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51話 タイムトライアル

 タイムトライアルは8人ずつ行われた。

 蒼と香織を除く8人の一斉スタートだ。

 現在の持ちタイム順にアウトレーンから並んで走る。


「いいか、しっかり集中して”実力”を発揮しろよ! ただし”実力”以上までは出そうとするな。あくまでも、リレーでラウンドを勝ち進むためのオーダーを決める参考にするんだからな。日に1本しか出せないような出力で走られちゃ参考にならん! 地の力で走れ!」


 ロリ先生はそう言うが、陽子は難しいなと頭を抱える。

 

「えーと、つまり……全力走だけど、意地を張り過ぎないで走れってこと……? 難しいー!」

「あんまり深く考えすぎないほうがいいよ。まぁ、こないだの200m決勝みたいに、エネルギー使い切っちゃうような感じにさえならなければいいんじゃないかな」


 歌がアドバイスしてくれるが、陽子はひとまず練習でやっていう全力走と同じように走ろうと決める。


「判定側、オッケーです!」


 香織がゴールタイマーと計測器をセットし、タイムを計る準備を終える。

 スターターなどは立身大付属のマネージャー陣が手伝ってくれるようだ。


「それじゃ私達は、高見の見物といきますか」

「あなた達ぃ、横から見れる機会は少ないから、しっかり見ておくのよぉ」


 スタンドからロリ先生と凌監督、そして蒼と立身大付属のメンバーが観戦する。

 タイム以外にも実際の走りを見てオーダーを考えるのがロリ先生の方針なので、タイム計測に加えてビデオ撮影、そして肉眼での観察をするのだ。

 蒼は実力が分かっているため、アシスタントとしてロリ先生とともに観察する。


 スターティングブロックを使った100mのタイムトライアル結果は、2本走って良い方のタイムを使ったが概ね予想通りだった。

 

 湖上瑠那 12秒1

 文月麻矢 12秒3

 葉山美咲 12秒6

 日向陽子 12秒9

 田丸歌  13秒0

 中村綾乃 13秒4

 祭田花火 13秒7

 水野伊緒 14秒8

 

 正式タイムではないとはいえ、陽子は2本とも12秒9で4番手だった。

 また、花火が地区大会の記録13秒82からやや更新しており、伊緒も14秒台を記録したので満足そうだ。

 伊緒は入部当初にグラウンドで計ったら16秒0だったので、短期間で大幅に記録を短縮したと言える。

 もっとも、それでも大差で最下位なのだが。

 

 計測が終わるたびに小休憩をとって息を整える。

 普段の練習に比べれば息は苦しくないが、全てが全力なので精神的な消耗があるなと陽子は思った。


 スターティングブロックを使ったタイムトライアルの次は加速走だ。

 1人ずつ走るが、10mの加速区間を与えられる。

 10m地点を通過したタイミングで計測を始めるので、四継の2~4走を想定した計測方法だ。

 走り方にもよるが、加速なしで走った場合よりも、おおよそ0.8秒程度速くなる。

 また、号砲に反応してからの計測ではないので、リアクションタイムが0.1秒程度から0秒になり、合計0.9秒程度速くなる。

 

 順位の変動はなかったが、基準値通りの結果ともならなかった。

 麻矢や花火といった前半型の選手は加速なしの場合からの短縮が少ない。

 逆に陽子や歌といったスタートを得意とせず、それでいてトップスピードの高い選手は基準値以上の短縮を達成している。

 

 湖上瑠那 11秒2 -0.9秒

 文月麻矢 11秒5 -0.8秒

 葉山美咲 11秒7 -0.9秒

 日向陽子 11秒8 -1.1秒

 田丸歌  12秒0 -1.0秒

 中村綾乃 12秒5 -0.9秒

 祭田花火 13秒0 -0.7秒

 水野伊緒 13秒9 -0.9秒


「陽子ちゃん、凄いじゃん! 1.1秒も短縮する選手は珍しいよ」

「確かに、部長でも1秒とかよねぇ」

「あ、ありがとうございます! へへ、ロングスプリンターに転向したからですかね、前よりもトップスピードが出るようになったからっていうか。」

「バカヤロー! 確かに加速走のタイムは立派だが、1.1秒は縮め過ぎだ! 逆にもっとスタートと加速の練習をしろ! 花火ちゃんも、まだまだ体力が足りてないぞ! せっかく10mの加速区間をもらってるのに、ラスト10mでバテバテじゃないか!」

「「が、がんばります!」」

 

