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3話 瑠那との再会

 翌日。先生も生徒も期待に満ちた、体育の授業が始まった。


「体育の授業を担当する口里(こうざと)かのんだ! 体育は1組と2組の2クラス合同でやるからな、賑やかにやっていこう!」


 朝礼台の上から元気いっぱいに話すのは体育教師の口里先生だ。

 147cmの小柄な身体に年齢不詳の童顔、名字も相まって生徒の間では『ロリ先生』と呼ばれる存在である。

 ちなみに教員間では『かのんちゃん』と呼ばれ、これはこれで危ない響きに聞こえる。

 本人は『かのん先生』と呼ぶように主張しているが、今のところあまり浸透はしていないようだ。

 そんな彼女は陸上部の顧問であり、体育の授業を通して部員候補を探している一人でもある。


「あれがロリ先生……噂通りの幼女だな」

「あれでも指導力は本物って噂なんだよ? 陸上界でも有名で、うちの学校も今年はかなり強く育て上げたんだとか」

「へー。でも有名って、それ見た目も半分くらいあるんじゃ……」


 陽子(ようこ)伊緒(いお)がヒソヒソと話していると、背後にぞろぞろと人が集まってくる。

 どうやら授業が空きコマになっている先生達がこぞって見物に来ているようだ。


「これは思った以上にギャラリーが大勢ね」


 伊緒が肩をすくめて言う。

 陽子はプレッシャーに弱い方ではないが、ここまで視線と圧を感じる体育の授業も珍しいだろう。


「スポーツテストの練習ってことで、一通りの種目やるからなー! 順番にやっていくぞ。はぐれないように!」

 

 グラウンドと体育館にスポーツテスト用の会場が用意されており、エリアを回って種目をこなす形式だった。

 アトラクション感覚で、回ることができ、なかなかに退屈しない。

 あの子は運動会で活躍しそうだとか、もうどこそこの部が目をつけているだとか、クラスメイトと雑談をしつつ種目をこなしていく。

 しかし好成績を出した者は徐々に視線を集め始めていくことに、陽子は嫌でも気付いた。


「陽子、やっぱり運動神経抜群ね! でも実際にここまで凄いなんて間近で見てびっくり」


 伊緒が驚くのも無理もない。

 スポーツテストは記録によって1~10点のスコアが与えられるが、陽子はここまでこなした種目全てで10点獲得の記録を出していた。


「記録、2m15!」

 

 そして今度は、立幅跳びで2m15を跳び、10点の2m10のラインを超えた。

 

「おぉ~!!」


 これまでの記録から陽子に注目していたのか、記録が読み上げられると歓声が上がる。

 中学時代にもあったことなので慣れてはいるものの、陽子も悪い気はしない。


「陽子、凄い! 立幅跳びの10点はバスケ部やバレー部の3年生でも難しいって聞くんだから、1年生でなかなか出せる記録じゃないよ!」

「まぁスポーツテストくらいの記録ならね」


 飛び跳ねて興奮する伊緒に謙遜して言ってみるが、嫌味に聞こえなかったかな?と心配になる。

 伊緒のスコアは5点、たまに6点といった具合で、陽子とは反対に残念な具合だったからだ。

 握力にいたっては20kgに至らず3点となっている。

 小枝のような細腕が、まったく筋肉の膨らみがないままプルプルと震えているのは、誰もが見ていて不安になる光景だった。


 計測を終えた陽子達も、他の生徒のジャンプを見ようと砂場を覗く。

 丁度、隣のクラスの少女が跳んだところだった。

 ただの好奇心で見ていた者がほとんどだったが、あまりにふわりと、柔らかくそして軽く飛ぶものだから少し見惚れてしまう。

 いいジャンプだね、と陽子が言おうとして、異常に気付く。


「あれ、なんか距離、長くないか……?」


 陽子が気付くと同時に、計測係が記録を読み上げる。


「記録、2m40……!?」

「えぇ!?」


 予想していなかった圧倒的な数字に、全員がどよめく。

 上がったのは感嘆の声ではなく、困惑の声だ。

 陽子と伊緒も驚いて、改めて記録の主を見る。

 しかしその容姿に改めて驚かされた。

 砂場に立つ少女は、ピンと伸びた背筋にバランスの取れた体格、陶器のように白い肌が人形を思わせた。

 小さな顔に見合わない大きな遮光ゴーグルを着けているが、目元から下を見ただけで美少女と誰もが認める容姿をしていた。


「って、ゴーグル!?」


 体育館で計測していた際にはゴーグルを着けていなかった上、記録上も陽子ほど目立たなかったので誰も気付いていなかったが、彼女は今、ゴーグルを着けてグラウンドにいた。


「あー、湖上(こじょう)は紫外線アレルギーでな、目が特にダメなんだ。だから屋外ではゴーグル着けてるし日陰にいる時間も長くなるだろうが、分かってやってな」

 

 ロリ先生の解説を聞いて生徒達は納得するが、陽子と伊緒は互いに顔を見合わせていた。


「なぁあれって……まさか」

「こ、湖上瑠那(こじょうるな)!?」

 

 二人同時に気付き、素っ頓狂な声を上げる。

 湖上瑠那は中学3年生にして突如陸上界に現れ、無名選手から僅か数か月で全国区の選手となった陸上界のイレギュラー。

 東京南地区大会で優勝、東京都大会で100m第2位、関東大会でも第3位の成績を誇り、いつしかついた二つ名は『磁器人形(ビスクドール)』。

 陸上オタクを自称する伊緒は当然のように知っている選手であるが、同時に、陽子にとっても忘れたくても忘れられない選手だ。

 陽子が走ることをやめた理由が、彼女との出会いなのだから。


 彼女を忘れようと逃げた先、しかしそこにも彼女は現れた。

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