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37話 立身大付属の200m選手

 2日目最初の種目はマイルリレーの予選。

 夏の森は美咲を温存して綾乃を起用するオーダーだったが、無事に決勝進出となった。

 直後に200m予選があることを考慮しての温存だが、綾乃も800mのタイムレース決勝が昼にある。

 しかし綾乃は「中距離選手にとっては、ウォームアップみたいなものなんで」と快く引き受けた。

 すでに個人種目を終えている麻矢、蒼を1走、2走に据え、前半でトップを確定させた。

 個人800mが控えるが決勝は走らない綾乃を3走にし順位を維持。

 個人800mとマイル決勝をともに走る歌は、半分流すペースながら1着でゴールを決めた。

 人数が少ないチームながら、リザーブまで含めて選手の質が高いことを証明する。

 

 対して立身大付属も決勝進出を決めるが、その走りの内容は夏の森に比べればイマイチだった。

 1走、2走を走った個人400mの出場選手はトップを取れず、3走のエース、渋沢栄子(しぶさわえいこ)のスパートでようやくトップを取れたのだ。

 直後に個人200mの予選を控え、本来であれば流してゴールする予定だったであろう準エース、松下幸(まつしたさち)は少ないリードでバトンを受け取り、あまり余裕を持てずに走ることとなってしまった。

 実力のある選手なので、個人200mの予選通過に影響はないだろうが、200m決勝、そしてマイル決勝には響きかねない。


 ゴールとともに大勢の下級生が駆け寄り、メンバーのアイシングを手伝う。

 まるでF1のピット作業のように、手際のよい動きだ。

 当然のことをされている、といった表情の栄子と幸に比べ、1走、2走を務めた3年生の2人は気まずそうにしている。

 すると、観戦していた監督の凌が現れると同時に、1走、2走の2人はビシッと姿勢を正す。

 まるでこれから言われることが分かっているかのようだ。


「まったく、あなた達は期待外れねぇ。ラップタイムも自己ベストに比べて平凡……2大エースを入れていたからよかったものの、もう1人変えてたら予選落ちだったかもしれないわよぉ?」

「も、申し訳ございませんっ」

「個人の400mも、校内のタイムトライアルでタイムを上げたからエントリーさせてみたけれどぉ……期待外れの決勝敗退。自己ベスト相当なら都大会出場も可能だったのに……うちのチームに、勝てない子にいらないのよぉ。決勝ではあなた達は使わないつもり、他の選手のサポートに回りなさぁい」

「「はい!」」

 

 戦力外通告をされた2人に、マネジリーダーだろうか、他の部員から早速指示がされる。

 つい先ほどまで、何人ものサポートがついていたリレーメンバーだったとは思えない扱いの変化だが、当人達もそれを受け入れているようだ。

 肩を落としながらも、他の選手のサポート業務に向かっていった。


 200m予選。

 陽子はスタート地点で出番を待っていた。

 すでに先の組で走った美咲、瑠那は1着でゴールし、タイム的にも決勝進出は間違いなしだ。

 陽子は最終組なので、走り終わった時点ですぐに決勝進出の可否が分かる。


(ここまでの予選通過ボーダーは27秒80……この組で2着以内に入るとして、27秒5台は出さないといけないな。けど、大丈夫。練習では26秒台で走れてるんだから)

 

 陽子は決勝進出に必要なタイムを計算する。

 練習通りに走れば、決勝進出は問題ない。

 このラウンドで重要なのは、むしろ決勝で不利なレーンに割り振られない、いい順位に入ること。

 仮に予選通過者の中で最下位の16位となると、決勝は一番コーナーのきつい1レーンに配置されてしまう。

 とはいえ予選順位で組も分かれるので、頑張って8位に入っても1レーンなのだが。


(流石に自分は全力でも2組目だろうから、心配はいらないんだけど……予選10位、悪くても12位には入らないと。というか12位以内じゃないと都大会行けないしっ)


 よし。とジャージを脱ぎ、ユニフォーム姿になる。


(ん? あれは仮想敵の……)


 陽子と同じタイミングでユニフォーム姿になった選手は、立身大付属のユニフォームを着ていた。

 本田宗(ほんだそう)松下幸(まつしたさち)の2人に次いで3人目の出場者。

 2年生、盛田昭穂(もりたあきほ)

 伊緒が調べたが、200mは主要大会では初出場とのこと。

 いくつか記録会のデータはあったが、どれも古く参考にならない。

 一つ言えるのは、立身大付属で個人種目、それも競技人口の多い200mの出場枠を獲得しているということは、並みの速さではないということだ。

 それも、伊緒が言うには立身大付属は伝統的に200mが強い学校らしい。

 中学時代、200mで全国制覇を成したプリンセスの一角、『花の姫君(プリンセス・フルール)花房澪(はなぶさみお)

 同じく中学時代、200mで関東3位の実力を誇り、関東6強に数えられた『眠れる森の美女スリーピングビューティー木下昼寝(きのしたひるね)

 次期部長にして、四継で麻矢を超える最高速を見せつけた松下幸(まつしたさち)

 そして本当は、彼女こそが関東6強に数えられるはずだった……と言われ、すでに100mで瑠那に次ぐ2位となった本田宗(ほんだそう)

 直近の世代だけでも、これだけの実力ある200m選手がいる。

 ならば、立身大付属で3枠目を獲得した選手も、きっと速いのだろう。

 しかし陽子は、それを超えると宣言したのだ。

 まずは予選、相手をよく見極める必要がある。

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