼と麻矢を続投するが、残りの2枠は状況により可変だ。
「準決勝通過、つまり決勝進出の予想ボーダーは3分59秒、つまり平均ラップ60秒切りとなり、予選通過のボーダーから一気にレベルが上がります。今日の夕方には、そのスピードが求められること、そして明日も大会は続くことを念頭に置いて1日を戦ってください。以上!」
「「了解!!」」
58秒クラスのラップタイムを確実に出せる美咲や瑠那を投入すれば、準決勝を勝ち抜くことは容易いだろう。
しかし、大会は明日も続き、200mの準決勝や決勝、そしてマイルの決勝が控えている。
ともに繊細なフォームと走りを武器とする2人に、必要以上に負担を負わせるわけにはいかない。
「やっぱりマイルはさ、私達みたいな、トラックを周って来る選手の戦場だよ。確かに決勝の1本だけなら100mや200mの選手も速い。けど、予選から……個人種目にも出ながらラウンドをこなしていくような、泥臭い戦いではさ、私達がチームを引っ張らないといけないと思うんだ」
レースに向かいながら、歌は綾乃に語る。
400mや800mを走る自分達が戦うべき戦場だと。
「そうだね。泥臭い仕事こそ、リザーバーの私達が今挑むべき戦場。そして、だからこそ、足は引っ張れないよ」
2人はこの都大会後半戦、3つの目標を持っている。
1、怪我をしないこと。
2、好調を維持すること。
3、できるだけ多くのレースを走ること。
エース格としてチームを引っ張れないからこそ、せめて、チームの足は引っ張らないようにする。
その上で、エース格のメンバーが不安なく全力を出せるよう、下のラウンドは極力自分達が引き受ける。
同時に引き受けられるだけの実力を見せ、信頼を得る。
そして最後に……800m、ラウンドを進めるような戦いをする。
上のラウンドに進めば、おのずと一緒に走ることができるから。