 麻矢と美咲に褒められて陽子は照れるが、ロリ先生に怒られる。

 比較元がついさっき計測したタイムなので、基準値から大幅に外れるということは弱点の露呈なのだ。

 ついでに花火も怒られ、タイムトライアル後の走り込みが確定した。

 ロリ先生は「個人種目で出場しないから、大会前でも存分に走り込みができるなぁ!」 と楽しそうに言い、花火が絶望している。


 100mの最後はコーナー走だ。

 四継のスタート地点から1レーンを1人ずつ走り、実際に1走として走った場合のシミュレーションをする。

 統計的には1レーンと8レーンで0.18秒の差が生まれると言われており、1レーンでコーナーを走る場合、直線タイムよりも0.2秒程度遅くなるとされる。

 しかし美咲のようなコーナー走を熟知している選手の場合、その差は極限まで小さくできるため、腕次第でライバル相手に0.2秒分稼げるとも言える。


 結局、直線タイムとの差が0.0秒だったのは美咲だけ。

 瑠那と伊緒が0.1秒差だったが、地のスピードが上がるほど走りづらくなるため、伊緒は「スピードをつけても同じように走れるように注意し続けな」とロリ先生に釘を刺される。

 

 しっかりと休憩を取ってから、最後のタイムトライアルで400mを走る。

 持ちタイムが一番速い美咲が8レーン、花火が1レーンだ。

 

 スタートしてすぐに、陽子は認識の甘さを実感させられた。

 都大会への出場権を得た自分は、400mでそれなりに速いと、やや思い上がっていた節があった。

 しかし地区大会9位の成績は素晴らしいものの、1年生がいきなりトップに上り詰められるほど、400mという種目は甘くない。

 そもそも、他の種目に比べて、400mは疲労度が段違いなのだ。

 故に、他に本命の種目を持つ選手にとって、掛け持ちの対象としては選ばれづらい。

 400mを専門にする選手はかなりの体力トレーニングを積んでいるため、他の種目へエントリーする場合もあるが、逆はなかなかない。

 その結果「実は400mも速いけど出場していません」という、潜在的な強者が存在することになる。

 そして彼女達は、マイルリレー、それも真の強者は決勝に絞って現れる。

 専門種目とするには練習量が物を言う種目であり、1本勝負であればスピード(才能)が物を言う種目でもある400m、どちらの面から見ても陽子はまだまだヒヨッコだった。

 地区大会で出した自己ベストから約1秒と大きくタイムは伸ばしたものの、部内でも5着だ。

 走っていない蒼も含めれば6番手、地区9位という数字に浮かれていたが、現実を突きつけられた。


 葉山美咲 57秒8

 湖上瑠那 58秒3

 文月麻矢 58秒4

 田丸歌  60秒1

 日向陽子 60秒2

 中村綾乃 60秒5

 水野伊緒 68秒5

 祭田花火 69秒0


「なんていうかー、あの子の走り方、不格好ですよね。加速に乗ってストライドが伸びたかと思えばスパートでジタバタし始めて」


 スタンドから陽子の走りを眺めていた宗が言う。


「宗ちゃん、お口が悪いですよ。それに、うちの昭穂のフォームも似てるんですから」

「あ、やっぱり幸ってば、私のことそう思ってたんだ!? 自覚はあったけど……」

「あっ昭穂先輩すみません! 私は昭穂先輩の走り方、全力って感じがして好きですよ!」

「必死に見えるよね……フォローさせちゃってごめんね……」


 昭穂自身も自分の走りを不格好だと自覚しているが、それでも今日のタイムトライアルで59秒2を出していた。

 マイルのラップでは限界を超えて58秒0を出しており、陽子よりは断然格上だ。

 そもそも、夏の森も立身大も平均ラップ57秒2のチームなのだ。

 2~4走が持ちタイムから1秒近く速くなると言っても、平均持ちタイムが58秒0でなくてはならない。

 例えば立身大の持ちタイムの場合、栄子が57秒、幸と宗が58秒、昭穂が59秒という具合だ。

 陽子がマイルのエースを目指すならば、60秒台で足踏みしているようではいけない。

 自分がいなくても、十分に速いメンバーでリレーを組めるという、これまで頼もしく思っていた現状を、陽子は悔しく思った。


「それにしてもぉ、こんな少人数のチームで、12秒台と50秒台でリレーメンバーを揃えられるなんて贅沢ですねぇ。リザーバーも選り取り見取り……だからこそ、悩むところではありますがぁ。どうするんですかぁ? かのん先輩」

「そうだな……1年生の2人の使いどころ次第で大きく変わるが、こいつは難しいぞ。とりあえず、酒入れて考えるか!」

「またですかぁ……今日、文子先輩がいないからって私を保護者代わりにしてぇ」


 その後、焼き鳥屋で夏の森と立身大の暫定オーダーが決まったのだった。

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