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7話 タピオカブーム到来

「みなさん、いらっしゃいませ。どのタピオカにする?」


 デレクのキラキラな笑顔に私はすっかり、射抜かれていたがどうにか冷静さを保つ。


 全く何でこんなにイケメンに弱いのだろうか。ジェイクの件で懲り懲りだったのに。


 ただ、『億万長者の愛と嵐』から抜け出てきたような男で条件反射のように私の心臓はドキドキとはしていた。


「どんな味があるの?」


 リリーがデレクに聞く。


「タピオカブラックティーとタピオカミルクの2種類だけですが、その上の色々とトッピングアレンジができます。チョコ、フルーツ、クリーム、タピオカ倍増もできます」


 デレクは私達にメニューを描かれたチラシを見せてきた。


 金額を見ると、意外と高かった。日本でも1,000円以上するものは珍しくはないが、同じぐらいの価値の価格帯で売っていた。その割にはメニューが少ないし、トッピングだって地味。やはり日本で売られていたタピオカ店と比べるとガッカリしてしまう。この国は紅茶や緑茶がないのでミルクティーや抹茶が無いのは仕方ないが、見劣りしてしまうのは事実だ。店長の顔以外はあまり魅力的では無いというのが正直な感想だった。


 しかし、リリーや牧師さんはもの珍しいのか、ワクワクした顔でタピオカミルクにトッピングをいっぱい載せて頼んでいた。アビーとジーンも子供らしく興奮して居るが、私は冷めるばかりだった。


「お客さんは何頼む? っていうか珍しい顔だね」


 デレクはニコニコと子犬のような笑顔で、私にきいてきた。客商売向けのキラキラとした笑顔で、またときめいてしまう。


「タピオカブラックティー一つ。トッピングはいらない。私は転移者なのよ」

「へぇ。転移者なんですか」


 デレクは一瞬、嫌なものでも見たかのような表情を見せたが、すぐにそれは引っ込めた。


「タピオカブラックティーですね。かしこまりました」


 デレクから出来上がったタピオカを受け取り、みんなで飲む事になった。デレクがちょっとしたベンチやイスを周りに置いていたのでそこで座る事ができた。クラリッサもすでにタピオカを椅子に座って飲んでいた。


「クラリッサ、こんにちは」

「あら、牧師さんたち。リリーやマスミもいるじゃない」


 クラリッサの片手にはたっぷりとクリームとチョコレートソース、その上に色鮮やかなチョコスプレーが散っている。過剰にトッピングを注文したようで、日本で見るよりもだいぶ派手なタピオカだった。どうもこの村の住人は派手好きのようで、リリーも牧師さん達も似たようなトッピングしてタピオカを飲んでいた。


「世の中にこんな美味しくて珍しいものがあったなんて」


 クラリッサはうっとりとタピオカを飲んでいた。まるで天国にでもいるかのような表情である。


「本当。すごく美味しいわ!」


 リリーもクラリッサに同意し、タピオカをごくごくと飲んでいた。


「そうですね。これはうまい」


 牧師さんも好評だった。


 しかし、私はあまり美味しいとは思えなかった。ブラックティーとタピオカは全く合わないことはないが、やはり日本にあるミルクティーと比べると劣る。ブラックティーの苦味とタピオカがあまり相性が良くないと感じた。私もたっぷりとトッピングして味を誤魔化せばよかったと後悔し始めた。これで日本と同じぐらいの金額を取るの詐欺ではないか。


 暑い日で、確かに冷たいタピオカは不味くいとハッキリとは言えないが、どうしても日本で飲んだものとは見劣りする。


「これは美味しいわ。毎日でも飲みたい!」

「クラリッサ、プラムに怒られますよ」


 私は目をキラキラさせているクラリッサに忠告した。クラリッサは軽度の糖尿病もちだった。杏奈先生のカフェの毎日通ったため発祥してしまったようである。とはいえ、プラムがきちんと食生活を管理しこの不便な村で運動不足にはならないようで、さほど重度ではばい。医者のジェイクの話によれば、完治できるかもしれないという話だった。


「そんな、冷静な事言って水刺さないでよ。タピオカ美味しくないの?」

「不味くはないですけど、日本で飲んでたのと比べると劣りますね」


 ついクラリッサには本音が溢れる。


「ニホンでのタピオカってどういうものだったんですか?マスミ」


 話を聞いていた牧師さんがニコニコと笑って聞いてくる。


「まず紅茶っていうこの世界にはない茶があって、それがタピオオカにピッタリなんです。正直ブラックティーとは微妙なところですね」

「そうなんだ。マスミは再現できる?」

「そうよ、再現して」


 牧師さんとクラリッサに頼まれたが、それは無理である。材料もレシピもない。


「牧師さん、飽きた!」

「私も飽きた!」

「こらこら、静かになさい」


 アビーとジーンは、タピオカを飲み終えてしまうと退屈したようで、空のカップをゴミ箱に捨てると、あたりを走り回り始めた。ヤンチャな様子に子供達に牧師さんは手を焼いていた。


「それにしてもこんなタピオカ屋ができてアナのジュース屋は大丈美かしら?」


 リリーは、タピオカを飲も干すと心配そうにつぶやいた。


 アナはこの村の農家の娘だ。時々ジュースの屋台をだし、商売をしていた。もともと杏奈先生のカフェで働いていたが、事件があったのでその仕事をしなければならないようである。アナのフルーツジュースは手頃な価格帯だし、何より農家でとれた新鮮な果実が楽しめるのが売りで、村の人達に親しまれているはずであるが。


「なんでもこのタピオカ屋ができたおかげで、すごい打撃を受けているみたい」

「アナ、大丈夫かしら」


 リリーの話を聞いて私は心配になった。


「アナのところ行ってみる?」

「そうだね。なんか心配ね、リリー」


 子供達に手を焼いて居る牧師さんやタピオカに惚れ込んでいるクラリッサは放置し、リリーと二人でアナのジュース屋に向かった。

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