6話 イケメンのタピオカ屋!?
「みんな、こんにちは!」
私はキッチンカーの周りの人だかりがにいる牧師さんに声をかける。今日は仕事が休みのようで黒い服ではなく、白シャツにジーンズ姿だった。生真面目そうな印象を与える牧師さんによく似合っていて、私はちょっとキュンとしてしまった。
「こんにちは。リリーも休み?」
牧師さんは、いつものように穏やかな笑顔を見せた。
「ええ。今日はちょっとサボりよ。マスミと一緒にタピオカ飲みにきたの」
「ええ。僕たちも噂を聞きまして。アビーとジーンは今日はお手伝い頑張ったので連れてきましたよ」
「わーい、タピオカだよ!」
「タピオカ!」
アビーとジーンは10歳の子供らしくキャッキャと人だかりの周りではしゃいでいた。
「ちょっと、アビーとジーン。静かにしないとタピオカ買ってあげないぞ」
「嫌だ〜!」
牧師さんの注意されてアビーとジーンはとりあえず大人しくなって、タピオカの買うため列に並ぶ。私とリリーも一緒に並ぶ。
「それにしても暑いわね」
私は手汗を拭う。
「そうですか? こんなもんですよ」
牧師さんは暑さに強いのか平然としていた。というか、この人は意外と強い。杏奈先生の死体を見ても平然としていた事を思い出す。
見かけはふわふわとした綿菓子みたいな男だが、中身はこの村のパンみたいに芯がある。私から見ると牧師さんはそう見える。
「マスミのいたニホンは暑くないの?」
リリーがちょっとニヤニヤしながら聞く。私がピンク色の目線で牧師さんを見ていた事がバレて居るのかもしれないが、仕方がない。
「まあ、年々温暖化とは言われていましたけど、南国ではないですね」
「そうなの? この国の南の方はもっと暑いのよ」
リリーのその説明によれば、タピオカが取れるギャッサバはこの国では取られやすいだろう。確かギャッサバは、温かい地方でとれるはずだった。
「マスミは日本でタピオカ食べてた事あるのよね?どんな味だった?」
リリーは好奇心が抑えきれないようで、さらに質問をする。
「プチッっとモチモチした感じかなぁ。独自な食感よ。食べたらわかる」
私の説明にリリーだけでなく、牧師さんやアビーとジーンもワクワクした表情を見せる。この村の人達はやっぱり元いた世界の人間と比べて、ピュアだ。
やっぱりテレビやスマートフォンという便利なもは、知らなくてもいいものを知ってしまうのかもそれない。かくいう私もこの村にきて、テレビで虐待、殺人、テロといったニュースを見なくなってから、性格が丸くなったような実感があった。もちろん、この不便な環境の影響のため、感謝や謙虚な気持ちが芽生えてきた。
「早く食べたーい!」
アビーはキャッキャと笑い、ジーンはアビーの金色の髪の毛を三つ編みにして遊んでいる。青い空の下、実の平和な風景でこんな殺人事件だらけの村にいる事を忘れそうになる。
杏奈先生が生きていた頃は1ヶ月に2回からほど殺人事件が起きていつと聞いたが、あれから殺人事件になろそうなものは何も無い。平和だ。是非このまま平穏無事な生活を送りたいと思いながら、列がすすみいよいよ私とリリー、牧師さんたちがタピオカを買う順番が回ってくる。
「いらっしゃいませ!」
店主のデレクが、白い歯を見せて笑う。
私の心は射抜かれたようにドキドキし始めた。
褐色の肌、彫りが深く、藍色の澄んだ瞳。筋肉質でガッチリとした体型。私が日本にいた頃、夢中で読んでいたロマンス小説『億万長者と愛と嵐』の金持ちハイスペヒーローのイメージとそっくりだった。